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「失礼いたします。フィオナ・ローレン公爵令嬢をお連れしました」

執務室に入りアルヴィンが座っているのをチラリと一瞥しただけで、フィオナは美しいカーテシーを見せた。

「お初にお目にかかります。ローレン公爵が娘、フィオナにございます」

決して『末永く宜しく』などという言葉は使わない。宜しくするつもりなど、端から無いのだから。

「顔を上げてくれ。私がアルヴィン・バートランドだ」

そう言ってフィオナの前に立った。

フィオナはゆっくりと顔を上げ、目の前の天敵を見上げた。

彼の容姿は噂通りとても美しいものだった。

陽の光を浴びキラキラ輝く銀糸の様な長い髪を一つに纏め左肩から垂らし、きりりとした目は氷を思わせる様なアイスブルー。スッとした鼻梁も引き締めた唇も、何もかもがその容姿の美しさを創り出す為に存在するかのようだ。

恐らく普通の令嬢・・・いや、老若男女全ての人々が見惚れるほどの美丈夫。神々しささえ感じられるほどに。

だが、怒りに満たされているフィオナには、彼が美丈夫である事を認識する事は無い。いや、脳がそれを拒否したのだろう。


けっ!何が『凍れる月の君』よ。顔が良くったって中身がクズだったら、全てが台無しよ!


アルヴィンはその容姿と女性を寄せ付けない冷たさから『凍れる月の君』という二つ名で呼ばれていた。

因みにフィオナは『月の女神』と呼ばれているのだが、本人は知らない。


睨みつける様に見上げてくるフィオナに、アルヴィンは目を見開き固まった。

彼女の美貌についての噂は聞いていたが正直、二つ名の様に美しい娘だと期待はしていなかった。なぜなら、彼女以外にも二つ名を持つ令嬢令息はいる。

が、その二つ名に見合うだけの容姿も中身も伴っていない事がほとんどだったからだ。

だが、フィオナを見てこれは二つ名も伊達ではないと、アルヴィンはごくりと唾を飲み込む。

睨みつけてくるように見上げる瞳は、いつか見た美しい海の様なエメラルドグリーン。艶やかでサラサラと音がしそうなほどの金髪は、彼女が動くたび背中を流れる様に揺れる。

陶器の様な白い肌ではあるが、頬がほんのり朱に染まり、果実の様に紅い唇は真一文字に引き締められている。


―――美しい・・・・・


一瞬にしてフィオナに落ちたアルヴィン。

彼女となら愛し愛される夫婦になれるかもしれない・・・・と、勝手な事を考え、初めて感じる胸のときめきに酔いしれる。

完全にフィオナに見惚れ、瞬きさえも忘れたかのように凝視してくるアルヴィンを、彼女は不審者でも見るかのように眉を寄せた。

そして一歩下がると「殿下、提案があるのですが」と声を掛けた。


何?この人。人の顔凝視しちゃって。気持ちワルッ!


心の中でこんなことを言われてるとも知らないアルヴィンは、「声もなんて愛らしい・・・」と、一人別世界へと浸っていた。

だがすぐに「提案?わかった、聞こう」と言いながら、ソファーへとエスコートしようとしたが、サクッと無視されフィオナはさっさと一人歩き出した。

一瞬、「ん?」と思ったがさほど気にする事もなくフィオナの向かいに腰を下ろす。

「で、提案とは?」

甘々しく自分の都合のよい事しか考えていなかったアルヴィンは、彼女の言葉に顔色を失くした。

「離縁前提の婚姻と伺いました。したがって、必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」

「え?」

「取り敢えず世継ぎが生まれましたら、私は実家に戻りたいと思います。殿下は私に不貞の罪を着せて離縁しようとしているようですが、産後に体調を崩し二人目が望めないという事での離縁でお願いします」

「・・・・・え?」

「それと明日は結婚式で初夜を迎える事になりますが、こちらも必要最低限の接触でお願いします」

「・・・・・・・・・・・・」

「初夜の準備はこちらでさせて頂きますので、殿下の方で準備される必要はございません」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

淡々と話を進めていくフィオナに、何を言われているのか理解できないアルヴィン。

「殿下、聞いておられますか?」

一向に返事をしないアルヴィンに焦れたようにフィオナは声を掛けた。


何なの、コイツ!人が一生懸命、提案してるってのに聞いてんの?!腹立つわ!


「あ、あぁ、聞いている。待ってくれ、離縁前提の結婚って・・・・」

「先ほどお庭で話されていたではありませんか。こちらに向かう時、偶然聞いてしまいましたの。ですから殿下の意向に沿うようにと、私への被害が最小限である為の提案ですわ」


フィオナの言葉に、アルヴィンの顔色がどんどん悪くなる。

顔色が悪くなるのはアルヴィンだけではない。彼と会話していた弟は当然の事。側近達やここまで付いてきてくれた護衛の騎士達も同様に、顔色を失っていく。


ときめきとは全く別の意味での胸の高鳴りに、気を失いそうになったアルヴィンなのだった。


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