表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
ルナリアの野望
117/264

12

「あなたも貴族なのだろう?イオが卿と呼んでいた」


「ああ。面倒くせえ」


「だろうな」


 静かに呟くキーエンスを驚いたように見下ろし、レイダはなにか言いかける。


「あら、あなたも朝帰りなの?」


 笑いを含んだ声が響き、ミアが角より現れる。キーエンスと同じく昨夜の衣装のままだった。疲れた表情をしていたが、なぜか機嫌よく笑みを浮かべている。そして値踏みするようにレイダを見やり、ふん、と高慢に鼻を鳴らす。


 王族の従者にありがちな態度に、レイダは内心ため息をつく。


「おはようございます、ミア様」


 先輩侍女へと頭を下げながら、咎められるかもしれないと思い、キーエンスは身を縮めた。


「おはよう。姫様はまだあちらでお休みよ。わたくしも今戻ったところなの。貴女も昼まで休んでいいわよ。…姫様は多分…」


 ちらりとレイダを一瞥し、キーエンスの恋人ならば聞かれてもいいかとミアは思う。


「昼すぎまで王子の部屋に籠もられるわ。あの調子じゃあ、一晩では足りなさそうだもの」


 うふふ、と下卑た笑いをあげ、ミアはあくびをかみ殺しながら自室へと踵を返した。


 青ざめるキーエンスを見下ろし、レイダは内心ほっとする。


 助けてよかった。もし、あのまま見つかっていたら、きっと今でも閨の中で、王子に弄ばれていただろう。


「おさまるところにおさまったんだ、あんたが気にすることじゃねえよ」


「だが…まだ婚約もしていないというのに…」


 わずかに声をあげ、レイダは笑う。


「王族や貴族は、結構乱れてるもんだぜ?…あんた、そんなんでよく今まで無事だったな」


 うねるように波打つ金の髪、整った顔、そして華奢でありながら引き締まった体。頭の軽い貴族の子息達には、恰好の標的になるだろうに。


「王宮には近づかないようにしていたからな」


 呟き、疲れたように髪をかき上げる。


 キダータの王宮にいたのは、12歳までのことだ。年頃の男女がどんな生活をしているかなど、知ることなどなかった。


 フリア姫がアルカイオス様と、そういった関係になったならば、そろそろ護衛の任を解いてもらえるかもしれない。


 着替えてから、ダラティエに会いに行くか。


「ここで大丈夫だ、レイダ殿。昨夜は本当に助かった。改めて礼に窺うよ」


 レイダはにやりと笑い、しばしキーエンスを見つめる。礼などいらぬと

言ってもいいが、それで終わらせるには惜しい相手だった。


「礼は酒でいい。城下にある不酔亭って店に入り浸ってるからな、ヒマな時に来るといい」


 さっさと部屋へ入れと言うように、手を扇ぐ。部屋に入るまで、見守るつもりらしい。


 騎士道というやつか、とキーエンスは笑い、部屋へ向かう。


「ああそうだ。騎士の詰め所には俺を訪ねて来るなよ。面倒くせえ事になるだろうからな」


「わかった」


 扉の向こうへ消える女を見送り、レイダは機嫌良く城下町へ向かう道へと踵を返した。


 下働きの者がためておいてくれていた湯船の水は、すっかり冷えていた。だが、気だるい体を目覚めさせるには、丁度いい。


 いつもはあまり使わない花びらを撒き、香りのついたぬるい水に痣だらけの体を浸す。


 醜い紫の痕を、見たくなかったのかもしれない。


 湯船に浮かぶ花びらに埋もれるようにして、キーエンスは丹念に体を洗った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ