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幼馴染がハーレム体質で困る。(怒)

キャラの容姿についての描写はあえて必要最低限に留めてます。

さて、前回のおさらい。


どこにでも居るような普遍的凡人たる僕はスーパー高校生な幼馴染とそのハーレム要員達に囲まれ平和な日常を謳歌していたはずが何やら幼女と茶髪女に出会ったことで平穏を崩されそうになり第二形態へと進化した僕が今度は銀河系を舞台に異星人達とはちゃめちゃバトルを始めるとか始めないとか。



そんなわけがない。

普通に考えてそんな面白人生あるわけがない。




「なあなあ、天色~。お前すっごくボロボロになってんだけど……何があったんだ?」

「登校途中、ヘリにミサイル撃たれた」

「うっそだー」




これはごく一般的な家庭で育った僕が普通の生活をいかに凡庸に過ごすかを綴ったものである。






前回駒鳥が転入して来たのは慌てたけど今のところ特に不都合は起きていない。

当初危惧していた変なフラグの回収も無く、彼女とは至って普通の時間を過ごしている。休み時間やお昼時に会話したり、家が同じ方向なので時間が合えば一緒に登下校したり、弁当作ってやったり。

そんな感じにとっても普通の学生生活を送っている。今も屋上で二人で居るが何も特別なイベントは起きていない。

僕お手製のお弁当を食べていているだけだ。やっぱり料理って、誰かに食べてもらってこそ意味があるよね。


「天色の作るお弁当って本当美味しいよな! 将来料理人になれる。いや今なれる!」

「褒めてくれるのは嬉しいけど、これで食べて行ける気はしないよ。お弁当作れるからって料理人になれるわけがない」

「いや、ほら、天色って異世界とかに飛ばされたら戦うよりも食堂とかで働いている事の方が多い男として有名じゃん」

「そんなピンポイントなイメージを持たれていたのか僕は!」


しかも的中してやがるし。

駒鳥は面白い奴だ。普通の人間のくせになかなかに面白い性格をしている。子供っぽいくせにガキっぽくないという矛盾したキャラをしていて飽きない。

これだよこれ、こういう普通の友達が欲しかったんだって。僕の周りには変な奴ばかり集まって来るから困るんだよね。いっつも見つけたオアシスが軒並み蜃気楼でしかなかった旅人の気分。ちなみに竜司はオトモダチであって友達ではない。美香なんて言わずもがなだ。

だから彼女は僕という旅人がようやく見付けた本物のオアシス。


「よし、今日からお前は茜・オアシス・駒鳥だ」

「言ってる意味がさっぱりだけど、たぶん褒めていることはわかった」

「駒鳥……僕は昔からある一点において一度も妥協した事が無いんだ。それが何かわかるか?」

「……一応聞くけど。何?」

「和食が無い世界でも出来るだけ和食っぽい料理を作りだす事」

「結局異世界ネタじゃん! しかも料理人魂激しいじゃん。メラメラに燃えてるじゃん!」


打てば響くとはこの事だ。

もし僕がこの先異世界転移や転生をしてしまったとしても、最初に出会うのはこんなツッコミをしてくれる奴を所望したい。

これまで出会ってきた奴らは皆一様にスルーするかボケオンリーかツッコミするとしても肉体言語込みとかばかりだった。だから駒鳥みたいな普通のツッコミ要員は貴重だ。


「僕は将来的に駒鳥と結婚しているかも知れん」


わりと本気で。今のところ打算が八割でしかないが、普通な駒鳥と結婚したいと考えている。

まあ、あくまで竜司のハーレム要員達と比べればとかなのでかなり適当なノリだけど。


「ええ~……」


そんな僕の思惑が透けて見えたのだろう、駒鳥も嫌そうな顔をしてた。当たり前だ。





駒鳥と教室に戻った僕の所に美香が足早に近寄って来た。と言っても教室の皆が彼女に注目しているためあんまり下品な事はしない。


「ちょっと、良いかな? お話があるんだけど」


前回言い忘れたが、この美香の態度は所謂外行きモードというものだ。容姿も雰囲気も清純派な美香ではあるが、その実態はかなりカオスである。

僕や竜司と居る時の美香はもう少し言動が激しい。外行きが太陽だとすれば内向けは暴風と言ったところだろう。結局お淑やかではないところが悲しいところだ。


「何かな、美香ちゃん?」

「ここじゃ何だから、ちょっと移動しない?」


と言われてもねぇ。そういう思わせぶりな行動をとられると困るんだよね。周りの男子からの視線が痛いのなんのって。視線で人を殺せるのなら僕はかなりの回数死んでいる。

まあ、付いていくけどさ。


「どういう事?」


屋上途中の階段まで連れて来られた後、開口一番美香は詰問される僕。

いきなり質問されても返答に困る。せめて何ついてかは説明して欲しいんだけど。


「今度はまた変わった子と遊んでいるみたいだけど、あんたにしては珍しいタイプね。どういう心境の変化?」


遊んでいるってお前。何かその言い方はとんでもなく不当な評価を頂きそうだから止めて欲しい。まるで僕が女をとっかえひっかえしているみたいじゃないか?

ちなみにこの人生で僕は異性とお付き合いしたことはない。言わなくても分かるだろうけど同性とも無い。男とはイベントすら起こさない。


……わりと寂しい青春を送っている気がするね。

とにかく友達と一緒に居るだけで何か言われるのは心外だ。


「僕だって一人で居るのは寂しいんだよ?」

「寂しいって…………私達が居るじゃない! 何でそんな事言うのッ?」


それまで被っていた猫を勢い良く破り取り身を乗り出してそう言う美香の顔は真剣だった。思わず身を引いてしまう。

幼馴染の沽券に関わる事を言ったのが拙かったかな。

確かに竜司と美香はオトモダチだ、昔からずっと三人一緒で居るから仲良しだよ。その二人に対して「友達が欲しかった」だなんて、少し当てつけがましかったね。


でもさ、実際二人とも忙しくて全然一緒に遊べないじゃん。ここ最近では一緒に帰った以外で三人一緒になったことないし。

二人とも忙しいから仕方が無いのは解るよ?

でも美香も竜司もその忙しい時間の中で友達と過ごしているじゃないか。だと言うのに、僕だけ二人以外と仲良くしてはいけないなんておかしいでしょ?

だから他所の友達を作っても問題ないじゃないか。


そう言えたら良いけど、人気者(美香)にこんな風に言い返す権利なんて凡人(僕)には無いわけで。


「ごめんね?」


謝るしか無いわけで。


「──ッとに、イライラする! イラついてしょうがない!」


そうするとこんな風に怒られてしまうのだった。我ながら学ばない奴だ。ちなみにこちらは身内向けの美香だ。

目尻が釣り上がり、肉食獣みたいな表情になっている。美少女な分より凶暴で凶悪に見える。

こんな美香は竜司と僕しか見た事が無いだろう。裏を返せば僕と竜司はいつも彼女を怒らせている事になる。

でも今回ばかりは僕は悪くないと思うんだよね。別に僕は美香の彼氏でも何でもないんだし。むしろこういうのって竜司の役割だと思うんだが、どうだろう?

だがこの幼馴染に常識は通じないようだ。もしかしたら竜司に対するフラストレーションを僕で晴らしているなんてことはないよな?


「まあまあ、そのくらいで簡便してやってよ。天色だって一人が寂しかっただけって言ってるじゃん」


と、そこで突然現れた駒鳥が僕と美香の間に割って入って来た。どうやら追い掛けて来てくれたようだ。

駒鳥って結構面倒見良いよね。でもこの時ばかりはその面倒見の良さが美香の不評を買ってる。


「駒鳥さんには関係ないでしょ。これは私とこいつの話なんだから」

「関係無くはないっての。天色は私の友達なんだからな。その友達が責められていたら庇うのは当然だろ? ましてや友達作るのに怒られてんならなおさらだ」


こいつマジ恰好いいな。結婚して欲しい。


「つい最近オトモダチになったばかりの人にしゃしゃり出て欲しくないんだけど? て言うか邪魔よ」

「理不尽に怒鳴って来る女の方が邪魔じゃないか?」

「……もっぺん言ってみろ。ぶっ殺すから」

「おっと、そっちが本性か。いや知ってたけどさ。周りの評判って当てにならないもんだよな」

「何が言いたいのよ」

「誰にでも優しいとか面倒見が良いとか天才だとか耳にタコができるくらい」


真実は違ったようだけど、と締めくくる駒鳥。

だが駒鳥よ、その周りの評判はある意味正しいんだ。美香のそれはどちらかが演技でどちらかが本性ってわけじゃない。たぶんどちらも美香であり、またどちらも美香ではない。

二重人格という意味じゃない。ただ美香は精神的にかなり不安定なだけ。感情で人格が変わるだけなのだ。


「幼馴染だからって交友関係にまで口出すのはおかしいだろ」

「私はこいつの母親から頼まれてるのよ。一人立ちできるまで面倒みるようにって」

「その一人立ちを邪魔しているのは誰だよ!」

「26風情が……何も知らないくせに……!」


ううむ、まさに一食触発って奴か?

僕に近付く奴に毎度美香が食ってかかる光景。いい加減見慣れてしまったが、放置もできないよね。


「おい、喧嘩するのはいいがこっちまで聞こえて来たぞ?」

「竜司?」


僕が止める前に顔を出した竜司が二人を止めていた。

何とまあ、良いタイミングですこと。これがモテる男のフラグの立て方って奴なんだろうね。


美香も駒鳥も竜司の登場にばつが悪そうにしている。とりあえず喧嘩になるのは阻止できたようだ。

ナイス竜司。ありがとう竜司。困った時の竜司さん、マジぱねぇっす!


「どうせまた捨てられるんだから……」


教室へと戻る際、美香が呟いたそれは誰に対してのものだったのか。





下校時。駒鳥と一緒に帰ることになった。

無言で歩くわけにもいかないので何か会話をしようとすると、自然とお昼の話しになった。


「まあ、美香は独占欲強いところあるからな。たまにつっかかって来るけど、あんま気にしないでいいからさ」

「いつもああやって何にでも口出して来るんだろ? 聞いたよ……」


誰に、とは訊かない。そんなもの知ってるのも教えるのも竜司くらいしか居ない。

あいつは筋金入りのお節介野郎だからな。


「美香も竜司も過保護なところがあるんだよね。でもそれに甘えているのは僕の方だからさ」

「それでも天色だって一人の人間じゃんか。何で誰かと仲良くするのにいちいち小畑が何か言うんだよ。おかしいじゃん」

「義務感みたいなものがあるんだろうな。ほら、あいつらって人気者だろ? その近くに僕みたいな凡人が居ると何かと目をつけられるんだよね。その所為か変な罪悪感持ってるんじゃないかな」

「天色が凡人だったら私なんて無能じゃん。て言うか凡人なめんな」

「お、おおう、何か知らんけど叱られてしまったぞ」


だが駒鳥の気遣いは十分感じられた。こいつも凡人と言いつつ結構凄いんだよな。

曲りなりにも進学校に転入してくるくらいだし。そこそこ優秀なのだ。見た目馬鹿っぽいけど。

あと良い奴だ。僕なんぞの相手を懲りずにしてくれるんだから。


「いつか二人も僕に構う暇が無くなって去って行く。それまでは一緒に居ようと思ったんだ」

「だからあいつらの自己満に付き合うって? お人好し過ぎるっての」


お人好しねぇ……。

駒鳥の僕への評価はひどく的外れで見当違いで洒落に成らない間違いだった。

偽善者以下の僕によりにもよってお人好しなんて評価をつけるなんて。これが教師だったら懲戒免職ものだ。


「自己満足に付き合うのも僕の自己満足さ」

「そう言えるところが凄いぜ。……ま、私で良ければ最後まで付き合うからさ、頼ってよ」

「おう」


そうやって、僕が駒鳥の男らしさに感動を覚えていると、


「あ、この間のお兄ちゃんだ!」


進行方向上に小さな女の子が僕を指差された。

……誰だ?

幼女の知り合いなんて居ないはずだが。

見知らぬ幼女の登場に首を傾げる僕の隣で、駒鳥が「げげっ」と小さく悲鳴を上げている。

何だ、お前の知り合いか?

そう思ってもう一度幼女の方を見ると、こちらへと小走り(本人は全力ダッシュのつもり)で近寄って来た。


「ああ、なるほど」


近くで見たことで始めてそれが安曇の妹さんだとわかった。

前回見たのは泣き顔だったから一瞬誰かわからなかったんだ。


「おや、誰かと思えば安曇咲夜の妹のさくらちゃんじゃないか」


また迷子だろうか?

さくらちゃんの満面の笑み見る限り迷子ではないだろうけど。


「あのね、あのねあのね!」


挨拶も無しにさくらちゃんは僕の前で手を振りながら飛び跳ねている。

何を興奮しているのだろうか?


「ねぇねぇ、お兄ちゃんがお姉ちゃんがいってた好きな人だよね?」

「え?」


だが予想外のセリフに思考が一瞬停止した。

この幼女は何を言っているのかな。お姉ちゃん、つまり安曇が僕のことが好き?

どこにその要素があったのか。まったくもって予想できない。

が、しかしこれだけは判る。ここで即座に否定しておかないとフラグた立つと。


「それは僕の幼馴染の事だよ。君のお姉ちゃんは僕の事が好きじゃないんだよ?」


安曇の好きな人とは竜司のことだ。て言うか彼女もハーレム要員だし。


「えー、でも、まえにけんどーのおしあいでおしゃべりしてうれしかったって言ってたもん」

「うん、だからその剣道の試合に行ったのが僕の幼馴染なんだよ。僕はそのおまけ」


二人の出会いは一年の時の剣道の地方予選だ。その時すでに部で一番強かった竜司は個人戦だけでなく団体戦にも選ばれていた。

一年で副将を任せた一年ということで、地方予選の段階から見学に来る学校の生徒は多かった。それ抜きでも竜司の勇士を見たいという女の子は多かった。おかげで会場は竜司の名前が書かれた弾幕を持った女子生徒で溢れていたね。本当に周りの男性諸君の視線が怖かった。

その時同じ一年だった安曇は竜司の事が好きではなかったと思う。応援に来たのも剣道部女子班だったからという理由からだろう。

ただ、そこで竜司の強さを間近で見たことで惚れたらしい、というのが彼女の経歴だった。


だがそんな話を知らないさくらちゃんは理解できなかったのか可愛らしく首を傾げている。

理解できないだろうなー。認識の違いって怖いね。

これで後ほどさくらちゃんが安曇に質問なりしたら本当に怖い。また誤解されて骨折られるのは遠慮したい。


「というわけで、僕とお姉さんは関係ないんだよ?」

「う~んと、えーと……」


ここまで言ってもまだ納得が出来ないらしいさくらちゃんは両の人差し指を米神に当てて唸っている。

やばい、可愛い。こんな妹欲しいです。

でもそうなると必然的に安曇と結婚しないといけないので断念した。


「ところで、さくらちゃんはどうしてまたここに来たのかな?」

「んと、えっと、さくらはお姉ちゃんとまちあわせしてたの!」

「ほ、ほほう」


ヤダ、同じネタを二回使うなんて、聖○士相手にはタブーよ。

だがこの場合、問題なのは同じ技を使って痛い目に遭うのは使った本人ではなく僕だという事だろう。

なんたる理不尽。なんたる惨劇。惨劇に挑んだ末に幼女にストーカーされたのは嫌な事件だったね。


「じゃあね、さくらちゃん。僕らはもう行くよ」

「えーもう行っちゃうの?」

「ごめんねー、用事があるんだ。あと僕をお兄ちゃんと呼ばずに、お姉さんが好きな方のお義兄ちゃんと仲良くしなよ」

「さくらはお兄ちゃんがいいのにぃ」


ハハッ……うん、それ無理。

さすがに二回も幼女誘拐犯に間違えられたら立ち直れないよ。

というわけで僕は逃げるのです。あうあう。


駒鳥とともにその場から逃げる様に立ち去る途中、遥か彼方からこちらに猛然とダッシュして来る安曇の姿が見えた。

ギリギリセーフである。





その日の夜のこと、お風呂から上がった僕は家電が鳴っているのに気付いた。

はて、こんな時間に何だろうか?


「もしもし……?」

『あ……天色?』


駒鳥だった。最初の「あ」が気持ち高めだった。たぶん僕以外が出る可能性を考慮していたのだろう。

まあ、僕の家なんだから僕が出るに決まってるんだが……。

と思いかけて、そう言えば駒鳥には僕が一人暮らしである事は伝えて無なかった事を思い出す。


『ちょっと話がしたいんだけど、今出て来れるか?』


時刻を確認する。

午後九時か……微妙な時間だが生憎僕に門限は存在しない。


「良いぞ。どこに行けばいい?」

『あ、ありがとう……』


多少上ずった声の駒鳥から場所を聞いた僕は着替えると家から出た。


「ん?」


門から出たところで誰かの視線を感じたが無視した。敵意も殺意も感じなかったし。

今は駒鳥優先だ。最近平和とはいえこんな時間に女の子一人居させるわけにはいかない。急ごう。


待ち合わせすることとなったのは近所の公園だった。昔よく美香と遊んだ場所で、僕としては何かと曰くつきの場所でもある。

駒鳥は公園のベンチに座って居た。何かいつもより大人しいな。何かあったか?

ベンチへと歩いてくと駒鳥がこちらに気付き、気持ちほっとした表情を作る。


「制服じゃない天色って初めて見るかも」


雰囲気から移動する様子もないので隣に腰を下ろした僕への第一声がそれだった。


「僕も駒鳥が服を着てるのを初めて見た」

「裸族じゃねーよ! ちゃんと初登場時に制服姿だったろ! 茶髪でスケ番っぽい長スカートだって描写してたじゃん!?」


メタいこと言ってんなよ。お前は僕の娘か。


「で、こんな時間に何の用だ? 良い子はもう寝る時間だぜ?」

「私は悪い子だからいいんだよ」

「そっか? 駒鳥って結構良い女だと思うけど」

「そーゆー事真顔で言うなよなー」


普段乱暴な口調を使う駒鳥だからだろう、女扱いすると途端に照れ出す。

今も僕の言葉に顔を真っ赤にしている。


「で、わざわざ呼び出して何の用なんだ?」

「……」


さっそく本題に入ろうとしたが、駒鳥はそれに答えようとせず、下を向いたままだ。


「ふむ」


まあ、時間は無限にある。有限の駒鳥が無駄遣いする分には僕から何か言う事は無い。

話しのとっかかりを作ろうにもこの様子では無理だろう。仕方ないのでしばらく待つ事にした。


「今日の事なんだけど」


十分ほど無言が続いただろうか。ぽつりと駒鳥が呟いた。


「今日?」


はて、何だろう。


「お昼にさ、私と小畑が喧嘩したじゃん」

「ああ、あれか」


喧嘩と言うかただの言い争いに見えたが。それを巷では喧嘩と言うんだったね。


「あの時さ、小畑が天色に構うのに色々言ったじゃん」

「そうだな」

「その……怒ってる?」


怒ってる?

駒鳥に対して怒りを感じたことは今のところ無いな。


「て言うか、どうして僕が怒ってると思ったんだ?」

「い、いやさ、だって……会ったばかりの私がずっと一緒だった幼馴染を悪く言うのって……嫌じゃなかったかな、とかさ」

「なるほどね」


でもそれは駒鳥が僕のためを思って言った事だしなー。それに感謝する事はあっても怒る事はないぞ。

それを伝えると目に見えてほっとした顔をする駒鳥。


「そっか。良かった……本当に良かった」

「どんだけ安堵してんだよ。大げさな奴だな」

「大げさなもんか! 私にとっては超重要だったんだぞ?」


そう言って口を尖らせる駒鳥だが、すぐにまた不安そうな顔に戻る。

表情豊かな奴だ。怪盗二十面相ならぬ怪獣奇面草みたいだ。


「誰がワカメヘアーだ!」

「いや、言ってねーよ? 僕一言も海藻類の名前は出してねーよ?」

「あ……わ、悪ぃ。何か不当な評価を受けた気がしてさ。髪の話題になるとムキになっちゃうんだよ」


変な拘りでもあるのかね。言う程変な髪じゃないと思うが。

天パと茶色の毛が年季を感じるくらいだぞ。


「誰が湘南に漂着した非食用ワカメヘアーだって!?」

「だから言ってねーって! てかワカメワカメしつこいぞ。もうワカメにしか見えなくなったからな?」


アレか、あまりに無視されすぎて色素が抜け切ったワカメか。

そう言われるとワカメヘアーに見えなくもないな。


「……」

「いや、そこは『やっぱりワカメヘアーって思ってんじゃん』とか言えよ。安定しない奴だな」


とかなんとか馬鹿やってるから話しが逸れたじゃないか。


「で、何でお前にとって重要だったんだよ?」


たかが僕に嫌われるかどうかにそこまで怯える必要性を感じない。

むしろ竜司を始めとした美香好きの野郎どもの不評を買ったかどうかを気にすべきだろうよ。


「だって、天色しか居ないんだもん」


もんってお前……。たまに子供になるよね本当。

ギャップ萌えってやつですね。


「僕しか居ない?」

「そうだよ。私はこっちに転校してきたばかりだから、仲良い奴は天色しか居ないんだ」


なるほどね。

つまり唯一の仲良い僕に嫌われたんじゃないかと心配になったわけか。

なーんだ、慌てて損したぜ。てっきり変なフラグでも立ってたかと思った。警戒していた自分が恥ずかしい。


「何を考えているのかと思えば……アホか、僕がお前を嫌いになるわけがないだろ。むしろ好ましい方だと思ってる」

「ほんと!?」


おおう? やけに食いつきが良いな。

そんなに嫌われてなくて嬉しかったのか?


「まあ、お前の心配ごとがこれで無くなったのなら重畳だ。用はこれで済んだのか? もし帰るなら送るぞ」


駒鳥の家がどこか知らないが、そんな遠くはないだろう。送るくらい手間ではない。


「──あ! ま、まだ」

「?」


ベンチから立ち上がった僕を駒鳥が慌てて呼び止める。

なんだ、まだ用があったのか。再び腰を下ろしす。


「で、残りの用事ってのは何だ?」

「またお昼の事なだけど」

「またかよ。美香の事だったら気にしなくていいぞ、あいつは基本的には良い子ちゃんだから、明日にはケロっとしてるぜ。だから」

「そっちじゃなくて」


心配要らないと続ける前に、駒鳥の声が続きを遮った。


「そっちじゃなくて。その前のお弁当食べてる時の事なんだけど。ほ、ほら、色々話しとかしたじゃん?」

「あー、したなー」


異世界の話しとかね。


……え、もしかして私異世界人なんですって告白されるパターン?

宇宙人や未来人、超能力者に出会う前に異世界人に遭遇しちゃうの?

もしそうなら某団長も驚愕のあまり分裂しちゃうね。一人二役で異世界人とか。それ分裂やなくて分身やー。


閑話休題。


「それが、どうかしたのか?」


ちょっと声が上ずっている気がする。今更異世界人のキャラがこちらに来るなんて想定外すぎるからだ。


「天色は何となく言っただけから覚えて無いかも知んないけど……け、けけっ」

「毛? 海に行くとそのワカメヘアーが本物のワカメと間違えられて漁師の網にかかっちゃう、だっけ?」

「失礼だな! そんな話しは一度もしてないだろ! 違うよ、結婚だよ!」


結婚?

ああ、そんな事言ったな。

焦ったわー。ファンタジー枠がこれ以上増えるのはノーサンキューです。あ、赤城はファンタジーというよりは不思議ちゃん寄りか。

……って、そっちかよ!


「いや、アレは」

「わかってるよ、冗談だろ? それは解ってる」


いや、本当はわりとガチだったんだが、まあ今の時点で改めて考えると気の迷いだった事にした方が良いな。

本人がそう言うならそうしよう。


「あ、あのさ、アレ……結構嬉しかったんだよな。冗談だって分かってたけど、でも冗談でも嬉しくて。そんな風に嘘でも言ってくれるくらいには好きでいてくれたのかな、とか……思ったり」

「……駒鳥?」

「私には天色しか居なくて、でも天色には小畑達がいる。喧嘩だって本当は嫉妬したからなんだよ」


何だこの空気。

僕はこの感覚を知っている。このパターンは……そう、美香の時と同じだ。

やばい、ちょっと嫌な汗が背中にじんわり浮かびだしたんですけどー。

顔を赤らめた駒鳥が伏し目がちにちらちらとこちらを見て来る。


「で、さ……出会ったばかりでこんな事言うの本当はおかしいって思ってんだ」

「……」

「でも自分に嘘は吐きたくなかった。だから我慢できなかったって言うか、少しでも早く伝えたいって言うか……」

「あ、あの駒鳥、僕は──」


焦った僕が何かを言う前に一瞬だけ早く、駒鳥が告げる。


「す、好きなんだよ!」


僕は駒鳥から告白された。


「初めて会ったときからずっと……」


そう言って泣きそうな顔で顔を伏せる駒鳥を見て、ああこいつも女の子だったのだなって今更思うのだった。

本当に、いつも気付くのが遅い。


まったくもって、見事な"手遅れ"だった。









そして次の日──。


「一目惚れって本当にあるんだな。はぁ~、竜司ってばまじ恰好良いぜ」


本日より、駒鳥が竜司のハーレムに加わることとなった。

結局こんな展開である。まあ、僕以外からすればめでたしめでたしだが……。


嗚呼、青春のばかやろう。

というわけで、無事駒鳥さん家の茜ちゃんもハーレム入りとなりました。

どのタイミングで駒鳥が竜司を好きになったのか。竜司のモテる秘訣は次回があれば解明していきたいと思います。

さすが竜司。オチ担当としてこれほど扱いやすい奴はいない。やんや的にも良キャラです。

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