ひとの噂
次の日から校内でチラホラと私の噂が飛び交っていた。
「人の好きな男を横取りした」から始まって、「人の彼氏に手を出す」とか進化していく。
一週間後には「誰彼かまわず手当たり次第に男に手を出す女」という内容にまで進化していた。
人の噂なんて信用出来ないものなんだと実感した。週刊誌で有名人のゴシップを読んで楽しんでいた自分を恥じた。
葉子はもちろん噂話を信じてなかったし、何とか食い止めようとしてくれたが、返って葉子を巻き込む事になりそうで止めた。
「何で?お泊り辞める必要ないでしょ?」
葉子がムキになる。
「もしかしたら葉子達にも迷惑掛けちゃうかもしれないし。何よりも楽しめそうにないでしょ?」
「何も悪い事してないのに、そんなのおかしいよ!それならいっそ、二人が本当に付き合っちゃえば?」
いい事を思い付いたように嬉しそうだ。
「それじゃ、私が本当に嘘ついたみたいじゃない?」
「あ、そっか」
夏休みのお泊りは結局、葉子達も辞める事になった。逸生とも出来るだけ距離を置くようにしていた。
噂は夏休みに入れば立ち消えになるだろうし、気にしてなかった。
一つ気掛かりだったのは、美里の事だ。私と逸生との関係を誤解したままかもしれない。 美里が一人になる時を待って呼び止めた。
「言い訳って思われるかもしれないけど、逸生の事話しておきたくて」
話し始めた私を静止するように、彼女が深く頭を下げた。
「ごめん!噂を流してって頼んだ訳じゃないけど、友達が祐美の事悪く言いふらすのを止められなくて」
「ああ、その事か」
「友達もあんな酷い事は言ってなかったのに、いつの間にか話が変わっちゃって」
彼女はとても責任を感じていた様だ。本当に申し訳無さそうに俯いている。
「気にしてないから大丈夫。みんなすぐ忘れるでしょ」
「逸生くんが謝りに来てくれたんだ」
「えっ?」
噂話が大袈裟になって直ぐに、逸生が美里に謝罪したらしい。私から話を聞いていたのに面倒がって返事をしなかった事や、私とはただの友人だと言ったそうだ。
「私が傷付かないように黙ってたんだよね?本当は逸生くんに伝えてくれてたのに、こんな事になっちゃって」
誤解は解けていたらしい。
逸生もそれなりに責任を感じてたんだ。
その後、実際に噂話を最初に流した友達も直接謝罪してくれた。
思ったよりも簡単に解決して拍子抜けだ。
そして、あっという間に夏休みになった
退屈で長い夏休みだった。
高校生活で一番楽しめるはずの二年の夏休み。
本当に何もなかった。
「ねぇねぇ、ニュースなんだけど!」
上ずった声で葉子が電話してきた。
どうせ大した事じゃないと、ながら聞きしていた。
「いっくんに彼女が出来た!」
「あり得ない!」
思わず飲みかけの麦茶を吐き出しそうになった。
「でしょ!でしょ!全然そういうの興味ありませんて顔してたじゃん」
「してたねー」
「相手は同じクラスの女子らしいんだけど、名前聞いてもピンと来なかった」
これが唯一の夏休みの出来事だったと言っても過言ではない。
葉子とは週ニくらいのペースでは会っていたが、彼氏持ちなのでイベント関係はとことん置いてけぼりを食らった。葉子は連れ出そうとしてくれたが、流石に私が遠慮した。
若さの無駄遣いを実践している気分だった。