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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
戦いの姫、壇上に立つ。
122/264

 だん、と高く跳躍し、道端に投げ出された酒樽の山を飛び越える。散乱した生ゴミや酒の溜まりを器用に避けて着地し、巨体に似合わぬしなやかな動きで再度駆け出す。


 下町には珍しい金の髪は首の後ろで無造作に束ねられている。足音もなく駆けるたびに腰に帯刀した長剣が鈍い音をたてる。長剣の柄には紋章が刻まれていた。黒アザミの紋はヴランウェン家のもの。


 アザミは王太子の紋である。ヴランウェン家は王太子系の貴族なのだろう。


「オラオラ、もう終いかよ?大口叩いて逃げ出したワリには、情けねえなぁ」


 生ゴミにまみれながら道端で派手に転ぶ男を見下ろす。ゆったりとした足取りで男へ歩みよるが、長い足はわずか数歩で距離を縮めてしまう。


「痛い目に合わねぇうちに、出すもんだしな」


 脅しのために剣を取り出す必要もなく、ただ剣呑に笑むのみで、転がる男は縮み上がった。


 そんな一行を見物する物好きな者がいた。城下町での喧嘩は景色の一部のようにありふれたものなので、わざわざ興味を持って見る者などそういない。


 転がる男も気づいたようで、道端でこちらを見ていた少年に駆け寄った。


「た、助けてくれ!なああんた、金持ってるか」


 性懲りもなく通りすがりの少年にまで金を無心する男。


 レイダは苛立たしげに舌打ちする。


「いいかげんにしろよてめえ」


「け・剣!あんた傭兵か!」


 すがりつかれた少年の腰に帯刀された細剣に気づいた男が、歓声を上げる。


「雇う!10ベル…いや、50ベルやろう!この男を追い払ってくれ!」


 少年の背に周り、大声でまくしたてる。


 革の外套に身を包んだ少年は、フード越しに背後の男を一瞥した。


 軽く肩をすくめたかと思うと、一瞬にして体をひねり、背後の男の側頭部へ踵を打ち下ろす。


「断る」


 生ゴミと土に汚れた男が、レイダの足下に投げ出されるのと同時に少年は呟いた。その意外にも高い声にレイダは気づかず、どかりと男の首筋に手刀を打ち下ろして気絶させると、機嫌良く口笛を吹きながら転がる男の懐を漁る。


「おお、やっぱ持ってんじゃねえか。大人しく出せっての」


 財布を取りだし、中身をすべて取り出す。さらに足首や帯に隠された金も根刮ねこそぎぎ奪う。


 もう用はないとばかりに、レイダは奪った金を数えながら立ち上がる。


「ちと足りねえが、まぁいいか」


「…追いはぎ…ではないんだよな?」


 不安のにじむ呟きに、レイダは少年の存在を思い出す。


「おお?」


 振り向き、少年を見下ろす。顔はフードに隠れて見えないが、体つきは小柄で外套からわずかに見える剣の鞘は細く、細剣なのだとわかる。


 だが、その立ち姿に隙はない。年若く傭兵なんてものをやるからには、それなりの腕前なのだろう。


掛札かけふだで負けたのに、逃げやがったんだ。俺は正統な掛け金を戴いたんだ。追いはぎなんてセコイことしねえよ」


 剣の柄が二つ見えることに気づき、レイダは感心を込めて笑みを刻む。


細剣レイピア双刀そうとう使いか。おもしれえ。飲まねえか?おごるぜ」


 せしめた金を振りながら言うと、少年が首を傾げた。


 なにか見覚えのある仕草に、レイダは酔いかけの頭を働かせる。だが、思い出す前に少年はフードを取った。


「奢りに来たのだ。奢られる訳にはいかないな」


 無造作に編まれた輝くような金の髪、けれど匂い立つように美しい顔は薄汚い土色で隠されている。


 念入りなことにえもいえぬ色香の漂う首筋にまで、汚れたような色がついていた。間近でよくみなければ、女だとは思えない姿だった。


 章分けしました。中身は変わりません。


 レイダ、再登場。

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