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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
嘆きの日
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     12

「そこで気づいたのだが、そなたの牝鹿のようなしなやかな舞いといい、気の巡らし方といい…なにか修練を積んでいると思う」


 ひたり、と黒く輝く瞳がキーエンスを捕らえる。


「キダータ国も、我が国のように武術が盛んな国だっただろうか?…特産は肥沃な土地と原生する野生馬の質の高さ。そして鉱物」


 ぴん、と四阿を飾る美しく磨かれた天然石を指先で弾く。


「どうした?顔色が悪い」


 そっと四阿の椅子に座らせてくれる。その仕草に、ぎこちないものを感じ、キーエンスは男を見上げた。


------緊張している。とても。


 歳の離れた幼い姫と、どう接したらいいのか、迷っている。

 ふ、とキーエンスは微笑む。


「なにか、おかしな事を言ったかな、我は。…とりあえず、趣味の話でも、と、思ったのだが」


 見合いの定番だからな、と付け加える。


「ヤマ国の王様なのでしたら、わたくしなどよりよほど磨かれた貴婦人がいらっしゃるでしょうに」


「磨かれた貴婦人…うまい言い回しだ。そなた私がいくつだと思っている?」


「お父様は御歳45でいらっしゃいます。ヤマ王は若き王だと聞きましたので…30歳くらいでしょうか」


「20歳だ。そなたとはたった8歳の差だ」


 力をこめて歳の差を主張するので、キーエンスはまた微笑む。

 キーエンスが笑うと、男もまた緊張がゆるむのか、ぴりぴりしていた気配が和んでいく。


「そなたのいう磨かれた貴婦人達は、確かにいる。大臣どもも、毎日のように見合いの姿絵を運んでくるしな。…キダータには気晴らしに来たのだ。噂の姫に逢ってくると言えば、大臣どもも大人しく送り出してくれるしな」


 だが、と意志の強さを感じさせる黒い瞳が、キーエンスを見つめる。


「あのしなやかな動きに目を奪われた。それがまさか、噂の姫とはな。武術を趣味としているならば、我と気があうやもしれぬ。…純潔などどうでもよい。我の元へ来い」


 姿絵などきっかけにすぎない。

 アルカイオスの言葉が蘇った。


「------あなたは、思い違いをしています」


 私は姫ではないし、姫は武術を趣味になどしていない。


 けれど、それは説明できない。


「どういう意味だ?」


 キーエンスは静かに立ち上がる。その腕を男は掴んだ。

 そっと手を添え、キーエンスは深々と頭を下げる。


「心から謝罪を…ヤマ王」


 結果的に、この男をだますことになってしまった。


「理由は話してもらえないのか」


「申し訳ありません」


 そっと男の手を押しのける。


「他にお話しがなければ、これで」


「ある」


------いや、ない。けれど、勢いでつい言ってしまい、戸惑う男の心情が伝わってきた。


 ふふ、とキーエンスはまた笑ってしまう。


「なぜそこで笑う?」


「申し訳ありません。なんだかとても…今日は冴えていて」


 勘がよく働く。


「不思議な姫だな。…そうだ、そなたになら見せたいものがある」


 ひょい、と気軽な様子でキーエンスを手招き、男の前に立たせた。


「珍しく聞かぬので忘れていた。…この仮面を取っていいぞ」


 目元を覆う仮面を指し、男は言う。


「なぜです?」


 見られたくないから、隠しているのだろうに。


「見て欲しいのだ」


 大抵初対面の者は仮面を付ける理由を問う。だがこの姫は聞かなかった。だからこそ、進んで見せる気になった。

 キーエンスは言われるまま、仮面に手をかけ、そっと外す。

 好奇心できらきらと輝く形のよい両目がキーエンスを見つめていた。野性的で美しい顔立ちだった。その額から眉間にかけて、大きな傷跡があった。

 知らず、その傷に指を這わせて、キーエンスはうっとりとため息をつく。


「凄いわ…この刀傷。恐れもせずに正面から立ち向かったのね」


 おそらく大振りの斧か槍。


「顔の傷は勇敢な証だと、父上が言っていました。隠すことなどないでしょうに。南の果てでは、額にわざわざ傷をつけて、刺青で飾る部族もいるとか。そこへ行っても、あなたは王ね」


 エレンテレケイアの口調を忘れてしまったことに気づき、キーエンスは慌てて男に仮面を返す。


「申し訳ありません…生意気なことを言ってしまいました」


「---参ったな…」


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