尾ひれ
そうしてやっと始まった二学期。
登校してすぐ衝撃が走った。
夏休み中に立ち消えになると思っていた噂は
「誰とでも寝る女」に発展していたのだ。
噂の発信源となった美里達も気不味そうにしていたが、もうここまで来ると彼女達のせいではない。
いったい何処まで独り歩きしていくのか。
「誰が流してるのか突き止められないのかな」
葉子はどうにかして噂を止めようとしていた。
「特定の誰かじゃないんじゃない?尾ひれってやつでしょ!噂って本当に凄いね」
ここまで来ると半笑いだ。
そんな中でも逸生に彼女が出来た事は、私の悪評の唯一の救いだった。少なくとも最初の頃の噂を信じてた人達には言い訳出来た気がしたからだ。
同時に逸生とは自然と疎遠になった。
時間が解決すると思っていたのに噂は全然無くならなかった。
もう発展しようもないと思った内容も更に進化して、とうとう具体的に○○高校の△△くんが私と寝たと言いふらしていると漏れ伝わって来たのだ。本当に本人が言いふらしているのかは不明だが、そういう人物は実在するらしい。
もう時間では解決出来そうもない。流石に参ったと思った。
「祐美!あんた嘘ついてたの!」
登校するなり教室に葉子が乗り込んで来た。
かなりの剣幕だ。 もう大半の生徒は登校していたので、みんなの視線がこっちに集まる。
「△△くんて誰!私、聞いてないんだけど!」
「知らないよ」
「知らない訳ないでしょ?祐美と寝たって言ってるのに!」
葉子はもう怒鳴り散らしていた。
「そんな人会ったことも無いし、そんなの全部嘘だから!」
私の声も次第に大きくなる。
「大体さ!祐美が男と寝たって話だって聞いた事ないんだよ!何で私に言わないの?親友だよね、私達?違うの?」
「私が誰とも寝てないって信じてないの?葉子こそ、本当に親友なの?」
怒りで泣きそうになった。
「私は誰とも何もしてないッ!!」
自分でもびっくりするくらい大声で叫んでた。
「だよねー」
ニカッと笑って葉子がハグして来た。
「祐美が誰とも寝てないって信じてたー」
ハメられた! !
怒鳴り合いの喧嘩を聞きつけて廊下の方にまで人だかりが出来ていた。 葉子の策略だったのだ。
「祐美、私達も信じてるよ」
美里達も近付いて言ってくれた。
「これで下らない噂も無くなるでしょ」
大勢の前で経験が無いことを暴露されたのは大きな代償だった。仕方ない、有り難いと思うべきだろう。