魔王討伐パーティーに放り込まれた専業主婦は反抗期仲間の胃袋を掴みます!
子供も独り立ちし、夫と二人慎ましくも美しいそんな日々を過ごす___はずだった。
「みちえさん、魔獣のシチューもう食べていい?」
「みちママー!ポーションこぼした!タオルー!」
「みちえ、血のついたシャツ毒消しで洗っていいか?」
どうして異世界でもお母さんやってるのかしら?私…
◇
私は買い物帰り、トラックに轢かれてあっけなく死んだ。
夕飯の材料を抱えたまま、なんて、ちょっと間抜けね。
目を覚ますと、そこは王城だった。
海外旅行で見た城のような、豪華で、現実味のない内装。
……どうやら私は、ずいぶんと遠い場所まで来てしまったらしい。
王に謁見し、紹介されたのは数人の若者たち。
彼らを率いて魔王を倒してほしい、と告げられる。
専業主婦として生きてきた私にとって、久しぶりの“仕事”。
……少し楽しみ。
正直に言って、紹介されたあの子たちの第一印象は――反抗期の息子そのものだった。
「なんで将来有望のこの“僕”が、こんなおばさんのパーティーに入らなきゃいけないんですか?!」
「えーなにこの人、普通に無理なんだけど。年齢的にきつくない?」
「我々だけで魔王は討伐できる。足手まといは不要だ」
……はいはい、あるわよね。こういう時期。
剣士に、魔導士に、テイマー。
見た目も中身も、いかにも高校生くらい。
懐かしい。
あの子も、昔は似たようなことを言っていたっけ。
――まあ、そのあとすぐ助け求めに来たんだけど。
「聞いてんのかよ!ばーさん!」
「そうそう、その言葉もよく言ってたわね」
……しまった。
心の中で言ったつもりが、口に出ていた。
「そうそう、その言葉もよく言ってたわね」
「なんだと――ッ!!!」
剣士が一気に距離を詰め、胸ぐらを掴む。
――懐かしい。あの子も、こうやって手を上げようとしてたっけ。
あのときは、殴られそうになった私を見て、お父さんが慌てて止めていた。
今の王様の様子は、あのときのお父さんそっくりね。
それからしばらく、関係は最悪だった。
食事の席で――
「あれ、私の分は?」
「自分で頼んだらどうだ?」
……ああ、こういうやつ。
行き先も共有されず、気づけば置いていかれる。
子供みたいな嫌がらせ。
でも――
「みちママー!指切ったーーーー!!!」
「はいはい、今行くわ」
結局こうなるのも、あの子のときと変わらないわね。
◇
関係が少し変わり始めたのは、三ヶ月ほど旅をした頃だった。
クエストは失敗続き。
気づけば、財布の中身も心許ない。
それなのに――
「今日も宿屋でいいよな」
「当たり前でしょ!」
……この子たち、気づいてないのかしら。
「ねえ。お金がないなら、自炊したらどう?」
私が指さしたのは、さっき倒した角付きの牛みたいな魔獣。
「は?」
「……え?」
「正気か?」
みんな、揃って変な顔をする。
「ツノはあるけど、ほぼ牛さんよ。食べられるわ」
「魔獣を食べるなんて聞いたことないぞ……」
……そうなの?
でも大丈夫。
私、お父さんと出会う前、短期でお肉の加工工場にいたことがあるの。
「任せて。下処理くらいできるから」
そう言ったときの、あの子たちの顔。
……今でも、ちょっと忘れられない。
「ほら、血抜きするから。足、押さえててくれる?」
「……は?」
まずは首の後ろ。太い血管を狙って――
「あら、ナイフどこいったかしら」
……まあいいか。
その辺に落ちていた木の棒を軽く魔法で洗浄する。
「これでいいわね」
「いや良くないだろ!?」
構わず、ぐっと力を入れる。
――ぶつり。
「う、うわぁ……」
血が流れ出すのを確認してから、手早く脚の関節に刃を入れる。
無駄に力まず、筋に沿って。
「はい、次これ吊るすから持って」
「なんで僕がそんなこと!」
「お金、ないんでしょう?」
「それは……そうだが……」
「ならつべこべ言わず付き合って。働かざるもの食うべからずよ」
渋々、といった様子で剣士が足を持ち上げる。
手は震えてるし、顔も引きつってる。
「大丈夫よ。ちゃんと食べられるようにするから」
そう言うと、なぜか全員が一歩引いた。
失礼ね。
それでも、手は止めない。
うまく解体できた肉は、思っていたよりずっと綺麗だった。
魔獣なんて言うけれど――変な匂いもしない。
むしろ、見た目はほとんど和牛みたいね。
「おい、お前」
「私の名前はみちえよ」
「……みちえ、さん。本当に、それ食べるのか?」
「ええ。こんなにいいお肉、無駄にする方がもったいないでしょう?」
焚き火を石で囲み、即席の調理場を作る。
「フライパンがないわね……」
周りを見渡して――ふと目に入る。
「あら。その盾、ちょうどいい形してるじゃない」
「おい、それ僕の盾だぞ」
「鉄製でしょ?問題ないわね」
「あるに決まってるだろ!?」
構わずひょい、と取り上げる。
「ちょっ、おい!」
「あとでちゃんと洗って返すわよ」
「そういう問題じゃ――」
軽く魔法で洗浄して、火にかける。
じわ、と熱が入っていくのを確認してから一言。
「はい、これでフライパンの完成」
「いや待てって!!!」
後ろで、魔導士が「うわー」と引いた声を出している。
テイマーは無言で一歩下がっている。
……失礼ね。
じゅわ、と脂の多い部分を先に焼く。
「……いい音」
透明だった脂がじわじわ溶けて、盾の上で踊り出す。
そこに、切り分けた肉を放り込む。
――じゅうっ。
一気に立ち上る香ばしい匂い。
「……え?」
背後で、誰かが小さく声を漏らした。
塩を振って、最後にレモンを少し。
それだけでいい。
「はい、できあがり」
……こんなふうに誰かのために料理をするの、久しぶりだ。
少しだけ、胸の奥があたたかくなる。
フライパンじゃなかったから少し焦げついちゃったけど
とっても上出来だわ
「はい、できあがり」
……こんなふうに誰かのために料理をするの、久しぶりだ。
少しだけ、胸の奥があたたかくなる。
「ほら、冷めないうちに食べなさい。最近まともに食べてないんでしょう?」
差し出した盾の上で、肉がじゅわりと脂を弾く。
「食えるかよ、こんな……」
そう言いながらも、剣士の喉がごくりと鳴った。
「……呪われそうな見た目してるし」
「じゃあやめとく?」
「いや、食う」
観念したように、一切れを口に運ぶ。
「…………っ」
次の瞬間。
「うまい……!」
奪い取るように盾に手を伸ばし、夢中で肉を頬張る。
「おい俺の分がなくなるだろう」
「ずるい!私も!」
さっきまでの態度はどこへやら。
……ほんと、単純。
ふっと目を細める。
お腹を空かせて、我慢できなくて、でも美味しいものを前にすると素直になる。
――ああ。
やっぱり。
異世界だろうがなんだろうが、
お腹を空かせた子供の顔は、あの子とちっとも変わらない。
……だから、放っておけないのよね。
それから少しずつ、関係は変わっていった。
気づけば、当たり前みたいに頼られるようになって――
「みちえさん、僕の剣知りませんか?」
「みちママーー!髪留めどっか行っちゃったー!」
「みちえ、コーヒーの染みは毒消しでいいか?」
……まったく。
今じゃ、すっかりこの調子。
異世界に来てまでお母さんをやるなんて、思ってもみなかったけど。
「みちママ、ちょっと来て!」
「はいはい、今行くわ」
――ああ、もう。
気づけば、ちゃんと返事してる。
……仕方ないわね。
第二の子育ても、悪くないわね。
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