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------エディの事で、話がある。
アルカイオスの言葉が、脳裏に焼き付いて離れない。
王子に近づかぬ方がいいとわかっていても、話を聞きたい。それを読んだ上で、そう言ったのだろうが。
それでもはやる心は止められず、キーエンスは通りすがりの従者に聞き出した、アルカイオスの居室へと向かった。
アルカイオスへ与えられた部屋の一角は、フリアの住む棟から近くはないが、一直線の廊下で結ばれた棟だった。ルナリア側としては、キダータとの話を固めたいのだろうと伺わせる。
白珊瑚に透かし彫りを施した、豪奢なドアの飾りを見上げ、キーエンスは長いこと迷い、とうとうドアを叩いた。ドアの前に従者がいないのは、おそらくアルカイオスがまだ見合い中だからだろう。
かちり、と音がひびき、革の仮面で目元を覆った青年が、ドアより現れた。
「…兄上…」
息をのむアシュトンは、しばし言葉を発せられず、吸い付くような視線でキーエンスの顔を見つめた。
「エディ…」
思わず呟いた言葉に後悔したかのように、アシュトンは口元に手を当てる。
「入れ」
素っ気なく言い、目をそらす。
ドアを通されたキーエンスを、客室でくつろぐアルカイオスが迎えた。
「よく来たね、キース。こちらへおいで」
愛称を呼び、アルカイオスは柔らかな声で細かい彫刻の施されたテーブルへと誘った。
あらかじめ用意してあった茶器を使い、アルカイオス自らお茶を差し出す。アシュトンを目で探すが、どうやら部屋を出ていったらしい。
「席を外して貰ったんだ。アーシュは…君を見るのは辛いだろうから」
席に着きながら、穏やかに微笑む。
「先ほどは済まなかった。驚いたあまり、感情的になってしまって。怖が
らせてしまったね」
「いえ…。私も、ご挨拶もせずに、失礼いたしました。お元気そうで、安心いたしました」
緊張が取れぬまま、儀礼的に言いお茶を飲む。
「君も。…ルナリアの王族は、僕らみたいに我が儘を言ったりしないかい?」
キーエンスは笑みを浮かべ、軽く首を振って応えた。
なぜか、警戒が解けない。かつてのアルカイオスと、どこか違うような気がしてならない。口調や仕草は、懐かしいものであるのに。
「そう、良かった。本意ではないにしろ、ルナリアに来る事になった時、ただ君に会えるかもしれないということが支えだったよ。…会えてよかった」
そっと手を伸ばし、キーエンスの頬へ触れようとする。だが、思わずキーエンスは身を引いてしまった。
それを悲しげに見やり、アルカイオスは手を降ろす。
「ヤマとの国交が断絶された今、どうしても国力のあるルナリアとつながりを持たなくてはならなくなった。…ルナリアの姫に妻問う僕を、嫌わないでくれと言っても無理なことだね」
キーエンスは困惑し、アルカイオスを真っ直ぐに見つめる。
「嫌うなど…。フリア姫は明るく良い方です。…王子がお相手ならば、安心です」
「では、王妃にはならずともいいと、言ってくれるのだね」
「え?」




