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肘を触らせてくる芸能人

掲載日:2025/11/25

大衆的な居酒屋なのに、超一流の芸能人がいる。毎回のようにトイレのドアを開けるたびに、肘がぶつかる席で飲んでいる。気持ち悪い。この芸能人から受ける恐怖体験の実話。

むかし、僕がよく行っていた居酒屋に、名前は出せないけれど、“芸能人”がいた。


その芸能人は、知らない人を探すほうが難しいぐらいの知名度なんだけれど、“こんな大衆的な居酒屋にも来たりするのは意外だな”などとぼんやりと思っていた。


お世辞にもキレイとは言えない店内で、安くて美味い、系の居酒屋である。



しかも、トイレのすぐ前の席に座っていて、トイレに人が行こうとするたびに、席をちょっとずらしたりしている。


太っているお客さんの場合は、椅子から一回立ち上がって「どうぞどうぞ」と言ったりしているようだ。


トイレのドアが開く時に、その芸能人にガンって毎回のように当たり、「あ、すいません」「いやいや、大丈夫です」みたいなやりとりをしている。



聞けば、その芸能人の男は、この店の常連で、トイレの真ん前の、トイレから人が出てくるたびに体にガンって当たる、あの席がいつも座る特等席ということらしい。



芸能人って気取っていて、いけすかない奴も多そうだと思っていたが、この人は、全然気取ったところがないな、と僕は思った。



人見知りの僕だけど、僕もその居酒屋によく行くので、たびたび目が合うようになった。


毎回トイレの扉が開くたびに、ガンって当たって「すいません」「全然全然」と言うやりとりをしている。



そして、僕に突然、手招きをした。


何の面識もないし、間違いかと思って、僕はジェスチャーで「ボク?」って感じで自分の顔を指差した。



その芸能人は、深く頷きながら、手招きを続けたので、何の因果か、僕は突然、芸能人の向かい側に相席をすることになった。



「よくこの店に来てるね」とその芸能人が言うので、僕は「は、はい。えっと、◯◯◯◯さんですよね」と、とりあえず知ってる知識を喋ろうと、頭の中を回転させた。



すると芸能人は、「そうですよ。僕はね。こういうとこで飲むのが好きなんですよ。芸能人はみんな、個室のある高いお店行ったりしがちだけど」と寂しそうに笑った。


僕は、とりあえずおだてておこうと思い「気取らない人柄なんですね。意外です」と言った。



すると、気をよくしたのか、その芸能人は、ニコッとしたあと、カバンの中から、何かを出してきた。


「僕はね。この店のトイレから出てくる人がドアを開くたんびに、僕の体の肘の、同じところに毎回当たるから、骨が変形したんだよ。これはそのレントゲン」



僕は、“そんなん見せられても”と思いながら、腕のレントゲンを見た。


「ここらへんですか?」


「そう。普通の人はこんなんなってないらしいんだけど、僕は毎回この居酒屋のこの席で、飲んでるから、トイレのドアが開くたびに、ここに当たるんだよ」


そう言って芸能人は、自分の肘を出して、僕に見せてくれた。


「触ってもいいですか?」


「いいよ、僕はそういうの、全然気にせえへんから」


触ってみると、確かにボコッと骨が出てて、そのまま、かたまってるみたいだ。



芸能人は満足そうな顔をしたあと、「僕は、あんまり芸能人っぽさを出すのが好きじゃないんだよ」と言いながら、290円のビールを美味そうに飲んだ。



その時店員さんが、ホッケの骨の残った皿を下げようとした。


「あっ!まだ身が付いてるから、下げないでください。すんません」


芸能人はそう言ってから、店員さんに「ほら、ここ!骨!変形してるんですよ」と指をさした。



トイレの真ん前の席に座ってて、ドアを開けられるたびに同じ場所がぶつかるから、骨が変形したのだ、ということをもう一度自慢げに説明しているのを僕は、酒を飲みながら聞いていた。


そのあと、芸能人は、店の中を所狭しと歩き回り、お客さん全員に「ほら!ここ!骨!変形してる!」と自分の肘を触らせてまわった。



それが終わり、芸能人は、僕のところに帰ってくると、気持ちよさそうにこう言った。


「僕は他の芸能人から、こんなとこで飲むなよとか言われるけど、こういう大衆的なとこが落ち着くんだ。この肘は、来月トミージョン手術を受けるんだよ」



僕は、酒がまわってきていたので、とうとう言ってしまった。



「お前、気持ち悪いねん」


「は?え?」


「気さくな芸能人、を通り過ぎて、気持ち悪い奴やねん!そこまでいくと!わざわざトイレのドアが毎回同じ箇所に当たるように微調整して同じ場所に座ってるとか、きしょいねん。

そんな理由でトミージョン手術する奴おらんねん!!!!プロ野球のピッチャーがするねん!トミージョンなんて!!!」



芸能人は、薄ら笑いを浮かべながら「いや、はっはっは!ほらね!こうやって大衆的なところで飲むと、君みたいに僕のことを芸能人扱いしない人がいて、ズバッとモノを言ってくれたりする!これが楽しいんだよ!」と余裕がある感じを演出してきた。


「黙れ!お前、内心焦ってるくせに、余裕かますな!ハゲろ!

芸能人に友だちおらんから、こういうところで、“芸能人なのに気さく”みたいなポジションを見つけたいだけやろ!骨のレントゲンとか、食うてる時に見たくないわ!きしょい!!!」



僕がそう言うと、居酒屋の全員が「そうだ!」と口々に叫んだ。


すると、さっきまで余裕を装っていた芸能人の目には涙があふれてきた。


「う、う‥」


肩を震わせて泣いている。


僕は言い過ぎたかな、と思いながらも、面白くて仕方がなかった。


ガバっと立ち上がって芸能人は叫んだ。


「君の言うとおりさ!!オレは芸能界で浮いている!!芸能人とは何を喋っていいかわからないから、緊張する!!

だから、このトイレのドアが開く時に、ガンって当たるような席を居場所として見つけたんだ!!!

芸能人なのに気さくだ!と最初は思ってくれたこの店の常連も、いつしか“気持ち悪い奴”と思うようになった!!!!」


そう叫ぶと、芸能人は伝票をとり、「大将、今までありがとう!」と叫び、お金を多めに置いていき、どこかへ消えた。



その日から、その芸能人はその店に現れなくなった。


そして、テレビからも姿を消したのです。




しばらく経ってから起きた不思議な出来事。

そこの居酒屋で僕が話をすると「オレもその夢見たよ!」とみんなが、“とある同じ夢”を見ていたことが分かりました。



その芸能人が紅白歌合戦の司会をしているのですが、歌手が歌ってる途中に、近づいていき、「ほら、ここ!骨が変形してるんだよ。トイレのドアが開く時に、ガンって当たるような席で普段飲んでるからね!」と歌ってる途中の歌手に、骨を触らそうとするのです。



トップバッターからトリまでの歌手全員に骨を触らせようとして無視された芸能人は、テレビ画面に向かってゆっくりと近づいてきました。



ん?と思っていると、なんと、テレビ画面から、僕の部屋に、その芸能人が出てきたのです。

貞子じゃねーか。



「ぎゃああああああああ」


「ほら!ここ!!骨が変形してるんだよ」


僕はそこで毎回、汗びっしょりで起きます。。


みんなが同じ夢を見ているということだったので、ざっくり言葉を選ばずに言うと、こう思いました。


「あ!死んだな!」と。


おしまい。


アホみたいなネタをしてるアホな芸人が書いた小説です。賢い貴方に、たまにはアホな気持ちになって読んでもらいたいです。

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