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第5話 赦しと喪失

白菊の光が消えた境内で、冷たい風だけが吹いている。


ルカは、その場に崩れ落ちた。


「……私の、せい」


目の前で、九条恒一は光になって消えた。


自分が、恒一が愛する彩乃を危険に晒してしまったせいで。


「私が……遊びみたいに……」


ルカの頬に、何度も涙が流れた。


「私が、殺した……」


震えが止まらない。


怖いーー。


取り返しがつかない事をした事実に、ルカは怯えていた。


そんな姿を彩乃は、静かに見つめていた。


本当なら憎むべき相手。


恒一を死に追いやった存在。


それでも彩乃はルカに近づいて、ルカの頭に優しく手を置いた。


「……君のせいじゃない」


ルカが顔を上げと、涙で歪んだ瞳が揺れていた。


「私は君と、違う形で出会いたかったよ」


彩乃の声が、少しだけ揺れる。


確かに違う形で2人は出会えたら、恒一とも仲良くなれたかもしれない。


「……今からでも遅くない」


彩乃はルカの頭に触れた右手を差し出した。


「恒一さんを忘れない為に、私と友達になってくれないか?」


玲央も蓮も息を呑む。


2人には理解出来ないだろう。


自分の愛する人を死に追いやった奴と、友達になるなんて。


「……東雲さん……」


ルカの言葉に、嗚咽が混じる。


「本当に……ごめんなさい……私を……許してくれる……?」


震える手が、差し出された手へ伸びる。


その瞬間。


――ぐしゃ……


彩乃の手は、希望の手は握られなかった。


ルカの胸を、黒い腕が背後から貫いていた。


「……え?」


自分の胸から伸びる腕を、ルカは呆然と見下ろす。


黒牙はいつの間にかルカの背後に立っていた。


「飽きた。お前は用済みだ」


黒牙の腕が、ルカの身体から引き抜かれた。


「……東雲……さん…ごめんなさい……」


それが、ルカの最期の言葉だった。


ルカの身体は黒牙の影に侵食されていく。


足元から、指先から、顔まで。


「ルカさん!」


彩乃がルカの身体に手を伸ばそうとしたが、ルカは完全に取り込まれてしまった。


そして残酷にも、血痕だけが残る。


「美味しい、欲望だったよ。今度はお前の欲望を食べてみたいぜ」


黒牙は舌なめずりし、夜の暗闇に消えた。


蓮は眉をピクリと動かし、顔を上げる。


「……誰か居る」


屋根の上に、月を背に二つの影があった。


顔はよく見えないが、何故か懐かしい気がした。


途端に玲央の呼吸が止まる。


「……陽菜?」


目を見開く。


「陽菜!!」


女は玲央に視線を落とすが、その瞳は冷たい。


「……誰?」


玲央の心臓が止まったように静まる。


「何、言ってんだよ……」


「知らない。貴方なんて、知らない」


陽菜は迷いなく言う。


その声に、かつての陽菜の面影はない。


「違う……玲央、陽菜じゃない。何か、おかしい」


陽菜の隣に居る女が、口を開いた。


「陽菜は、私と契約した。貴方の事は何一つ覚えてなんかいないよ」


玲央の拳が震える。


「返せよ……」


「返す?」


「行きましょ、白夜(びゃくや)。……貴方とはまた今度、遊んであげる」


陽菜の身体が淡く光り、白夜の気配に溶ける。


そして屋根の上には、月だけが残った。


玲央は立ち尽くす。


陽菜は生きていた。


だが、以前の彼女ではなかった。


恒一は消えた。


ルカも消えた。


誰1人、救えなかった。


彩乃は静かに空を見上げる。


「恒一さん。ルカさん。私は忘れない」


今夜は酷く冷えそうだ。

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