推しの話をする二人の時間
「推しには恋愛結婚はしないでほしいけど遺伝子を残してほしいんだよね」
「……なんて? いや、とりあえず聞くけど」
私の言葉に、ミツハは少し呆れ気味にそう返す。この話をしたら、そんな反応をされるような気はしてた。
「推しは恋愛とか結婚とかしないでほしい、それはわかるよね?」
「……まあ、それはわかるよ。で?」
「でもさ、推しは顔面国宝で天才で最高なビジュ……いやビジュだけじゃなくて、人間として最高すぎる存在だから、そんな人間が遺伝子を残さずに亡くなるのは世界にとっての損失だと思うわけ。だから、推しの遺伝子はこの世界に残してほしいの」
「……クルミ自身が推しとの子供が欲しいわけじゃなく?」
「そんなわけないでしょ? 私なんかじゃ推しと釣り合わないよ。っていうか推しと釣り合う人間なんて存在しないよ? だから誰かとの子供じゃなくて遺伝子を残してほしいの」
遺伝子を、の部分を特に強調した。ミツハは呆れた様子で私を見ている。
「……まあでも、子供じゃなくて遺伝子を保存するだけなら、もしかしたら可能なんじゃない? 推しがやってくれるかは別として」
「でもさぁ、推しの子供の姿を見たい気持ちもあるじゃん……?」
「言ってること違わない?」
「だからぁ、推しの遺伝子を残した子供はこの世界に残ってほしいけど、恋愛とか結婚とかは無しで、子供を作る相手も無しで、推しの遺伝子だけでどうにか子供を残してほしいの」
「……それは、いわゆるデザイナーチャイルドみたいな、SFの話?」
「私は真面目な願望として話してるんだよ」
「いやー……それは現代の技術じゃ無理な話でしょ。っていうか、倫理観がダメじゃない?」
「……やっぱりそうなる?」
「そうなるよ。っていうか、クルミはもしかして、人間として遺伝子が優秀な存在だけが子供を残していいと思ってる?」
「そこまでじゃないけど、推しは存在が世界の宝なんだから遺伝子を残してほしいわけ」
「いや、……それはつまり、推しが人間として貴重な存在だからって思ってるんじゃん?」
「それはそう」
「それはよくない考え方だと思うなぁ」
「……そこからダメなら、私の考えが根本的にダメじゃない?」
「だからそう言ってるんだよ」
ミツハはそう言って軽くため息を吐いた。
「そうなのか……そうなのかも……? わかんないな……」
「クルミはさ、じゃあ、例えば、クルミ自身の子供が欲しいとは思わないの?」
「いや私なんか人間として価値がないから。害しかないから。子供なんて望めないよ」
「その考え方がよくないよ、って話」
「……そっかぁ……?」
「わかんないなら、今はまだわかんないでいいよ。……クルミはもう少し自分自身を大事にするほうがいいと思うけどね」
「……んー、まあ、とりあえず聞いてくれてありがとね。で、さ、今度のライブなんだけどー……」
二人で次のライブの予定や推しの良さなどを語り合っていたら、時間があっという間に過ぎていた。こういう時間が、私は大好き。
〈了〉
※念のため言っておきますがこの話はフィクションです。作者の思想ではありません。




