別れの季節
晩秋の晴れた日、橋野が学校に復帰した。
放課後、いつものように駅で会って私を送ろうと歩き出した橋野の背中に言った。
「別れよう」
橋野が立ち止まると振り返った。
「別れよう」
もう一度、今度は目を見て言った。
「なんで?」
動揺してるように見えた。
「どうしても別れたい」
「絶対別れないよ、理由は?」
動揺は消えてはっきりと言い切った。
私は橋野の本当の気持ちが知りたかった。問い詰めたい気持ちもある。そうしたら橋野は謝って杏奈とはもう会わないと言うかもしれない。 でももう元通りの私達には戻れないだろう。
私に知られたから杏奈との関係を終わらせただけで、橋野の意思でやめたわけじゃないと思ってしまうか、隠れて会ってるかもしれないと疑うかもしれない。
薫里と別れた時のように、橋野の意思で杏奈との関係を終わらせて、その上で私を選んで欲しい。その為に何も告げずに別れる事にした。それに賭けようと思った。
そうしたら、杏奈との事も知らなかった振りで元に戻れる。それが私の精一杯だ。
「とにかく、もう終わりにしたい。橋野がなんと言おうと別れる」
どんどん日が暮れて、橋野の表情もよく見えないくらい暗くなった。昼間とは違ってぐんと冷え込む。
何度か押し問答の末、根負けした橋野が
「分かった」
ボソッと言って帰って行った。
大丈夫、きっと大丈夫。橋野の背中を見ながら繰り返しそう思った。
「なんでそんな事!」
その夜、葉子に電話で橋野と別れた事を伝えた。
「私に相談しないって無くない?何でも言える仲だと思ってたんだけど!」
葉子は予想通り興奮している。
「だから今言ってるでしょ。葉子も杏奈の事、知ってたでしょ?」
「それは…内緒にしてたんじゃなくて、言わない方がいいと思ったから」
急にしおらしくなる。
「葉子が気遣ってくれるって分かってたから、一人で考えたかったんだ」
「私だって最初から知ってた訳じゃないよ!後から変だなと思ってまーくんを問い詰めたら、杏奈と会ってたらしいって」
最初から葉子に聞けばよかった事になる。そこもまた間抜けな話だ。
「でもでも!まーくんも杏奈と光ちゃんが何で会ってたのかは知らなかったんだよ。だから浮気してたとは限らないし!」
「うん、分かってる。だから私も橋野を信じたいから別れたんだよ」
「別れなくてよかったんじゃない?もし戻れなかったらどうするの?」
「元々、好きで付き合ってた訳じゃないし、その時は仕方ないよ」
「えっ?」 葉子が一瞬言葉に詰まった。
「最初はそうだったかもしれないけど、今は違うでしょ?」
「今でも変わらないよ。橋野の事を好きになったわけじゃない。だからこそ、橋野の気持ちが変わったなら付き合えない」