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第15話 残華

白夜は、薄く笑った。


「……まだ、邪魔者が居るなぁ」


その視線が、地面に落ちた小夜の刀へ向く。


彩乃が息を呑む。


「やめろ――」


白夜の足が、静かに振り下ろされた。


パキッ。


乾いた音がしたと思うと、刀身に亀裂が走る。


ミシリ。


そして、真っ二つに折れた。


怜央と彩乃は、その意味を知っている。


刀剣が折れるか、契約者が死ぬか、どちらかで存在は終わってしまう。


「……小夜」


彩乃の声がかすれ、折れた刀から淡い光が溢れた。


小夜が透明になりながら、人の姿で現れる。


「ごめんね……彩乃……パンケーキ……行きたかったな……」


彩乃の手が震えながら小夜を抱き寄せる。


「馬鹿……謝るな……」


小夜は、ぎゅっと抱きついた。


「ありがとう……大好きだよ」


その身体が、粒子へと崩れ始める。


桜の花弁のように、彩乃の頬を涙が伝う。


「小夜……!」


光は消え、そして彩乃の足元が、同じように崩れ始める。


「……あぁ、そうか」


怜央が駆け寄る。


「彩乃さん……!」


彩乃は、弱く笑った。


「すまない……怜央……私も、小夜の所へ行かなければ……約束、したのに…期間限定の……パンケーキ……怜央と食べたかったよ……」


怜央は、泣かないように必死だった。


「彩乃さん……」


声が震える。


「……愛してます」


言ってしまった。


ずっと言えなかった言葉。


彩乃の瞳が、驚きで揺れる。


そして――柔らかく細められた。


「……私もだ」


怜央が唇を重ねると、彩乃の身体が、完全に光へ変わった。


腕の中から、消える。


「……っ」


声にならない叫び。


怜央の左目が紅く染まり、桜の紋が灼けるように輝いた。


怒りでも悲しみでもなく、喪失そのもの。


白夜が、愉しげに笑う。


「その顔が見たかったよ」


覚醒した怜央は、何も言わない。


空気が裂け、白夜の表情が変わる。


「いいね……最高」


戦いは、一瞬だった。


紅い光が走り、白夜の胸を貫く。


負けた筈なのに、白夜は笑っていた。


「……これだ。これを待っていた」


身体が崩れ始め、その向こうで、陽菜が膝から崩れ落ちる。


「白夜……?」


怜央が抱きとめる。


「陽菜?……陽菜!」


足元から、粒子が舞い上がっている。


陽菜の瞳が揺れた。


「……怜央? あれ……私……」


記憶が戻ったようだが、遅い。


怜央は震えながら、彼女を抱く。


「ごめん……守ってあげれなくて……」


陽菜は、微かに笑った。


「……泣かないで」


そして光になり、消えた。


誰もいなくなった。


怜央は立ったまま、動かない。


左目の桜紋だけが、淡く光る。


紅が人の姿に戻ると、何も言わず怜央を抱きしめた。


怜央は、声もなく泣いた。


その時、閉じたはずの境界が、再び割れる。


空から、一冊の書物が怜央の足元に落ちた。


紅が拾い、差し出す。


「主。お前が選ばれたみたいだ」


怜央は虚ろな目でそれを見る。


独りでに開くページ。


白紙だったページに文字が浮き上がる。


 ――願いを記せ。


「……こんなの……あんまりだ」


ページを破ろうとするが、裂けない。


涙が落ち、そして怜央は思い出す。


震える声で問う。


「……なんでも叶うんだよな?」


紅は、黙って頷いた。

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