冬が来る
私の賭けは2日後に結果が出た。
「言わない方がいいのか迷ったけど、隠しても仕方ないから」
前置きをして葉子の最後通告。
「光ちゃんが杏奈と付き合ってる」
二人は仲良く葉子達の前に現れたらしい。
「私、光ちゃんを見損なったよ!」
怒りと悲しみが混じったような表情だ。
「そっか」
それ程ショックでは無かった。
「ずっと気になってた事があったの。私と付き合う前に薫里と別れたって聞いた時から。私と橋野が出会った日から付き合うまで5日だよ。もしかしたら彼女とは元々別れそうだったのかもしれないし、私に強烈に一目惚れしたのかもしれないけど、それでも5日ってね。そういう人なんだよ、橋野は」
涙目になってる葉子の頬をつまんで揺すった。
あんなに別れたくないって抵抗したのは何だったのだろう?戻ってくるなら許してやろうなんて、まるで勘違い女だ。恥ずかし過ぎて笑うしかない。
最初から最後まで、橋野に敵わない。
でも大丈夫。私は橋野が好きだった訳じゃない。男の人と付き合ってみたかっただけだ。傷ついたりしない。
「橋野と別れた」
帰宅して、家事をしている母に言った。大喜びするかと思ったら、振り向いた母は寂しそうな顔だった。
奇しくも母の予言通りになってしまった。まさか!
「お母さん、何か知ってた?」
「何かって何よ?」
流石にそれは勘ぐり過ぎだったようだ。
程なくして葉子達も別れてしまった。
「昨日ね、まーくんを待ち伏せしたの」
昼休みの中庭だ。
「もう、会った瞬間に分かっちゃった。全然冷たいし」
葉子は自分のつま先から視線を外さずにずっと話している。こんなにしおらしい葉子を見た事がなかった。いつも何処かに生来の明るさを隠せない葉子に、今はその微塵も感じられない。
それでも復縁を迫ったところがかろうじて葉子らしい。
「今回はさ、最初から戻らないつもりだったんだと思う」
杏奈と付き合ってからの橋野はまーくんとも一緒に居ることが減って、葉子とまーくんの関係も変化して行ったらしい。橋野にしてみたら葉子とは一緒に居辛かったろうし、葉子の別れの一端は私のせいでもある。
「私のせいだよね、ごめん葉子」
「それは違う!それだけは絶対に違う」
葉子はそれから怒ったり泣いたりしたが、その日以来まーくんの事はキッパリ諦めたようだった。
そして別れて1ヶ月が過ぎた頃、葉子に新しい彼氏が出来た。
他校に進学した友達と遊んだ時に出逢って、あっという間に付き合うことになったらしい。
同い年の慶はお洒落で格好いいが、いつもふざけていて正体が掴めないような所がある。まーくんの時は甘えていた葉子も、慶とは対等か逆に仕切っている時もある。
「慶ってさ、二人の時もふざけてるの?」
率直な疑問をぶつけてみた。
「基本、変わんないかな。でも二人の時は甘えん坊かも」
「慶が?」
「うん、そこがまたカワイイ」
やっぱり葉子には笑顔が似合う。幸せそうな葉子を見て、私の罪悪感も薄らいで行く。