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十八時半の占い師は絶対当たるらしい

作者: にしはじめ
掲載日:2026/03/05


「ねぇねぇ、知ってる?」


 授業も終わり、ホームルーム後の教室で、葵ちゃんが声をかけてきた。


「ん? 何を?」

「絶対当たる占い!」

「絶対当たる?」


 絶対当たる……。

 そんな占いなんてないと思うけど、どんなのかな。


「二年の人が、毎日十八時半に旧校舎の二階の教室で、占いしてるんだって」

「それが当たるの?」

「うん、ほんとに当たったの。以前部活でちょっとあって。それを相談ついでに占ってもらったら、当たったの」


 うわー、胡散臭いなぁ。

 でも、葵ちゃんは当たったって言ってるけど……偶然な気がする。

 しかし十八時半って、完全下校が十九時だから、殆ど時間ないんじゃないのかな。


「でも何で私にそんな話を?」

「美月ちゃん最近悩んでるでしょ? 相談しにいってみたら?」


 確かに最近、成績が落ちてきている。

 どうにも、集中力が足りないというか、何か少しミスをしてしまうんだよね。

 次の試験でも成績が落ちたら、順位が三桁になってしまう。


 でもなぁ……。


「二年の人って、誰か知ってるの?」

「知らない。二年生だって話だから……あ、ごめんそろそろ部活行くね」

「あっ、うん。がんばってね!」

「うん! また明日ね!」


 慌ただしく走り去っていく葵ちゃんを見ながら、考える。

 占いねぇ……。

 でも二年生の人なら、先輩だし、勉強方法の相談してもいいかも。

 それに教室にいるなら、そっと覗いてみて、悪そうな人なら逃げればいいか。


 ただ、まだ十六時半。二時間もあるし……図書館で勉強してようかな。

 あ、お母さんに遅くなるって連絡しておかなきゃ。



 私がスマホを操作していたころ、葵ちゃんが廊下で呟いた。


「あれ? さっき美月ちゃんに何の話をしてたっけ?」



====


 図書館で、イヤホンを付けながら勉強していると、ピピピッ、とアラームが鳴った。

 スマホを見ると十八時二十分。そろそろ旧校舎に行ってみようかな。

 うーん、と伸びをして教科書やらノートを片づけて、図書館を出た。


 そろそろ冬の足音も聞こえてきたのか、すでに外は暗かった。

 私の通う高校は一般的にマンモス校と言われており、生徒数千五百人を超える。

 その分校舎も大きく、入学した当初はよく迷ったものだ。

 そして今から行く旧校舎は、十年ほど前まで使われていて、今でも部室としてごく一部が利用されている。

 そのおかげか、全然暗くはない。


「でもちょっと古臭いんだよね」


 確か築四十年くらいのはずだし、それは仕方がない。

 一階で、料理研究部の子たちがそろそろ部活を終えようとしていた。

 ここの部、ちょっと気になったんだけどね。

 でも一年の時は、勉強に励みたいからと、諦めたのだ。


 そして二階。ここは誰も使ってなかったはずだ。

 そのため、教室の電気は消えていて、なんだかちょっと怖い。

 でも、どこだろ?

 そのまま探していたときだ、急に二つ先の教室の電気が付いた。

 はっとなり、スマホを見るとちょうど十八時半だった。


 えぇ、ジャストにならないとダメなんだ。


 おそるおそる電気のついた教室をこっそり覗くと……そこには、ごく普通の男子生徒が椅子に座って佇んでいた。

 しかも机の前には、占いでよくみる水晶玉があった。


 しかし……二年生だよね。見たことないなぁ。


 でもうちはマンモス校であり、同学年ですら、同クラならともかく、全員を知っているわけではない。

 二年生なら、なおさらだ。

 まあ見た目、というか雰囲気は占い部か何かの人っぽい。


 ……うちに、占い部とかあったっけ?


 まあいいや。とにかく行ってみよう。


「おや、いらっしゃい」


 がらっと教室のドアを開けると、中にいた男子生徒がこちらを見た。

 その顔には、笑顔が浮かんでいた。

 なんだか、ようやく客が来てくれた、という歓迎ムードのようだった。


「こ、こんにちは。あの、ここで占いをやってるって聞いたんですけど……合ってますか?」

「うん、大歓迎だよ。さあ、ここに座ってどうぞどうぞ。あいにくと、お茶は出せないけどね」


 やけに軽い人だ。いや、先輩か。

 私が正面の椅子に座ると、改めて先輩を見る。

 特徴のない顔だ。失礼だけどたぶん、明日には忘れてそう。


 そんな先輩は、目の前に置いてある水晶玉を撫でるように触れた。


「それで、何を占ってほしいのかな?」

「あの、えっと、勉強運を」

「勉強ね」

「はい、最近成績が落ちてきて……」

「なるほど。そのリボンの色だと一年だよね。うちって割と進学校だから、ついていくの大変だもんね」


 確かについていくのが大変だ。

 特に数学が鬼門で、そこで大きく成績を落としている。

 先輩も同じだったのかな。


「じゃあこれを」


 そう言って手渡されたのは、綺麗な刺繍のついたハンカチだった。

 割と高そう。


「これって?」

「ただのハンカチ。それを右手にかけて持って。そうそう、そんな感じ」

「何か意味あるんですか?」

「ふふっ、雰囲気作りだよ」


 雰囲気作りって……えぇ……。


「それで、この水晶玉にそのハンカチをかぶせて」

「あ、はい……」


 おそるおそるハンカチを水晶玉にかぶせた。

 うーん、これが占いなのかなぁ……独創的だよね。 

 しかし、次の先輩の一言が意表をついた。


「で、一生けん命磨く!」

「み、磨く!?」

「そうそう。綺麗にすると、水晶玉も喜んで占ってくれるのさ」

「は、はぁ……」


 水晶玉が喜ぶって……。

 よくわからないまま、軽く埃を落とす感覚で、ハンカチの上から磨いてみた。

 すると、どうだろう。安っぽい電球がついたように、水晶玉が光った。


 ……えぇ、胡散臭い。


 たぶん、リモコンか何かで光るようになっているんだろうけど、すごく胡散臭い。

 本当に占い?


「うん、分かったよ。明日、学校帰りに駅前にある書店、駅前書房の参考書コーナー、右から二列目の下から二段目、左から六番目にある青い表紙の本を買って読んでみて」

「下から……えっ? やけに具体的ですね」


 もう一度いうけど、本当に占い?

 具体的すぎない?


「ふふっ、そうでしょ。自信あるんだ」

「すみません、もう一度言ってもらえますか?」

「右から二列目、下から二段目、左から六番目の青い表紙の本」


 慌てて、スマホのメモ帳に書いておく。

 右二列……下二段……左六番目……。


 この本を買って読めってことね。

 本当に胡散臭いなぁ。


「えっと、お代とかは?」

「ん? いらないよ。これは趣味だからね。当たったら、誰かに話してみて」

「は、はぁ……それでいいんですか」

「うん、君も噂を聞いてきたんでしょ? 客引きお願いね」


 当たれば噂してねってことか。

 あー、葵ちゃんも当たったから、私に噂として話したのか。なるほど。


「わかりました」

「じゃあ、そろそろ遅くなるし、もう帰ったほうがいいよ。女の子の夜道は危険だからね」

「あっはい。じゃあ失礼します。ありがとうございました」

「はーい、またね」


 そして教室を出た瞬間、不意に気が付いた。

 そういえばあの先輩、どうやって教室に入ったんだろう。

 廊下にはいなかったし、まさか十八時半になるまで、真っ暗な教室で待ってたのかな。



 そうして翌日の学校帰り、先輩に言われた通り駅前の本屋へと寄ってみた。

 えっと、参考書コーナーの……右から二列目、下から二番目、左から六番目の青い表紙。


 ……ほんとにあった。


 ぱらぱらと中身を確認すると、数学一とAが一緒になっている参考書だった。

 なぜ、私が数学苦手って分かったんだろう。

 値札を見ると千二百円。うーん……まあいいや、買っちゃえ。


 レシートを貰って財布にしまっておいた。

 あとでお母さんに言えば、もしかすると支払った分が、返ってくるかもしれないからね。


====


「陽菜ちゃん、知ってる?」

「えっ……美月さん、どうしたのですか?」

「絶対当たる占いのこと」

「絶対当たる……のですか? それって占いじゃない気がしますけど……」


 絶対・・に、当たるのだ。

 私も参考書を開いたとき、なぜか赤ペンが引かれている部分があって、そこを重点的に覚えたら、なぜだかテストのときにその数式が山ほど出てきた。

 そのおかげで、今回の数学のテストは、ほぼ満点に近かった。

 先輩にお礼しようと思って、十八時半にあの教室を訪れたけど、真っ暗なままで誰もいなかった。


 仕方なく言われた通り、誰かに話すことにしたんだよね。


「そうだよね。私も葵ちゃんから聞いたんだけど、最初は胡散臭いと思ったの。でも当たったんだよ。でね、陽菜ちゃん、最近なんだか悩んでいるでしょ」

「あっはい。お付き合いしている方がいるのですが、両親に反対されておりまして……」


 陽菜ちゃんの家はお堅いからなぁ。

 でも大丈夫。

 あの先輩なら、どんなこと・・・・・だろうが・・・・、当たるから。


「一度行ってみるといいよ。十八時半に旧校舎の二階の教室に、二年生の先輩がいるから」

「えっと……占い……ですよね? 私のは占いではなく、相談だと思うのですが」

「大丈夫!」

「……はぁ……美月さんが、そういうのなら……」

「当たるからね!」

「はい、分かりました。もう、美月さんったら」


 苦笑いをされてしまった。

 でも、本当に当たるのだ。


「じゃあ、私は図書館で勉強してから帰るから」

「はい、頑張ってください」


 そうして、陽菜ちゃんと別れた私は、図書館へと歩いて行く。

 そしてふと気が付いた。


 ……あれ? 陽菜ちゃんと何の話していたんだっけ?


 思い出せない。なんだっけ?

 首を傾げながら考えるけど、結局思い出せなかった。



 そういえば、ちょっと小腹が空いてしまった。

 まだ購買部が空いてる時間だし、パンでも買っておこうかな。


 ……あれ?


 お財布の中身、千円ちょっと減ってないかな。何を買ったんだっけ……?

 何か高いもの買ったら、レシートをしまっておくようにしてるんだけど、それも無いし……うーん。

 そのあと図書館に着いてから、何気なくスマホを覗き込み、普段から活用していたメモ帳を開く。

 そこには、何も書かれていなかった。




 ――ふふっ、ごちそうさまでした。



怖くないですよねー

ちょっぴりホラーです



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