書きたかったクリスマス
「……ん?」
今日はクリスマス。朝起きてみると何故か白熊木からメールが。
『僕バイトしてるんですけど、人足りなくて……手伝ってくれませんかー?』
「……」
更に文章は続き、店の場所やシフト、そしてやるべきことややり方が書いてあった(ちなみに店は前に存菜と一緒に行った焼肉店)。
「ケーキがついてくる……だと……?」
まず今日はクリスマスだからといって祝う友もいなければ仕事もない。つまり休日なのだ(休日の頻度は月に5、6日なのでめちゃくちゃ珍しいとかそういうことはない)。
その暇な一日を、社会貢献に使えるのだ。有意義ではないだろうか。
「……よし、行くか」
「どうも、ヘルプの朱宮です。よろしくお願いします」
「同じくヘルプの終夜です。よろしくお願いします」
「うん、ふたりともよろしく。ここの店長の前川です。早速働いてもらうわけだけど……予習は大丈夫かな?」
優しそうな三十代前後の男性が質問をしてくる。予習……少なくとも白熊木から送られてきたものには目を通した。昔バイトは暇つぶしでやってたからすんなり覚えることもできた。
私は「バッチシです。パーペキ」と答えたが、言葉遣いが古かったのか「パーペキって今の世代の子も使うんだねえ」とあらぬ誤解を生んだ。
(確かに私の見た目は十代だが、中身は老婆なんだよな……いや老婆通り越して幽霊のレベルだけど)
ちなみにもうひとり……終夜のほうは。
「せっかくのクリスマスだっていうのに働かないといけないっていうのと、一度も働いたことのない人をその場で採用して使うところ以外は問題ないです」
言い方はアレだが言ってることはごもっともだ(前半部分の内容は無視しつつ)。
「はは、いやほんとにと若い子多くて欠員ヤバいからね。ほんとごめん」
「いや別に暇なんでいいです。咲桜とも一緒に居れるし」
……なぜ文句を言ったのだろうか。
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」
「失礼いたします。お待たせいたしました、こちらカルビでございます」
「では確認させていただきます。12/31の午後2時から2名様でよろしいでしょうか?」
「……白熊木さん、何者なんですかあの朱宮さんって。どこかで働いてるんですか?」
「いやいや、無いと思うよ、十時さん。元々働ける人なのは知ってたけどまさかこれ程とは……」
何やらデシャップで私のことを話しているっぽいな。まぁ私だもんな、褒められて当然ぐらいには働くさ。
「あ、朱宮さんお疲れ様です!凄いですね、どこかで働いてるんですか?」
さっき白熊木と話していた十時という少女が話しかけてくる。
「結構前に少しバイトしてたぐらいだ」
「結構前……?見た目が若く見えるので私と同年代ぐらいと思ってたんですが……」
「軽く200歳は超えてるぞ」
「な、なんだってー!?」
思ったよりもノリがいい。これぞ正しく陽キャって感じだ。ローズもこれくらい柔らかくなれば……いや、あれぐらいが私には合うか。
「朱鷺子も凄いよ!バイト歴短い私よりも働いてるよ!」
「駄目じゃんバイト歴0の私に負けたら」
一緒に休憩をしていた終夜にも話しかける。どうやら知り合いのようで、下の名前は朱鷺子らしい。ということは、さっき言ってた咲桜は十時のことだったのか。
そのまま午後も働いて、帰る前にチョコケーキだけ食った。美味しかった。
「ただいま」
家……事務所に帰り着く。
あの焼肉店とは違い、人もいなければうるさくもない。あるのは書類とゴミと日傘ぐらい。
数年ぶりの有意義なクリスマス。少し名残惜しくもあるが、本来の居場所はここ。天涯孤独の名探偵は、今日も独りで眠りにつく。




