3. 8歳のアマリリス
「あの、殿下っ。下ろしてくださいませっ!」
「ああ、ごめんね..」
「ではっ」
「駄目だよ。可愛い私のリズが怪我をしてしまったら大変だ」
わたしは8 歳になりました。...のですがっ!
この頃、殿下と会うとまともに歩かせてすらいただけませんっ。もう8歳ですのよ?
今も、ソファに腰掛けた殿下の膝の上に乗っているだけでなく、さらにお姫様抱っこまでされている状態です。
「怪我はいたしませんっ!お、おろしてっ」
「..リズは私が嫌なのか?」
やめていただきたいのですが、拒否しようとすると、このように寂しそうに眉を下げてこちらを見るのです。 嫌じゃなくて恥ずかしいのですっ!
「い、嫌ではないです」
「なら良いだろう?」
また言い包められてしまいました。もうっ!
「それよりリズ、昔のようにシェートと呼んでくれないのかい?」
「あっあれはっ!うまく言えなかっただけで、決してそのような意図は」
「呼んでくれないの?」
「っ..!.....ずるいですっ..シェート、様」
「ッッッ、!可愛いね。可愛い、可愛いリズ」
はっ、恥ずかしいです!もう本当に!
こんなシェート様ですが、隣国の皇太子という立場上頻繁に会っているわけでもなく、月に1、2 回ほど婚約者との交流という名目のお茶会をするために、帝国からわざわざこちらの国に来てくださっています。
会う機会は少ないですが、ずっと大切にされているというのはひしひしと感じます。
わたしが4 歳、シェート様が16 歳で婚約しもう4 年となる婚約生活ですが、よく待てるなぁといつも思います。
結婚まではあと追加で8 年です。ファイトです!
まあ、その?我慢させてばかりもあれなので、シェート様が来た時にはできるだけ喜んでいただけるように、だ、抱きついたりだとか、おそばにいたりだとか、しているんですが、ですがっ
シェート様のお顔が良すぎて、対応が紳士すぎて、わたしがいっぱいいっぱいになってしまい、まともにお話できないのが最近の悩みです。
だって、だって、本当に格好良いんですっ!
なんでわたしの婚約者なんですか?!わたしなんかよりもっと良い人はいたと思います!
...まあ、それを口に出すと、シェート様の機嫌が急降下し、完璧な微笑み目は氷点下でもう2 度と言わないと誓うほどの褒め殺しに遭いますが。遭いましたが。
恐ろしや~。
「リズ、考え事?」
「はっはい、申し訳ありません!」
「いや、いいんだよ。悩みでもあるの?」
あなたが格好良いのが悩みなんて言えませんっ!
「な、なんでもないのです!し、シェート様こそ、何かお悩みはないのですか?」
「悩み...そうだな」
な、なにか大きなお悩みが?!
「たっ大変ですっ!何かあるのでしたら、非力ながらわたしもお手伝いいたします!なんなりとっ!」
「ふうん、何でも、ね?」
「はい!何で、もっ?」
その瞬間に、シェート様に抱き締められました。お姫様抱っこで近づいていた距離がより近くなって、格好良いですっ!
「実は、可愛い可愛いリズが可愛すぎるのが悩みなんだよね。悪い虫がつかないか、心配で心配で仕事に集中できないんだ」
「っ?、っ!ぁ」
まって、まって!国宝級に格好良いのに、そんな格好良いセリフまで言わないでくださいっ!
「ねぇ?リズ、どうしたら良いと思う?」
「ぁ、え、う?っぁ」
無理です無理です!顔近いですっ!ああっ格好良すぎて涙が出てきました。ちっ近いですっ
「リズ?」
「ふぇ?」
潤んだ瞳でシェート様を見上げると、焦ったような顔から一転、ぶわっと真っ赤に染まりました。
「リズ、反則だよ。その顔は」
「っ!」
また抱き締められて、そろそろキャパオーバーを迎えそうです。
シェート様はなにをおっしゃっていましたか?お、覚えていませんっ
「ぷしゅ~」
「り、リズっ?!」
シェート様、そのお顔とセリフは8 歳児には刺激が強すぎました...!わたしが幼かったです!負けを認めます!
その後シェパートは、攻めすぎるな!と侯爵にこってり絞られ、アマリリスは結局気絶したままその日はお開きとなりました。
シェパートは意外と満足そうに微笑んで帰っていったとかいないとか。