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第2話 届かない背中

放課後の武道場は、静まり返っていた。


引き戸を開けると、夕陽に染まった床板の中央に彩乃が立っている。


「いらっしゃい」


「…どうも」


彩乃の冷たい視線は、玲央の左目をまっすぐ射抜いていた。


「まずは挨拶でも。ご存知の通り、私は柔道部主将の東雲 彩乃だ。君の事も知っている」


「話をしたくて呼んだわけではないでしょう?要件は?」


「ちょっと私と手合わせしないか?」


彩乃の提案に、玲央はわずかな焦りが滲む。


彩乃が何を考えているか分からないが、本気だ。


玲央は唾を飲み込み、息を整える。


今はあの危険な状態ではないが、踏み込んで彩乃と距離を縮めた。


玲央は彩乃の胸元に拳を放つ。


――消えた。


視界から彩乃が消え、次の瞬間背後から衝撃が走り、玲央は床に叩きつけられる。


「遅い」


玲央が立て直そうと起き上がる前に、玲央の首元へ手刀が止まった。


「1本。私の勝ちだな」


「……もう1度お願いします」


今度は視線を逸らさない。


彩乃の肩の動き、足の向き、重心。


拳、蹴り、連撃。


全て避けられ、逆に足を払われて玲央は体勢を崩される。


すると脇腹に彩乃の肘が入る。


「力が入りすぎてる。感情をあまり、高ぶらせてはダメだよ」


玲央は昨日の戦いがよぎった。


無意識に身体が動き、止まらなかった刃。


壊すことに躊躇がなかった自分。


再び玲央の左目の奥が熱を帯び始めた。


「実戦以外で出さない方がいい。…ここで出すようなら君を殺さないといけなくなる」


玲央は歯を食いしばり、呼吸を整える。


今は彩乃との手合わせに集中を向け、玲央は踏み込んでみた。


偶然かもしれないが、玲央の拳が彩乃の袖をかすめる。


一瞬だけ、彼女の目が細くなった気がした。


だが次の瞬間、玲央は腕を取られて床に抑え込まれる。


「今のはいい動きだ。それが実戦で出るといいな」


彩乃はそう言うと玲央から離れ、柔道着を整えた。


「どうして、昨日初めてあった俺にそこまで」


玲央が問いかけると、彩乃は少しだけ間を置いた。


「放っておくとすぐに死んでしまいそうだったから。私はこれ以上、死を見たくないんだ」


彩乃の冷たい瞳は、何処か寂しげだった。


「明日もこの時間に待ってる。必ず、来るように」


そのとき。


彩乃の視線が武道場の入口へ向く。


「そこに居るのは誰?柔道部に入部しに来たのかな?」


戸の陰から現れたのは、蓮だった。


「……通りかかっただけだ」


「嘘だね。君は、神崎くんの友達かな?」


一瞬、空気がピリついた気がした。


すると、玲央の左目が微かに反応する。


「君は知らないふりをしてるんだね。こんな近くにまだ居たなんてね」


「……お前には関係ない」


「神崎くん。君の周りはもう、普通じゃないよ。それだけは胸に留めておきなさい」


彩乃はそれだけ言い残し、武道場から去っていく。


武道場には玲央と蓮だけが残された。


「なんでここに?」


「教室に居ないから探しに来たんだ。そしたら、武道場に入って行くお前を見かけて」


玲央は知らなかった。


身近にも、自分と同じ悩みを抱える契約者が居る事を。











ーーーネオンが滲む夜の街。


キャバクラの裏口から、このお店のナンバーワンキャバ嬢の一ノ瀬ルカが出てくる。


昨日美容院で染めたばかりのミルクティーブラウンの髪色が、夜の街で煌びやかに輝いていた。


「ほんと、既読スルーとかありえない」


スマホに表示された名前に目を向け、ルカは舌打ちした。


九条恒一。


「東雲彩乃より私の方がいいでしょ」


「俺もそう思うぜ?」


ルカの背後から声がした。


背筋が何故か凍るような声色で、ルカはゆっくりと振り返ると、見た事の無い黒の和装を身にまとった男が立っている。


「だ、誰よあんた」


「おっと……そんな怖がるなよ。あー、人間はまず、挨拶からするんだよな。俺は黒牙(こくが)だ」


「なんの用?スカウトなら間に合ってるわ」


「九条恒一」


黒牙は微笑んだ。


ルカの口元が一瞬動いた。


「お前は九条恒一を手に入れたい。でも、東雲彩乃が邪魔なんだよな?俺なら、どうにかしてあげられるぜ?」


ルカは急に笑いだした。


「面白そうじゃん。私は何をすればいい?」


「俺と契約してくれたらいい。後は、東雲彩乃を好きにしたらいいさ。お前は力が手に入る。殺すか、痛めつけるか。これはゲームみたいなもんさ。強い者が勝つ。ゲームってそうだろ?」


「私、ゲーム大好き。丁度スマホのゲームに飽きてきた所だったの。やるわ」


その言葉と同時に、ルカの足元の影がゆらりと歪む。


「楽しみだな、ルカ」


その夜、ルカの欲望は謎の男と手を結んだ。

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