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疑う心

家で一人になると考えたくなくても考えてしまう。

橋野の机の上にあったパステルカラーのキャラクターの置物。その下にメッセージカードがあった。

橋野に見つからないように盗み見たら、明らかに女性の字で

「ごめんなさい。早く元気になりますように」

と書かれていた。

文面からみて、たぶん今回の事故の後に貰った物だろう。


事故の日、橋野は一人で深夜にあんな場所で何をしてたんだろう?

事故現場の近くには深夜に営業しているようなお店はない。どちらかと言うと住宅街だ。 誰かに会いに行ってたのだろうか?

疑念は嫌な方向へと思考を誘う。

薫里は元カノとは言え、面会謝絶の元カレのお見舞いにあんな遠い病院まで行くだろうか?橋野の学校の友達が見舞いに来た話自体聞いてない。中学の同級生の忠告通り、薫里と橋野は今でも続いているのかもしれない。

最初はそう思った。でも、まーくんが薫里と橋野は別れたと言ってたのが嘘とは思えなかった。あの時点で薫里と付き合ってた事さえも知らなかった私に、敢えて別れたと嘘をつく必要性がないからだ。

そうなると彼女が病院に居たのはなぜか?

薫里は親友である杏奈の付き添いだった。そう考える方が自然だ。事故現場と杏奈の豪邸、自転車なら10分程度の距離だ。あの日、杏奈と会った後に橋野が事故に遭ったのなら、病院まで来るのも不自然ではない。

ここまで考えたところで、状況は更に悪化していく。

そもそもあの日より前から杏奈と橋野は会っていたのではないか?

あの頃、後ろめたさから私に杏奈の話をしなくなったとしたら?私から杏奈の事を聞かれた時、橋野は驚いた顔で何も言い返さなかった。私に彼女との事がバレたと思ったからだとしたら辻褄が合う。

病院に来ないように言ったのも、私と杏奈が鉢合わせないようにしたかったのかもしれない。 そう考えると何の矛盾も無くなる。

この考えが頭から離れない。もう何度も同じ思考を繰り返して、何度も考えを打ち消しても同じ結果に行き着いてしまう。

何日もそんな夜を過ごした。終わりは見えなかった。

疑念に決着をつける事にした。どんなに考えても答えは出ないのだ。行動に出るしかない。

私は 橋野の自宅へ電話を掛けた。

橋野の母が電話に出た。耳たぶに心臓が入ってるみたいに脈打って、受話器を通して私のドキドキが聞こえてしまうのではと心配だった。

私は杏奈を名乗った。

「橋野くんが退院したと聞いたので」

橋野の母は疑いもしなかった。

「もう大丈夫よ、心配しなくて!あんな時間に会いに行った光一が悪いんだから、もう気にしないでね。事故に遭ったのがあなたじゃなくて良かったわ」

予想していた事なのに、衝撃は凄まじかった。 さっきまで全身で脈打っていたのに、一気に血の気が引いて冷たい塊になった。

身体を置いてけぼりにして意識は何処か遠くに存在している感じだった。

「もう学校へも行けるから、大丈夫よ」

橋野の母の言葉に、置いてけぼりの身体が適当に話を合わせて電話を切った。

ショックなのか怒りなのか、形容し難い感情が入り乱れて押し寄せて溢れる。

千羽鶴なんか折っていた自分を思うと滑稽で仕方ない。

ただ、知ってしまったからには、もう後には戻れない。

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