王都への道と国歌
1.王都への道
王都へ至る道程は、戦ではなかった。
だが、王国を変えるうえで、
あれほど重要な時間もなかったと、今にして思う。
ハルトは橋を直した。
それは単なる修繕ではない。
断たれていた流れをつなぎ、
王都と民とを結び直す行為であった。
ミツキは絵を描いた。
戦場ではなく、復興の只中にある人々の姿を。
それは剣よりも雄弁に、王女が何者であるかを語った。
そしてコージの歌。
声を張り上げるでもなく、強制するでもなく、
ただ、共に歩くための旋律が、民の間に広がっていった。
――民とともに歩く王女。
その物語が、作られたのではなく、
自然に形を成していく過程を、私は確かに見ていた。
その歩みに寄り添えたことは、
騎士として、これ以上ない栄誉であった。
もっとも、その最中、
歴女アヤはずいぶんと様子がおかしかった。
緊張が解けたのか、道端で足を取られ、
酒が入れば王女に抱きつき、
周囲を困惑させる場面も少なくなかった。
だが、それもまた、
彼女がそれまで背負ってきた重責の裏返しであろう。
本来であれば、不敬とも取られかねぬ振る舞い。
しかし、若き女が国の命運を背負い続けてきたことを思えば、
それを咎めぬこともまた、英雄の余裕である。
私は、笑って見過ごすことにした。
2.王位の禅譲と国歌
やがて、前王との対面の時が訪れる。
「――お前が、この国を背負うのか」
その問いは重い。
刃よりも、鎧よりも。
アリア様は、わずかに言葉を失われた。
その背後から、私は一言だけ告げた。
「我が剣は、あなたの覚悟とともに」
もしこの場で、
王女が不敬として断罪されるならば、
その時は共に首を差し出す覚悟であった。
だが、その言葉が支えとなったのか、
アリア様は顔を上げ、国を背負う決断を示された。
前王は、それを見届け、
静かに王位を禅譲された。
その瞬間に立ち会えたことで、
これまでの苦難は、すべて報われたと言ってよい。
――だが、政治は象徴を必要とする。
若く、しかも女王。
何も示さねば、貴族たちは必ず軽んじる。
そこで私は、コージに提案した。
「国歌を作ってくれ」
彼は迷った。
当然だ。国の方向を定める歌など、容易に担えるものではない。
それでも私は背中を押した。
そして、悩み続ける彼の傍らで、
静かにこう告げた。
「君たちが歩んできた道を、そのまま歌にすればいい」
そうして生まれたのが
《With Wisdom》。
王と民が共に歩くという理念。
それは、新しい王国の歩みそのものを写し取った歌であった。
国歌は皆のものである。
最後に整えたのはコージ。
承認したのはアリア様。
その過程に立ち会えたことを、
私は誇りに思っている。
3.アヤの抗議
……本を閉じたアヤが、眉を吊り上げた。
「ちょっと。なんで私だけ失敗談なのよ」
「事実だからだろ」
ハルトが淡々と返す。
「酔って絡んでたの、あれ事実だよね」
ミツキも続けた。
「次の日、完全に二日酔いだったし」
「やめて!!
私の黒歴史、封印!!」
コージが悪びれずに言う。
「じゃあ歌にしようか。
『私が歴史に残す――のっ』って」
「やめろ!!
本当にやめろ!!」
「歴女として、それでいいの?」
ハルトが追撃する。
「黙れ、地理オタ」
4.禅譲と国家
アヤは一息ついてから、視線を向けた。
「それより。
前王との問答、ルークスいなかったじゃない」
「ああ」
ルークスが頷く。
「あそこに入るのは、さすがに場違いだ」
「というか」
ハルトが言う。
「ダリウスの見せ場、だいぶ奪われてない?」
「構わない」
ダリウスは静かに答えた。
「目立つのは趣味じゃない」
「それよりさ」
コージが割って入る。
「国歌だよ、国歌。
やろうって言ったのも、書いたのも俺だろ」
「めちゃくちゃノリノリだったよね」
ミツキが笑う。
「推しの歌の作詞作曲は、ドルオタの誉れ、とか言って」
「一時間ごとに、歌詞チェック頼まれましたね」
アリアが微笑む。
「忙しかったですが、
国の方向を示す歌ですから、私も真剣でした」
ハルトがまとめる。
「……ということで。
ここ、かなり捏造だね」
アヤが腕を組んだ。
「私の名誉回復、
どこかでちゃんとあるんでしょうね?」
誰も、即答しなかった。




