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第4話 白菊は還る

夜の神社。


冷えた石畳に、黒が滲む。


一ノ瀬ルカは笑っていた。


「東雲彩乃。あなたって、ほんとに強いの?」


足元から影が溢れる。


黒い牙が地面を裂き、一直線に襲いかかる。


彩乃は横へ跳び、空中で刃を振るう。


斬られた影が散るが、消えない。


霧のように再形成し、背後から鎖となって絡みつく。


彩乃は咄嗟に斬ったのだが一瞬遅かった。


肩を裂かれ、鮮血が夜に飛ぶ。


「はぁー、つまんないんだけど。これじゃ、家でゲームしてた方がマシ」


ルカが指を弾くと、影が十にも百にも増えたのだ。


境内を覆う黒い怪しげな影。


彩乃は呼吸に集中した。


いくらその影を斬ろうが、湧き出てくる。


彩乃は突然足元を掬われ、石畳に膝を打ってしまう。


隙を見逃さ無かったルカの黒い巨大な爪が、彩乃の喉元に迫ってくる。


間に合わないーーー。


「終わりよ。私の完全勝利」


その瞬間、白い閃光が影を真っ二つに割いた。


ルカの目の前に、九条恒一が立っていたのだ。


白衣のままで、息は荒いようだ。


「下がってください、彩乃さん」


恒一の右腕が微かに光り、手首から肘へ、そして首筋まで巻き付くように浮かぶ白い菊の紋が浮かぶ。


「坊ちゃん。無茶だけはしないでください」


「……えぇ」


恒一が手にしている刀から、優しい声がした。


「彩乃さんは、僕が守ります」


白菊が強く輝いたと思うと、影が弾け飛んだ。


「なんなのよ……なんで!なんで此奴がいいの!」


ルカは、黒牙の力をさらに解放する。


巨大な闇の腕が境内を叩き潰す。


恒一が真正面から受けると、右腕から血が滴る。


「坊ちゃん!」


椿の声が響き渡るが、恒一は止まらない。


「彩乃さんを、守れるなら」


境内を覆っていた怪しげな影は音もなく断ち切られ、ルカの影が消滅する。


そしてーーー


「……え?」


ルカの声が掠れたと同時に、恒一の身体が淡く光る。


足元から粒子へ変わっていき、崩れていく。


消えてしまいそうな恒一の身体を、彩乃は抱きとめた。


「恒一さ、ん」


その声は弱く、震えている。


「守れましたか……?」


「……はい」


「最期に、貴女の傍にいれて、良かった……」


「待ってーー」


彩乃が恒一の頬を触ろうとしたが、すり抜ける。


「坊ちゃんを、守れなくてごめんなさい」


人の姿に戻った椿が静かに言う。


恒一はそのまま薄くなっていき、光になって夜空に舞い上がって行った。


血も肉も残さず。


「彩乃様。ありがとう、ございました。私も、坊ちゃんと共に参ります」


椿が彩乃に向かって頭を下げると、恒一と同じように光の粉となって夜へ溶けて行った。


恒一と椿が夜空に溶け込んだ頃、玲央と蓮が駆けつけた。


「……何が」


彩乃はその場に座り込み、恒一が消えてしまった空を掴む。


声を出さずに泣いていた。


肩が小さく震える。


強いはずの彼女が。


玲央はそんな彩乃に近づき、何も言わず抱き締めた。


彩乃は抵抗せず、むしろ少しだけ玲央の服の袖を掴んだ。


玲央の胸がチクリと傷んだ。


ーこの人を守らなければーー


もう誰も、消えさせない。


そのすぐ近くで、ルカは立ち尽くしていた。


自分の目の前で、愛していた恒一が光になって消えた。


リセットもない。


初めからやり直しも出来ない。


存在ごと、消えてしまった。


「……私」


喉が震え、足が一歩、後退する。


これはゲームじゃない。


自分は、取り返しのつかないことをしてしまったのだと。

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