「サント・ヴェッキオ?」金髪の男が言った。――
「サント・ヴェッキオ?」金髪の男が言った。
「そうだ。あいつはまさに金の魔法使いだった。どんなことをして稼いだ金でもやつにかかれば、あっという間にきれいな金に生まれ変わる。聖体拝領みたいにな」
「そんな便利な男がいるなら、おれも使いたいな」
「だめだ」〈技師〉が言った。「もう死んでる」
「抗争でか?」
「いや。死んだのは四年前だ。あのとき、恐ろしく勘のいい捜査官がいて、その女ひとりがサント・ヴェッキオの主要な取引銀行と隠し口座を全部挙げちまった。それだけじゃなく、おれや〈医者〉、ドン・ニコロ、それに聖フランツィウス教会の司祭の金が動かせなくなって、警察に押収された。そうしたら、サント・ヴェッキオはビビッて、殺されると思ったのか、こともあろうに憲兵に寝返ろうとした。最初に自分を追い込んだ女に連絡を取って、なんでも証言するからおれたちから守ってくれって頼みやがったんだよ。で、殺し屋は司祭が出して、あわれなネズミ野郎は電話を切った途端、ピアノ線で絞め殺された」
「地獄に落ちりゃあいいんだ」
「この話はそれで終わらない」〈技師〉が煙草をつけた「例の女がまだ記録をあさってるって知らせが入った。で、おれたち四人、おれとドン・ニコロ、〈医者〉、聖フランツィウス教会の司祭で、相談して、その女を殺すことに決めたってわけだ。で、また、司祭んとこの殺し屋にやらせようかと思ったんだが、司祭が、その殺し屋には女を殺させたくないなんて言ってな」
「そいつはえらくロマンチックな話だ」
「で、しょうがないから、〈石の棺〉のおまわりふたりにそれぞれ十万も払って、やらせた」
「まあ、女殺しって後味悪いよな」
「そのとき、その女と仕事をしていたのが、あのカラヴァッジョでな。ひょっとすると、あの野郎、かたき討ちか何かのつもりじゃねえかなって気がしてきた」
「カラヴァッジョ? あいつがそんなロマンチックなやつだとは思えないがなあ。おれの叔父もあいつに挙げられたんだ。ああ、この叔父は〈叔父〉じゃない。網元だよ。漁船団を持ってて、マグロが獲れないと煙草を密輸してた。本土の煙草はうまいけど、えらい税金をかけられるだろ。だから、叔父貴は密輸した煙草を税金差し引いた分で卸に大安売りしてたんだ。この金をきれいにするために、叔父貴はときどき煙草で儲けた金をマグロに混ぜ込んでたんだけど、それがカラヴァッジョにバレた。叔父貴は子どものころ、銀行に農地を取られたことがあって、銀行を嫌ってた。だから、口座を持ってないんだ。マグロを売った金も煙草を売った金も一度も銀行を通したことはない。港で払ってもらって、金は家に隠してた。それでも挙げられた。たぶん使ってる漁師のひとりが叔父貴を売ったんだな。でも、どうしようもない。カラヴァッジョに保護された証人は硫酸風呂に浸けたみたいに消えちまう」
「カラヴァッジョはこれまでの憲兵や判事とは違う。あいつは本当に厄ダネだよ。誰でもいいから、あいつをぶっ殺してくれればいいのに。――ああ、まずい。もう三時だ。遅刻する」
〈技師〉と金髪の男は鋳鉄の柵門を開け、アーチの下に止めた自動車の座席におさまった。
そして、イグニッション・スイッチを押したとき、電気が座席下の爆弾に流れ込み、〈技師〉と金髪の男はアーチごと、バラバラに吹き飛ばされた。