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ラジオ大賞参加作品

モブは温泉宿で茶番劇に出演する

作者: めみあ

  

 俺は今、連休を利用して恋人の麻里と温泉旅行中。

 3年の付き合いだしマンネリ化を防ぐためにも、こうしてお金をかけることは恋人としての努力だと思っている。

 とはいえずっと一緒じゃ気疲れするだろうし、自分の時間も大切にして欲しいから部屋は別々にした。これは結婚後の生活を意識してのこと。まだ予定はないけれど。


 まぁ、それは追々考えよう。とりあえず温泉に入って美味しいものを食べて旅行を楽しもう。


 


 ――と、考えていた3日前が今は懐かしく感じる。


 

 彼女は今、危機に瀕している。喉元にナイフをあてられ、恐怖に身体は震え顔面も蒼白だ。


 ナイフの男は隣町で起きた湯煙(ゆけむり)連続殺人事件の犯人だ。事件はニュースで耳にしていたがまさか彼女が巻き込まれるなんて。



「携帯のパスワードを言え。死にたいのか」


「い…言えません」


 先程からこのやりとりが繰り返されている。詳しく聞くと、麻里が何の気なしにスマホで撮影した写真が犯人のアリバイを崩すものらしく、犯人はそれを削除すれば証拠がなくなると思い込んでいるようだ。

  


「強情な。では恋人に聞いてみよう」


 犯人、探偵、警官、宿泊客の視線が俺に集まる。

 

 

 ――え、パスワードなんて知らないけど……

 


「やめて! 彼は関係ない人よ!」


「関係ない人、か。それで男を守ってるつもりか? 泣かせるね。さあ、女を傷一つなく返して欲しければ言え」


 下卑た笑いを浮かべる犯人。


 ――ええい! 俺も男だ!!


「か…」


「1216だ!!」


 彼女を離せ、と言おうとしたら、男の大声に邪魔をされた。


 ――え?


 振り向くと見知らぬ男が涙を流している。



「金ちゃんっ!」


 麻里がそいつに向かって叫んだ。


 ――え? 誰?


 犯人も、え?と驚いた顔をしている。


「い、今だ!」


 一瞬の隙を見逃さず警官達が犯人を取り押さえ、探偵は床に落ちた麻里のスマホを拾いあげた。



「1、2、1、6、と。……わ、イチャイチャ写真ばかりだな。えっとこれか。山添(やまぞえ)、これが証拠だ!」



 俺はそのあとの逮捕劇、茶番劇を最後まで見届けた。そして出番の終えたモブは黙って退場。


 これで終幕。



 ちなみにわかっていると思うけどイチャイチャの相手は俺じゃない。悲しいけどよくある話。それから探偵の活躍の噂と共に俺達の話も広まって、2人は随分非難されている。俺は新しい出会いがあった。今度は主役になれたらいいけれど。


 アンコール終わり。









わざわざ書くほどのことではありませんが、

1216は金ちゃんの誕生日です。


本当はタイトルにパスワードのキーワードをいれたかったのですが、パスワードは死の香りとか、守り抜けパスワード! みたいなタイトルしか浮かばずやめました。


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 悲しさと笑いがとても自然に同居していて、疲れた心に浸透していくようで(心の疲れに気づかされて?)、とても癒やされました。 主人公が親しみやすくて人が良くて、自分の滑稽さを冷静にみつめながら…
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