嵐の爪痕
放課後、葉子と駅まで来た所で橋野が近寄って来た。
葉子は橋野を見るなり気を利かせて先に行ってしまった。
「待ってたんだ」
こんな所を学校の人に見られたらまた変な噂になりかねない。
とにかく家の近くまで移動することにした。
「どうしたの?」
「噂」
そう言うと口を噤んでしまった。
「ああ、そっちまで届いてたんだ」
噂って凄いなと感心してしまう。
私はすっかり有名人らしい。
「大丈夫なのか?」
「何が?そんなに色んな男と寝て大丈夫かって?」
「寝たのか?」
見たことない顔だった。少し怖い。
「何がそんなに心配なの?もう別れたんだから放っといて」
「この前あんな事の後だったから」
また私の癇に障る。
「自意識過剰じゃない?橋野の事で私がヤケになったとでも思った?」
頭にき過ぎて、フンと鼻で笑ってしまった。
「噂、信じたんだね」
「ごめん」
またこのパターンだ。もうウンザリだ。
「もう私に構わないで!」
橋野を置き去りにするように早足でその場を後にした。
葉子の策略が功を奏して噂は急速に無くなった。
噂が完全に沈静化した頃、逸生が彼女と別れてしまい、気が付けば平和だった一学期の頃のようにまた4人で遊ぶようになっていた。
「実を言うとね、まーくんと付き合ってた頃、祐美達より私達の方が深い関係だって思ってたの」
昼休みの中庭で、急に真面目な顔で葉子が話し始めた。
「私も思ってたよ。二人は本音で向き合ってて、距離感が近いっていうか」
「でもねこの前、駅で光ちゃんに会った時から祐美達の方が強い絆だったんじゃないかって思い始めて」
「あれは、橋野の自意識過剰」
笑い飛ばす私の言葉なんて聞こえてないみたいに、言葉を遮るように葉子は話し続けた。
「同じ事があっても、まーくんは私に会いに来ないと思う。何があっても、もう私に会いに来ることは無いって思うの」
葉子はどうしたんだろう?急にこんな話。
「それは、葉子にはもう慶くんが居るから」
「彼氏が居なくても来ないよ。それにいっくんだって、佑美の為に彼女作ったんだと思う」
突拍子もない言葉にびっくりして声も出なかった。
「これは私の推測だけど、祐美の噂をかき消す為に彼女を作ったんだと思うよ。もう噂も収まったから別れたけど」
葉子は至って真面目に話している。
「葉子?どうしちゃったの?慶くんと何かあった?」
「ううん、何もないよ。何もない」
葉子は何処か寂しそうにそう言うと笑った。
いつもの向日葵みたいな笑顔ではなく、日陰でひっそりと咲いてる小さな野花みたいな笑顔だった。