王子様と魔女
短編です。
少しだけ残酷な場面があります。
深い深い森の奥、ポツリと建つ古びた塔の中に、一人の美しいお姫様がおりました。
ある日、古びた塔に隣の国の王子様がやって来きて、
「なぜ、あなたはこんな所にいるのです?」
と、お姫様に尋ねました。
「・・・私は、悪い魔法使いにとらわれてしまったのです。」
お姫様は美しい瞳に涙をためて言いました。
「それは、可愛そうに…。」
「私は大丈夫です。それより、あなたが心配なのです。そろそろ魔法使いが帰ってきます。」
無理に笑って言うお姫様がいじらしくて、可愛くて、王子様は一目で好きになってしまいました。
「ならば、私があなたを助けましょう。」
お姫様は少しだけビックリした顔をしましたが、すぐに悲しそうな顔をして首を横にふります。
「私が居なくなれば、魔法使いは必死になって探すでしょう…。あなたの国にもご迷惑がかかってしまいます…。」
しかし、王子様はニッコリ笑いお姫様を抱き上げて言いました。
「そんな事はありません。あなたは私が守りましょう。」
王子様はお姫様を繋いでいた鎖を切り、塔のそばに繋いでおいた白馬に乗せ、自分の国へと連れて帰りました。
大臣達や召し使いは、ビックリしましたが可愛らしい姫を見てすぐに好きになってしまいました。
「父上。母上。私はこの美しい姫を后にしたいと思います。」
王子様がそう言うと、王様もお妃様も笑顔で頷く。
すぐに婚礼の準備が整い、その日のうちに結婚式が行われました。
そして、その日の夜。
王子様はおやすみの挨拶をするためにお姫様の部屋を訪れました。
2人はお姫様が淹れた紅茶を飲みながら話しをしていましたが、王子様は紅茶を飲み終わったとたん強い眠気におそわれた。
朦朧となる王子様を見て、お姫様は怪しく笑い王子様に話しかけた。
「あぁーあ、せっかく静かに暮らしていたのに。
…ねぇ、王子様‘ありがた迷惑’って言葉をご存知かしら?」
「ひ…め…君は…な…にを」
消えつつある意識の中、王子様が最後に感じたものは
「‘悪い魔法使い’なんて、嘘に決まっているじゃない。
それに、私は‘姫’じゃないわ」
という愛しい姫の囁きと、腹部に突き刺された短剣の冷たさだった。
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