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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
ルナリアの野望
120/264

15

「あの王子にも困ったこと。貴女でなければ、逃げ切れなかったでしょう」


 ため息をついて、ダラティエを見つめる。


「知っていたのか」


「フリアを嫁がせるためよ。…悪いわね、従姉妹殿」


「道理で報酬が多すぎる訳だ」


 ルナリアの王族は先を読む力があるとバンキムに教わっている。


 疲れたため息をつくキーエンスを、ダラティエは苦笑して見下ろす。


「もう充分働いてもらったわ、従姉妹殿。あとはこの方達が国へお帰りになるまで、仕えて欲しいの」


 わざとらしく、ヤマとイズニークへと笑顔を向ける。


「なんなら武術の国、ヤマ国まで護衛したらどうかしら。旅の最中に女手があると便利よぉ」


 にい、と口の端をつり上げ、ダラティエは無表情を装うヤマを見る。


「確かに興味はあるが…、一度カダールへ行こうと思っていたんだ」


「あらあら、だめよぅ。あの王子はまだ諦めていないわ。さっさとルナリアを出なさい」


 作り笑いを消して、ダラティエはキーエンスへ向き直る。


『妻を娶ろうとも、キダータの王子はそなたへの執着を募り続ける』


 奇妙に響く声で呟く。


「きちんと話してわかって貰おうなどと思わないことね」


 ばさりと裾をさばき、ダラティエはヤマへと向き直る。


「では、失礼いたしますわね、王」


 含み笑いを浮かべ、暗に先ほどの件をすすめろと促す。


 むすり、としたままヤマは腕を組む。


「アルタの鉱山と、ナルユの銀鉱山を買い取ろう。…どうせ職人もいないのだ、持てあましておるのだろう」


 えぇ?と不満の声をあげつつも、ダラティエは思案する。たしかに、よく議題に上る懸案だった。掘れば出てくる事はわかっていながらも、加工の技術がそう進んでいないために、一時閉山しようかとも意見が出ていたほどだ。それが高値でヤマに売れれば、鉱夫達も職を失うことなく暮らしていけるだろう。


「…仕方ないわねぇ」


 なにやらぶつぶつとこぼしながら、ダラティエはぞんざいに裾をつまんで礼をする。


「あとで誰かに荷を届けさせるわ。もう西の棟には行くんじゃないわよ」


 キーエンスへ言い、含みなく笑む。


「じゃあね、あとは自由よ、従姉妹殿」


 ひらりとごつい手を振り、ダラティエは立ち去った。


 さて、どうするかな、とキーエンスはダラティエに乱された髪を戻し、ヤマを見上げる。


 無表情のまま、ヤマは黒曜石の瞳でキーエンスを見つめていた。


「銀芯緑茶の冷茶」


 それだけ言うと、ヤマは四阿へと行ってしまう。


「歓迎するよ、侍女殿。なぜか私達はルナリアの従者達に歓迎されていないようだ。皆近づきたがらないんだ。ヤマが人払いすると、すっかりいなくなってしまった」


 どうしてだろうね、と穏やかに笑い、イズニークは立ち上がる。銀糸の刺繍がほどこされた長衣がさらさらと涼やかな音をたて、イズニークの動きに合わせて流れる。


 ヤマと並んでいると痩身に見えるが、意外にもヤマと同じくらい背が高く、がっしりとした体つきをしていることに、キーエンスは気づいた。


「それは申し訳ないことをいたしました。…お手を」


 ヤマのいる四阿あずまやまで導こうと、手を差し伸べると、イズニークは笑う。


「親切な侍女殿。私は精霊が手助けしてくれているのだよ?」


 キーエンスは目の端に土埃がわずかについた長衣をうつし、ケガはないだろうかと心配になる。


「慣れぬ国の庭は危のうございます。大切な指が傷ついては大変です」


 言い募るキーエンスに、イズニークは大人しく手を差し出した。弦をつま弾くために硬くなった手のひらを自らの肩に乗せ、キーエンスは四阿あずまやへと向かった。


 人工的に作られた浅い池に沿って小道を進む。


「侍女殿は…ラティエル殿下に雇われていたのですね」


 キーエンスの体より立ち上る、ほのかな花の香りに頬をゆるめながら、イズニークは呟く。


「…はい。フリア姫の護衛として雇われておりました」


「王宮で働く素養を持ち、護衛もできる腕を持つとは、貴重な侍女殿だ」


 心地よく響くイズニークの低い声に、キーエンスはわずかに背後を振り仰いだ。


「私はただの傭兵でございます。侍女として働いたことなど初めてですので、至らぬことばかりです」


 ナナイとして王宮で過ごしたのは、わずか12の歳までだ。しかも、エレンテレケイアの身代わりとして公式行事ばかりだった。エレンテレケイアは寝込んでばかりだったので、身の回りの世話は医師か、専門の侍女がしていた。侍女らしい仕事など、本当に今回が初めてだったのだ。


 くつくつと、イズニークが喉の奥で笑う。


 ラティとキーは気の相性がいいので、占の調子もかなり良くなります。キーの勘も冴えます。


 ムーンライトさん 『双剣の舞姫 朱色の楼閣』 にて、またまたR18投下しました。


 イメージを損なう可能性がありますので、エロが好きな方だけ、覗いてやってください。

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