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069 青い思い出の1ページ

 



 目の前にあるのは大量の水着。


 色とりどり、形も様々なそれの前で、少女たちは胸の高鳴りを抑えきれなかった。


 そして始まるファッションショー。




「見て見てお姉ちゃん、これすごいよーっ! すっごいかわいいの!」




 アミはスイカ柄の子供しか着れないような水着を選んでメアリーに見せつけ、




「うわ! アミちゃんかわいいですね本当に! スイカの妖精みたいです」


「えっへへー……お姉ちゃんも綺麗っ! おっぱいも大きい!」


「ひゃっ!? アミちゃん、急に揉んだらびっくりしちゃいますよっ!」


「おおー、やっぱりすごい。実は前から狙ってたんだ!」


「狙われてたんですか私!?」




 そのメアリーは少し大胆なビキニを纏い、アミに胸を揉まれる。




「ふむ……これも悪くはないわね」




 キューシーはタンクトップタイプの水着と帽子を合わせ、鏡の前でポーズを取っていた。


 一方でカラリアは、悩むばかりでなかなか手に取らない。


 あまりこういう場に慣れていないようだ。


 メアリーは彼女に近づくと、一着の水着を手渡す。




「これなんてカラリアさんに似合うと思いますよ」




 それは黒のビキニだった。


 割と露出は多いほうだが、カラリアの引き締まった体なら、見せつけても自信過剰にはなるまい。


 だがカラリアの視線は水着ではなく、白のビキニを着たメアリーに向けられていた。


 普段のドレスとは違う、露出の多い恰好をじっと見つめる。




「な、何ですかカラリアさん……そんなにじろじろ見られると、恥ずかしいです」




 メアリーは頬を染めて、胸を隠すような仕草を見せた。


 それがまたいじらしい。




「メアリー、お前は色気があるな」


「へっ!? そ、そうでしょうか……」


「ああ、私はあまりそういうものと縁がないからな。少し、羨ましいと思った」


「そんなことありませんっ! カラリアさんはすごく色っぽいです!」


「そ、そうか?」


「はいっ! この前、お風呂に入った時に思いました。胸も大きいですし、ほんのり割れた腹筋とか、すらっと長い脚とか、引き締まった二の腕とか、すごくセクシーですっ!」


「……意外と見られているんだな」




 カラリアは意趣返しのように、メアリーの前で胸を隠して見せた。


 すると彼女はさらに顔を真っ赤にして弁明する。




「ち、違いますっ! その、たまたま、目に入ってしまったといいますかっ!」


「別に構わないさ。メアリーにそう見られて、私は嬉しいぞ」




 カラリアはいたずらっぽく笑った。


 メアリーはぷしゅーと頭から湯気を出しながら機能停止する。


 そんな彼女が可愛らしくて、カラリアはわしゃわしゃと頭を撫でた。




「いいなー……」




 そんな二人のやり取りを、指を加えて見つめるアミ。


 すると彼女は、真剣に水着を選ぶキューシーに駆け寄り、背後から胸を鷲掴みにした。




「にょわあぁぁぁあああっ!?」




 完全に油断していたのか、奇声をあげて驚くキューシー。


 しかしアミは気にせずに、胸をもみ続ける。




「おー……キューシーも結構あるね。私、まだ全然だから羨ましいなー」


「あ、あんたねぇっ! ほんと怒るわよわたくしっ!」




 アミの魔の手から脱し、キューシーは振り返る。


 するとアミは自分の胸を差し出し言った。




「……私のも揉む?」


「揉むかぁーっ!」




 叫びながら揉むキューシー。


 完全に錯乱していた。




「ほんとあんたは、わたくしに何か恨みでも……って意外とあるわね、年の割に」


「え、そう? 色っぽい!?」


「色気とは縁遠いけど」


「ぶー」




 膨れてふてくされるアミに、キューシーは思わず噴き出すように笑った。


 手間はかかるが、かわいい妹分ではある。




「これでもう少し、礼儀とかを身に着けてくれるといいんだけどね」




 そこは育ちゆえ、仕方のないことなのだが――アミに時間が残されているのなら、戦いが終わったあと、マジョラームが経営する学校に入れたいとまで思った。


 しかしそれは叶わぬ夢だ。


 だからこそ、彼女をその短い時間の中で――




「今のキューシーの水着もいい感じだけど、私はこっちの水着が似合うと思う」




 キューシーがいい感じで考えにふけっていると、アミは彼女の前に一枚の水着を持ってきた。


 それはいわゆる、スリングショットと呼ばれる、限界まで布面積を減らしたものだ。


 キューシーはそれを手渡され、ぷるぷると震えた。




「こんなもん着れるかぁーっ!」




 そんな叫びもすっかり板についてきた。


 期待通りのリアクションがもらえてアミは満足げである。




「あっちも楽しそうだな」


「アミちゃんとキューシーさんの仲がよくて何よりです」




 そんな二人の様子を、カラリアとメアリーは少し羨ましそうに眺めていた。




◇◇◇




「海だあぁぁぁあああああっ!」




 テンションがマックスにまで上がったアミは叫ぶと、全力で砂浜を疾走した。


 ワンピースタイプ水着のフリルを揺らし、その高い身体能力で浜辺の砂を重機のごとく巻き上げながら、軽く十メートル以上飛んで着水する。


 どぱぁっ! と白波があがり、他の海水浴客の視線は一気にアミに集中した。




「暴れ過ぎでしょあの子……」




 キューシーは、赤い水着を身に着け、サングラスに麦わら帽子を装着し、いかにもセレブといった出で立ちである。




「海は初めてだったそうですから。喜んでくれてよかったです」




 メアリーは白のパレオ水着を身に着けている。


 肌の白さも相まって、神秘的な――ある意味、お姫様らしいオーラがあった。


 キューシーはきめ細やかな肌を、羨ましそうにじーっと見つめる。




「ドゥーガンとの戦いのご褒美と言ったところか。ほとんど休息を取っていなかったからな、こういうのも悪くはない」




 そしてカラリアは、大胆な黒のビキニだ。


 筋肉質な体ながら、出るところは出ており、かなりスタイルがいい。


 その立ち方からも、自分の体への自信がにじみ出ている。


 キューシーはカラリアの引き締まった体を、羨ましそうにじーっと見つめる。


 すると、海に飛び込んだアミが、海草を両手に持ってこちらに走ってきた。


 キューシーだけがそれに気づかない。


 そしてアミは、海草を彼女の背中に近づけ――




「ひいいぃぃぃっ!?」




 べちゃっ、と張り付く間隔に、キューシーは飛び上がった。


 そのままメアリーにしがみつき、




「うわわっ、キューシーさんっ!?」


「何かっ、何かが背中にいぃぃっ!」




 二人一緒に、もつれながら砂の上に転ぶ。




「あいたたた……」




 上に乗ったキューシーが顔を上げると――目と鼻の先に、メアリーの顔があった。




挿絵(By みてみん)




「キューシーさん……」




 至近距離で目が合い、彼女は赤らむ。




「メアリー……っ」




 その仕草に無性に恥ずかしくなったキューシーも、頬を紅潮させて顔をそむけた。


 なおも二人の体は密着してまま。


 キューシーの背中には、海草が乗っている――




「楽しそう! 私もやるーっ!」




 そんな彼女に背中に、アミが飛び乗った。




「ぐえっ」


「あはははっ、キューシーさんすごい声出ちゃってますよ」


「わ、笑わないでよっ! 飛び乗ったらさすがに重いわよぉ!」


「海草サンドイッチー」


「アミあんたっ、やめなさいよ! 海草をわたくしの背中ですり潰さないでぇーっ!」




 アミとキューシーのやり取りを、カラリアは微笑ましく見守る。


 ふと、そんな彼女とメアリーの目があった。




「カラリアさんも乗ります?」


「いや……遠慮しておこう。周囲の目が痛いからな」




 カラリアは爽やかにそう返事した。


 彼女の言う通り、じゃれあう三人の姿は、すっかり周囲の注目を集めていた。




「特に騒ぎになってる様子はありませんね」




 下敷きから解放されたキューシーは、老人のような動きでパラソルの下まで歩くと、チェアに腰掛けた。


 隣に座ったカラリアがジュースを差し出すと、震えた手でそれを受け取り、波打ち際に全力疾走するアミを眺めて言った。




「むしろ好意的な視線のほうが多いぐらいよ。わたくしの言った通りだったでしょう?」


「晴れて私は、悲劇のヒロインになったというわけですね」


「そうしょぼくれるな。そうなれたのも、姉の人望があってこそだ」




 フィリアスとノーテッドによる情報戦略は、順調に成功している――というより、王国側の動きがあまりに情けなさ過ぎる。


 現状、彼らがやったことは、メアリーの指名手配ぐらいのもの。


 国王からの声明も無ければ、軍も動く様子がない。


 これでは民の信用など得られるはずもなかった。




「とはいえ、懸賞金がかかっているんだ。メアリーを狙う者は現れるだろうな」


「アミちゃんが喜んでいるのは嬉しいのですが、本当にいいんでしょうか……こんなビーチでくつろいでいて」


「逆に、こちらのほうが安全かもな。見晴らしはいいし、富裕層向けのプライベートビーチだ、懸賞金目当てのならず者は入り込めない」




 ビーチの入り口には、マジョラーム製のパワードスーツを身につけた警備が立っている。


 正直、アルカナ使い相手だとあまり戦力にはならないが、幸いここは広く見通しも良いので、奇襲をかけにくい場所ではある。




「それにしても、意外でした」


「わたくしのこと?」


「はい、あれだけ旅行じゃないって言ってたのに、まさか水着まで用意してるなんて」


「別に。思ったより時間に余裕があると思っただけよ」


「……違いますよね、キューシーさん」




 メアリーが深刻な表情でそう言うと、キューシーは「う゛っ」と露骨に気まずい顔を見せた。


 さらにカラリアが追撃をかける。




「お前自身、精神的に参ってたんじゃないか。故郷は滅び、知人を殺し、それでもまだ戦いは終わらないんだからな」


「べ、別に平気よっ」


「強がらなくていいんですよ。辛かったら私たちが支えますから」


「……メアリー、あんた恥ずかしいこと言ってるってわかってる?」




 キューシーは赤くなった顔をごまかすようにストローに口づけた。


 メアリーは照れ隠しを見てふっと微笑んだ。


 すると、波打ち際で水と戯れていたアミが、三人のところまで駆けてくる。




「そういえばお姉ちゃん、大事なこと言うの忘れてた!」


「何ですか?」


「水、しょっぱかったよ!」


「ふふふ、辛かったでしょう」


「うん、飲めたもんじゃない!」




 アミの無邪気さが愛おしくて、メアリーは思わず彼女の頭を撫でた。


 気持ちよさそうに目を細めるアミだったが、急にその目がバチッと開き、キューシーとカラリアの方を向く。


 キューシーは猛烈に嫌な予感がした。




「そうだ、せっかくだしみんなで競争しようよ。あの浮いてるやつまで泳ぐの!」


「かなり距離あるわよ……」


「罰ゲームはどうする?」


「なっ、カラリアあんたまた乗っかって!」


「じゃあ、負けた人はホテルにあった恥ずかしい水着を着る!」


「ああ、あのほぼ紐だったあれですか」


「というわけでよーいドン!」




 真っ先に駆けていくアミ。




「負けませんよ、アミちゃん!」




 それを追いかけるメアリー。




「え、これ100%わたくしが負ける流れじゃない?」


「頑張れば勝てるかもしれんぞ」


「つかあんたは何で余裕かましてんのよ」


「同時にスタートしてキューシーに負けるはずがないからな」


「こ、この……っ!」




 拳を握って悔しがるキューシーだったが、図星なだけに反論できなかった。


 能力を使えば話は別かもしれないが、こんな下らない対決で自分の足を犠牲にしたくはない。


 半ば諦め、ジュースを一口飲むと、メアリーと元気にじゃれあうアミを見て言った。




「はぁ……信じらんないわよねぇ。あんなに元気な子が、あと一ヶ月の命だなんて」


「やはり気にしていたのか」


「当たり前じゃない。王殺しっていう目的があるから、そう甘えちゃいられないのかもしれないけど……やっぱ、どうにかしてあげたいとは思うわよ。せめてこの一ヶ月で、一生分の贅沢ができるように、とか」


「ふふっ」


「何よ、急に笑って」


「いや――さっきからずっと思ってたんだが」


「どうせわたくしはポンコツですよ」


「ポンコツではあるが、優しいなと思ってな」


「それもあんまり褒め言葉じゃないっての。わたくしだって気にしてますのよ、商人として冷酷になりきれない自分とか」


「向いていない」


「ざっくり切り捨てるわね」




 さすがにキューシーも、そこまで言い切られると落ち込む。


 向いていない自覚があるだけに、なおさら。




「でもね、そうも言ってられないのよ。この旅から戻ったら、わたくしは本格的にマジョラームの社長にならないといけないんだから」


「そうか、ノーテッドが領主になるのなら……」


「今までみたいに、甘いままではいけないの。武器商人なんて、人の死を笑えて一人前よ」


「戦いが終わった後、か」




 カラリアは物思いに耽る。


 そんなもの、考えたことがなかった。




「……傭兵に戻るにしても、向いている気がしないな」


「わたくしと同じじゃない。なんならいっそ、わたくしの秘書にでもなってみる?」


「それならメアリーのメイドになったほうがマシだ」


「あら、いいじゃないそれ。お似合いだと思うわよ」


「恰好だけで、メイドらしいスキルは何も身につけていないのだが」


「でもメアリー、あんたが近くにいたら安心すると思うけど。それって、従者としては最高のスキルだと思わない?」


「それは――確かに、悪くない」




 王女様とその従者。


 常に共に歩く未来を想像して、思わずカラリアは微笑む。




「提案したわたくしが言うのも何だけど、思ったより乗り気ですわね……」


「交渉してみるか」


「しかも実現しようとしてる!?」




 カラリアは立ち上がる。


 どうやら彼女もレースに参戦するつもりらしい。


 かなり差が付いているが、泳ぎの知識と身体能力を兼ね備えたカラリアなら、これぐらいが妥当なハンデということか――




「何もしないで負けるのは癪(しゃく)だし、わたくしも行きますか」




 しぶしぶキューシーも、彼女の後ろをついていくことにした。


 キューシーとて、泳ぐのが決して遅いわけではない。


 普段からそれなりに運動だってしている。


 だが、アルカナの影響で身体能力が跳ね上がっているアミとメアリー、そして元からずば抜けているカラリアほど人間離れしていないのだ。


 結局、競争は一位がアミ、僅差の二位がカラリア、三位がメアリー、そして断トツのビリがキューシーという結果になった。


 能力を使わなかったこと、最初から差があったことを加味すれば、まあ妥当な結果だろう。


 陸に戻ったキューシーは、おろした髪をかきあげて、




「いやあ、楽しかったわねえ。お腹も空いてきたし、そろそろホテルに戻りましょうか!」




 爽やかにそう言って、足早にその場から逃げようとする。


 しかし即座に両肩をカラリアとメアリーにホールドされた。


 二人は邪悪な笑みを浮かべ、目をぎらりと光らせる。




「カラリアはともかく、メアリーまで何で必死なのよ……!」


「キューシーさん、スタイルいいじゃないですか」


「カラリアの隣でそれ言う?」


「本気言ってます。だから見てみたいんですよ……じゅるり」


「じゅるりって言ったわよこの子! いやーっ! ケダモノーっ! 誰か助けてぇーっ!」




 ジタバタと暴れるキューシーだが、二人のアルカナ使いの前には無力。


 罰ゲームから逃げられるはずもなかった――



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