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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
戦いの姫、壇上に立つ。
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「楽を奏でるのは、ヤマ様の大切なご友人です。楽師と間違われるほどの腕前の方ではありますが、貸し借りのできるようなお方ではございません。ただお優しい心をお持ちの方です。姫様の窮状をお知りになれば、お慰めしようと言って下さるかもしれません。ただ、姫様にもご都合がおありでしょう。まずは侍女頭にお話しするとよいですよ」


 渡さずに済んだと明らかにホッとした少女は、そそくさと懐に宝石を隠す。


「では相談してきます」


 きっと褒められるにちがいない、と顔を輝かせた少女は浮き立つような足取りで踵を返す。転ぶのではないかと心配になったキーエンスの目の前で、やはり少女は草むらに足をとられて転倒する。


「大丈夫ですか?うす暗くなって参りました。ゆっくり行くといいですよ」


 手を貸すと、照れながら立ち上がる少女は懐を大事そうに手で押さえながら、足早にテントへと向かった。また転ぶのでは、と思い、キーエンスは追うように戦いの姫のテントへと近づく。馬車の周りには従者や侍女達が荷を整理したりと忙しげに立ち歩いている。明らかに違う者に仕えるキ

ーエンスに気づき、興味深げに見られた。


 戻って待とうかと思いあぐねた頃、戦いの姫のテントから数人の侍女達が出てくる。先ほどの少女がキーエンスの方を指さし、年輩の侍女が叱りつけている。


 指でさすのは、あまり行儀がいいとは言えない仕草だからだろう。


 年輩の侍女は慌てて歩み寄ってくる。キーエンスも足を向けると、慌てて駆けてきた。


「ぶしつけにもお待たせして申し訳ありません。道理をわきまえぬ若い娘ですので」


 深々と頭を下げる。貴族の姫に仕えているからか、薄桃色の愛らしい侍女服を身につけていた。


「お可愛らしい方です。姫様を想ってのことでしょう、将来が楽しみですね。育て甲斐がおありでしょう?」


 ほっとした顔で侍女頭らしき侍女は、キーエンスを眩しげに見つめる。


「ヤマ王はご不快に思われたのではないですか?」


「聞けばあの侍女が一人考えて来た様子でしたので、まだお話しをしておりません」


 ほう、と大きく息を付き、侍女頭は安堵に胸をなで下ろす。


「よかった…。ああ、失礼いたしました。わたくしは此度こたびの戦いの姫であらせられるナリー家がご息女、リゼビア様にお仕えする侍女頭でございます。ヤマ王付きの侍女様でいらっしゃいますね」


 キーエンスは頷き、優雅に一礼する。まるで王族かのような優美な仕草に、さすが一国の王に仕える侍女だと、侍女頭は内心で舌を巻く。


「リゼビア様が気鬱きうつでいらっしゃると聞きました。ヤマ王様のご友人は楽器を嗜んでいらっしゃいます。あちらの若い侍女殿は、ご友人の楽の音が、リゼビア様のお慰めになるのではとおっしゃていました。ですが、ご都合がおありでしょう?」


 ここまで念を押してもまだイズニークのことを楽師呼ばわりするようなら、一蹴しようとキーエンスは侍女頭の出方を見る。


「ヤマ王様のご友人を呼びつけるなど、礼を欠いた話でございます。…近々、晩餐にお招きいたしとう存じます」


 したたかにキーエンスをみつめ、侍女頭は微笑む。


 ヤマではなくイズニークが目的だが、晩餐に招く名目で連れてこいと言

っているのだ。曲が聴きたいなら直接テントへ来て頭を下げれば済むことなのに、なんとも気位の高い侍女達だ。


「…私はしがない侍女の身なれば、ヤマ王様のご都合を融通できる地位にございません。お招きの旨お知らせいただければ、ヤマ王様も検討なさるでしょう」


 キーエンスは困惑したように笑顔を曇らせてみせ、しなやかな動きで礼をしてきびすを返す。侍女頭の不満気な感情が伝わってきたが、あえて振り向かなかった。


 ヤマのテントへ戻ると、見張りの従騎士が近づいてきた。


「侍女殿。食事の用意が整いましたが、こちらにお運びしますか」


「ありがとう。卓を用意しますので、少し間をおいてからお願いします」


 丁寧な物言いをされた従騎士は、驚きで顔を赤らめ、元気良く返事をして駆けていった。


 不思議そうにそれを見送り、キーエンスはテントへと戻る。


「楽の音に惹かれた娘でした。可愛らしいこと」


 にこりと笑って奥から折り畳みの卓を運ぼうとすると、ヤマが取り上げてさっさと組み立てる。


 礼を言って卓を拭いていると、イズニークがじっと見つめていることに気づいた。


「いかがなさいました?」


「…その娘は、何か言っていなかったかい」


 楽器を撫でながら、静かに問う。


「---とても綺麗な音色だと」


 それだけ言うと、イズニークは少し待つようなそぶりをしてから、立ち上がる。


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