十八時半の占い師は絶対当たるらしい
「ねぇねぇ、知ってる?」
授業も終わり、ホームルーム後の教室で、葵ちゃんが声をかけてきた。
「ん? 何を?」
「絶対当たる占い!」
「絶対当たる?」
絶対当たる……。
そんな占いなんてないと思うけど、どんなのかな。
「二年の人が、毎日十八時半に旧校舎の二階の教室で、占いしてるんだって」
「それが当たるの?」
「うん、ほんとに当たったの。以前部活でちょっとあって。それを相談ついでに占ってもらったら、当たったの」
うわー、胡散臭いなぁ。
でも、葵ちゃんは当たったって言ってるけど……偶然な気がする。
しかし十八時半って、完全下校が十九時だから、殆ど時間ないんじゃないのかな。
「でも何で私にそんな話を?」
「美月ちゃん最近悩んでるでしょ? 相談しにいってみたら?」
確かに最近、成績が落ちてきている。
どうにも、集中力が足りないというか、何か少しミスをしてしまうんだよね。
次の試験でも成績が落ちたら、順位が三桁になってしまう。
でもなぁ……。
「二年の人って、誰か知ってるの?」
「知らない。二年生だって話だから……あ、ごめんそろそろ部活行くね」
「あっ、うん。がんばってね!」
「うん! また明日ね!」
慌ただしく走り去っていく葵ちゃんを見ながら、考える。
占いねぇ……。
でも二年生の人なら、先輩だし、勉強方法の相談してもいいかも。
それに教室にいるなら、そっと覗いてみて、悪そうな人なら逃げればいいか。
ただ、まだ十六時半。二時間もあるし……図書館で勉強してようかな。
あ、お母さんに遅くなるって連絡しておかなきゃ。
私がスマホを操作していたころ、葵ちゃんが廊下で呟いた。
「あれ? さっき美月ちゃんに何の話をしてたっけ?」
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図書館で、イヤホンを付けながら勉強していると、ピピピッ、とアラームが鳴った。
スマホを見ると十八時二十分。そろそろ旧校舎に行ってみようかな。
うーん、と伸びをして教科書やらノートを片づけて、図書館を出た。
そろそろ冬の足音も聞こえてきたのか、すでに外は暗かった。
私の通う高校は一般的にマンモス校と言われており、生徒数千五百人を超える。
その分校舎も大きく、入学した当初はよく迷ったものだ。
そして今から行く旧校舎は、十年ほど前まで使われていて、今でも部室としてごく一部が利用されている。
そのおかげか、全然暗くはない。
「でもちょっと古臭いんだよね」
確か築四十年くらいのはずだし、それは仕方がない。
一階で、料理研究部の子たちがそろそろ部活を終えようとしていた。
ここの部、ちょっと気になったんだけどね。
でも一年の時は、勉強に励みたいからと、諦めたのだ。
そして二階。ここは誰も使ってなかったはずだ。
そのため、教室の電気は消えていて、なんだかちょっと怖い。
でも、どこだろ?
そのまま探していたときだ、急に二つ先の教室の電気が付いた。
はっとなり、スマホを見るとちょうど十八時半だった。
えぇ、ジャストにならないとダメなんだ。
おそるおそる電気のついた教室をこっそり覗くと……そこには、ごく普通の男子生徒が椅子に座って佇んでいた。
しかも机の前には、占いでよくみる水晶玉があった。
しかし……二年生だよね。見たことないなぁ。
でもうちはマンモス校であり、同学年ですら、同クラならともかく、全員を知っているわけではない。
二年生なら、なおさらだ。
まあ見た目、というか雰囲気は占い部か何かの人っぽい。
……うちに、占い部とかあったっけ?
まあいいや。とにかく行ってみよう。
「おや、いらっしゃい」
がらっと教室のドアを開けると、中にいた男子生徒がこちらを見た。
その顔には、笑顔が浮かんでいた。
なんだか、ようやく客が来てくれた、という歓迎ムードのようだった。
「こ、こんにちは。あの、ここで占いをやってるって聞いたんですけど……合ってますか?」
「うん、大歓迎だよ。さあ、ここに座ってどうぞどうぞ。あいにくと、お茶は出せないけどね」
やけに軽い人だ。いや、先輩か。
私が正面の椅子に座ると、改めて先輩を見る。
特徴のない顔だ。失礼だけどたぶん、明日には忘れてそう。
そんな先輩は、目の前に置いてある水晶玉を撫でるように触れた。
「それで、何を占ってほしいのかな?」
「あの、えっと、勉強運を」
「勉強ね」
「はい、最近成績が落ちてきて……」
「なるほど。そのリボンの色だと一年だよね。うちって割と進学校だから、ついていくの大変だもんね」
確かについていくのが大変だ。
特に数学が鬼門で、そこで大きく成績を落としている。
先輩も同じだったのかな。
「じゃあこれを」
そう言って手渡されたのは、綺麗な刺繍のついたハンカチだった。
割と高そう。
「これって?」
「ただのハンカチ。それを右手にかけて持って。そうそう、そんな感じ」
「何か意味あるんですか?」
「ふふっ、雰囲気作りだよ」
雰囲気作りって……えぇ……。
「それで、この水晶玉にそのハンカチをかぶせて」
「あ、はい……」
おそるおそるハンカチを水晶玉にかぶせた。
うーん、これが占いなのかなぁ……独創的だよね。
しかし、次の先輩の一言が意表をついた。
「で、一生けん命磨く!」
「み、磨く!?」
「そうそう。綺麗にすると、水晶玉も喜んで占ってくれるのさ」
「は、はぁ……」
水晶玉が喜ぶって……。
よくわからないまま、軽く埃を落とす感覚で、ハンカチの上から磨いてみた。
すると、どうだろう。安っぽい電球がついたように、水晶玉が光った。
……えぇ、胡散臭い。
たぶん、リモコンか何かで光るようになっているんだろうけど、すごく胡散臭い。
本当に占い?
「うん、分かったよ。明日、学校帰りに駅前にある書店、駅前書房の参考書コーナー、右から二列目の下から二段目、左から六番目にある青い表紙の本を買って読んでみて」
「下から……えっ? やけに具体的ですね」
もう一度いうけど、本当に占い?
具体的すぎない?
「ふふっ、そうでしょ。自信あるんだ」
「すみません、もう一度言ってもらえますか?」
「右から二列目、下から二段目、左から六番目の青い表紙の本」
慌てて、スマホのメモ帳に書いておく。
右二列……下二段……左六番目……。
この本を買って読めってことね。
本当に胡散臭いなぁ。
「えっと、お代とかは?」
「ん? いらないよ。これは趣味だからね。当たったら、誰かに話してみて」
「は、はぁ……それでいいんですか」
「うん、君も噂を聞いてきたんでしょ? 客引きお願いね」
当たれば噂してねってことか。
あー、葵ちゃんも当たったから、私に噂として話したのか。なるほど。
「わかりました」
「じゃあ、そろそろ遅くなるし、もう帰ったほうがいいよ。女の子の夜道は危険だからね」
「あっはい。じゃあ失礼します。ありがとうございました」
「はーい、またね」
そして教室を出た瞬間、不意に気が付いた。
そういえばあの先輩、どうやって教室に入ったんだろう。
廊下にはいなかったし、まさか十八時半になるまで、真っ暗な教室で待ってたのかな。
そうして翌日の学校帰り、先輩に言われた通り駅前の本屋へと寄ってみた。
えっと、参考書コーナーの……右から二列目、下から二番目、左から六番目の青い表紙。
……ほんとにあった。
ぱらぱらと中身を確認すると、数学一とAが一緒になっている参考書だった。
なぜ、私が数学苦手って分かったんだろう。
値札を見ると千二百円。うーん……まあいいや、買っちゃえ。
レシートを貰って財布にしまっておいた。
あとでお母さんに言えば、もしかすると支払った分が、返ってくるかもしれないからね。
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「陽菜ちゃん、知ってる?」
「えっ……美月さん、どうしたのですか?」
「絶対当たる占いのこと」
「絶対当たる……のですか? それって占いじゃない気がしますけど……」
絶対に、当たるのだ。
私も参考書を開いたとき、なぜか赤ペンが引かれている部分があって、そこを重点的に覚えたら、なぜだかテストのときにその数式が山ほど出てきた。
そのおかげで、今回の数学のテストは、ほぼ満点に近かった。
先輩にお礼しようと思って、十八時半にあの教室を訪れたけど、真っ暗なままで誰もいなかった。
仕方なく言われた通り、誰かに話すことにしたんだよね。
「そうだよね。私も葵ちゃんから聞いたんだけど、最初は胡散臭いと思ったの。でも当たったんだよ。でね、陽菜ちゃん、最近なんだか悩んでいるでしょ」
「あっはい。お付き合いしている方がいるのですが、両親に反対されておりまして……」
陽菜ちゃんの家はお堅いからなぁ。
でも大丈夫。
あの先輩なら、どんなことだろうが、当たるから。
「一度行ってみるといいよ。十八時半に旧校舎の二階の教室に、二年生の先輩がいるから」
「えっと……占い……ですよね? 私のは占いではなく、相談だと思うのですが」
「大丈夫!」
「……はぁ……美月さんが、そういうのなら……」
「当たるからね!」
「はい、分かりました。もう、美月さんったら」
苦笑いをされてしまった。
でも、本当に当たるのだ。
「じゃあ、私は図書館で勉強してから帰るから」
「はい、頑張ってください」
そうして、陽菜ちゃんと別れた私は、図書館へと歩いて行く。
そしてふと気が付いた。
……あれ? 陽菜ちゃんと何の話していたんだっけ?
思い出せない。なんだっけ?
首を傾げながら考えるけど、結局思い出せなかった。
そういえば、ちょっと小腹が空いてしまった。
まだ購買部が空いてる時間だし、パンでも買っておこうかな。
……あれ?
お財布の中身、千円ちょっと減ってないかな。何を買ったんだっけ……?
何か高いもの買ったら、レシートをしまっておくようにしてるんだけど、それも無いし……うーん。
そのあと図書館に着いてから、何気なくスマホを覗き込み、普段から活用していたメモ帳を開く。
そこには、何も書かれていなかった。
――ふふっ、ごちそうさまでした。
怖くないですよねー
ちょっぴりホラーです




