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ジェラード店には大統領の肖像画が——

 ジェラード店には大統領の肖像画がかかっていた。

 前は哲学教授だったという人物で、大昔の賢者たちが最も優れた国家は哲学者によって率いられる国家だという話を鵜呑みにしているときいたことがあった。

 ストロベリーを頼んで、席についていると、コーヒージェラードを手にしたアンジェロがやってきて、言った。

「相席しても?」

「どうぞ」

 アンジェロは少し瘦せていたようだった。犯罪組織のトップに立つと、様々な心配ごとがある。ましてや、抗争相手が自分の父親では仲間に対して、怯みがないことを知らせなければならない。

「僕はいま、公文書館みたいな仕事をしているんです」アンジェロが言った。

「というと?」

「誰かがし遂げることなく死んでしまった取引などを僕が引き継ぐんです。まだ、結構な数の部下がいますが、彼らは僕が父を殺して、新しい秩序を築くことを期待しています。ところが、僕にとって、この新しい秩序というのが非常につまらないんです。戦争から帰ってきたばかりのころは新しい権力を獲得できると思っていましたが、仲間たちは本質として〈叔父〉と変わりがありませんでした。権力の行使方法が乱暴になっただけです。そして、それにつられて〈叔父〉もずいぶんと凶暴になりました。僕が目指したものはどこに行ったのだろう。それを考えると絶望的でした。僕は他の凡人同様、新しい権力の在り方を考えられる人間ではないことがはっきりわかったからです。だから、もう〈翡翠〉には未練はありません。実験は失敗しました。もう、おしまいです。いまのところは」

「コンツェッタ・サリエリについて知らせることがあると言ったな」

「ええ。あなたには辛い知らせです」

「きかせてくれ。まず、サント・ヴェッキオだ。やつは生きているのか?」

「いえ。とっくに殺されています」

「そうか。いつのことだ」

「コンツェッタ・サリエリに電話をかけた直後」

 カラヴァッジョは目をきつくつむった。

「そうか。そんなにはやく」

「コンツェッタ・サリエリの殺害について関わった叔父は四人です。僕の父、〈医者〉、〈技師〉、それに聖フランツィウス教会の司祭です。僕の父以外はみな死人です……ききたいことがあるようですね」

「ピエトロは?」

「もちろん、〈叔父〉の手駒です」

 忘れたはずの会話が蘇ってきた。

 ——ああ、カラヴァッジョさん。

 ——一年ぶりだな。

 ——見てください。この温室。これなら百鉢入れても大丈夫です。ここで散歩する人のためにレモネードを振舞うんです。

 ――だが、それだと……。

 ——ええ。スタジアムですね。ここを全部更地にしてしまうらしいです。

 ——でも、小屋を作るのか?

 ——最後まであきらめないつもりです。沙国であなたに助けられて決めたことです。

 ——おれはいいことをしたのかな。

 ——もちろんですよ。司祭さまもそうおっしゃるに決まっています。

 ——最近、おれは自分のなかから人らしさがどんどんなくなっていく気がするんだ。仕事のし過ぎだろうが、しなければいけない。

 ——僕にできるのは散策に向いている葡萄棚を整えるのとちょっとした大工仕事ですが、そんな僕でもよければ、ご相談に乗りますよ。来年にはレモネードも作れます。どうぞ、来てください。

 ——ああ。ごちそうになろう。

「カラヴァッジョさん。どれもあなたにとっては辛いことですよね。でも、残念ながら事実です。僕とあなたは事実によって叩きのめされるために、これまで戦ってきたのです」

「なぜだ?」

「なにがですか?」

「全てだ。なぜなんだ?」

「……僕には分かりません。僕もあなたと同じくらい絶望の縁に立たされているのです。でも——」

 そのとき、ジェラード店の前に止まっていたチッキテッドゥのトランクに仕掛けられた時限爆弾の短針が十二を差した。

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