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鉱山の戦い(英雄編)

1.自己犠牲の奇策を止められる

 仕方ないことではあったが、

 俺は皆につらく当たってきた。

 そこで、それまでの贖罪として鉱山の運搬用に使っていた

 牛に乗って敵陣突撃を考えた。

 他の牛の角に松明を括り付け、

 後ろからはやし立てれば、

 おそらく牛は敵陣に突っ込む。

 そうすれば、敵は壊滅するだろう。

 俺一人の犠牲で済むなら安いものだ、そう思った。

 だが、そのような案を提案したものの、

 アヤが私を止めてくれた。

 表面上冷たくあしらっていて、

 感情的には私に恨みを持っていてもおかしくないのに、

 無謀な策を止めるとはさすがだと、

 軍師としての才能を感じた。


2.夜襲の提案

 ならばと、次の案は夜襲だった。

 夜は、鉱山にとっても重い。

 昼の喧騒が嘘のように消え、

 岩と土と汗の匂いだけが、山に残る。

 その夜、

 俺たちは静かに弓を握っていた。

 敵は近衛。

 王国が誇る精鋭騎兵団。

 正面からぶつかれば、坑夫たちに勝ち目はない。

 だが——

 戦は、正面だけで行うものではない。

 ルークスは、山の稜線を見上げた。

 星は出ていない。

 闇が、味方をしていた。

「……始めるぞ」

 低い声で告げると、

 影の中から弓兵たちが姿を現した。

 二十名。

 かつて近衛に属し、今は鉱山に落とされた者たち。

 彼らは声を発さず、ただ頷く。

 狙うのは、兵ではない。

 馬だ。

 指揮の合図と同時に、

 矢が夜を裂いた。

 シュッ——

 シュッ——

 シュッ——

 次の瞬間、山に悲鳴が響く。

 馬が暴れ、

 蹄が地を打ち、

 陣が崩れた。

「敵襲だ!!」

「どこだ!? 見えない!!」

「馬を抑えろ!!」

 混乱は瞬く間に広がる。

 私は矢を継ぎ足しながら敵を静かに見下ろしていた。

(恐怖は、士気を削る)

 一晩眠れぬ軍は、

 翌日、剣を振るう力を失う。

 それを、彼は知っていた。


3.罠に嵌める

 夜明け。

 近衛騎兵団は、山道を進軍してきた。

 坑夫たちは、あえて姿を見せる。

 逃げる。

 追わせる。

「騎兵有利だ!!」

「突撃!!」

 ベルトランの号令とともに、

 騎兵が一斉に駆けた。

 だが——

 次の瞬間。

「なっ……!?」

 馬が止まった。

 地面に埋められた槍柵。

 幾重にも重ねられた、逃げ場のない罠。

 脚を取られ、

 馬が暴れ、

 騎兵が落ちる。

 坑夫たちの怒号が、山に響いた。

「どうした近衛!!」

「馬の扱い、下手くそだなァ!!」

 恐怖が、怒りに変わり、

 怒りが、混乱に変わる。

 そのすべてを見据えながら、

 私は最後の策を実行した。

 退路を——

 完全には、塞がなかった。

 馬一頭が、やっと通れるほどの細道。

 兵は、生きたい。

 逃げられると思った瞬間、戦う意志を捨てる。

 近衛は、崩れた。


4.鉱山の戦いの後悔

 戦の終わりが見えた、そのとき。

 油断が生じた。

 残党が、最後の突撃を仕掛ける。

「ダリウス!!」

 私は叫んだ。

 だが、間に合わない。

 刃が振り下ろされる——

 その前に、

 一人の男が飛び込んだ。

 盾となり、

 血を流し、

 命を落とした。

 私は、その光景を一生忘れない。

 自分が、もっと早く気づいていれば。

 もっと、冷静でいれば。

 戦は勝った。

 だが、すべてを救えたわけではない。

 それでも。

 私は立ち続けた。

 剣を握り、

 仲間を守り、

 最後まで前に立った。

 その背に、

 坑夫たちは集った。

 誰もがわかってくれていた。

 私がいたから、

 今日を生きているのだと。

 こうして、鉱山の戦いは終わった。

 英雄の名は、

 静かに山に刻まれた。

 ——ルークス・ハーヴェイ。

 鉱山でくすぶっていた中年は、

 この日、戦場の中心に立っていた。



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