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双剣の舞姫  作者: 黒猫るぅ
嘆きの日
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     11

「傷物でも構わないから、ヤマ国へ嫁ぐように、と」


 カッとアルカイオスの顔が怒りのあまり赤く染まった。

 初めて見るそんな表情に、キーエンスは驚く。


「言っただろう?私の理性を吹き飛ばすのは、君だけだ」


「で…ですが、あの男が見初めたのは…」


「エディではない。------姿絵などきっかけにすぎない。舞踏会での君を見初め、他に深い仲の恋人がいても構わないから妻になれ、そう言ったんだ」


 ふ、と息をつき、気持ちを抑える。


「これから父上と話をしてくる。…やはり、奥の部屋へ行くべきだったかな」


 回廊の奥をちらりと見やり、悪戯っぽくキーエンスに笑いかける。


「奥に…部屋が?…え?」


 回廊の奥とアルカイオスを見比べ、赤らむキーエンスの首筋に、アルカイオスはそっと指を這わせた。


「私の口づけの跡が残っている。…消えぬ頃に、またつけるとしよう。ではな」


 さ、と身を翻し、アルカイオスは王の居室へと向かって足早に歩き去った。

 首筋に這う熱い指先と、温かな唇を思い出し、キーエンスは首を押さえて赤面する。

 慌てて回廊から庭に降り、池に映る自らの姿を見た。

 ほっそりとした首筋に、赤い印が点々とついていた。

 顔を赤らめながら、キーエンスは結い上げていた髪をほどき、肩に垂らす。

 赤い印が隠れたのを確認し、ほっと息をつく。


「エディ…」


 水面に映る着飾った姿に手を伸ばす。髪の辺りの水面に触れ、エレンテレケイアと同じ色になった、と少し寂しく思った。

 曾お祖母様譲りの髪の色であったのに。

 仕方がない、と自嘲ぎみに笑う。


「あまり水面の姿を見ぬほうがいい。美しさのあまり花になってしまった者がいるという。そなたはどんな花になるか…たのしみだが」


 低く呟かれた声はあまりに近く、キーエンスは驚きのあまり動けなかった。

 それは間違えなく、仮面の男の声だった。


「どうした?足に根が生えたのか?それは大変だ------」


 衣擦れの音が近づき、大きく力強い手がキーエンスの腰を掴んだ。


「な!何をするのです!離して」


 子どもにでもするかのように高く持ち上げられる。長身の男のさらに上へと持ち上げるので、急に視界が変わる。キーエンスは短く悲鳴を上げた。


「おや、花が騒いでいる。魔女は悲鳴をあげる薬草で媚薬を作るという。持っていくかな」


「離しなさい!」


 仮面の男は愉快そうに黒い瞳を細めた。


「わかった」


 男はぽん、とキーエンスを真上に放る。


「!」


 キーエンスは咄嗟に間近にあったものにしがみついてしまった。


「…ふむ、なかなかいい育ち具合だな」


 腕の中で、男はくぐもった声で呟いた。背に、男の腕がまわされる。筋肉質な太い腕は逃れられないほどに頑健だった。


「嫌!」


 咄嗟に自由な手で男の顔を押しのけるが、びくともしない。


「それによい香りだ。…こら、爪を立てるな。逃げぬと約束するなら、離

してやろう」


 鍛え抜いたこの男の腕から逃れるには、頷くしかなさそうだった。


「…わかりました」


 に、と愉しげに笑い、男はそっとキーエンスを地面に降ろした。

 逃げることを警戒しているのか、男が気を巡らすのを感じる。


「逃げません」


 ぱっと手を払い、漂う男の気配を薙ぐ。


「ふむ」


 笑みを消し、男はまじまじとキーエンスを見下ろした。


「我がヤマ国は武術に秀で、その武隊は他国に売るほどの価値がある。ご存じかな、姫」


「…はい」


 満足げに頷き、男は池の畔にある四阿へキーエンスをいざなった。


「ゆえにその王である我は、国の最高水準の武術を素養としてたしなんでいる」


 男の言わんとするところに気づき、キーエンスは表情を強ばらせた。

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