第二章 恐怖の始動(2)
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「カトゥ、何を逡巡して居る。」
ダミオスへ援軍として到着したユングの前でカトゥが膝をついていた。
「しかし、ニクルスの町中にはまだ女子供が・・・
しかもケムリニュス兵の一部もまだ町中に・・・」
「女子供とて容赦することはいらぬ。町中に残ったということは抵抗の意志があると言うこと。
お前をここに送り出す時に言ったであろう、抵抗する者は全て焼き殺せと・・・
ケムリニュス兵とて同じ事。未だ町中にいるのは役立たずの証拠。
構わぬ、町に火を放ち全てを焼き尽くせ。」
「解りました。ユング様がそこまで仰るなら・・・」
カルドキア軍の包囲を受けて四日。女子供までが武器となる物を手に、州都ニクルスの町中に進入してきた老兵達と戦っていた。
周囲はカルドキアの正規軍に囲まれ、逃げ道はない。
兵士は二百に満たない。その少なさを町中に残った民が補っていた。
包囲から五日目、乾いた北風が吹く夜、庭先に積まれた枯れ柴の焼ける匂いが町中に立ちこめた。男達が外に飛び出しその火を消そうとする。しかし、火が出た場所は一カ所では無かった。町中のあちこちで火の手が上がる。乾き切った風に煽られ各所の火が勢いを増し、遂には抑えきれない劫火となる。
火から逃れようと人々が逃げまどう。
追いつめられ町の南に集まる。
だが、町の外ではユングに率いられたカルドキア正規軍が槍を揃え待ちかまえ、町を逃れ出る者を一寸刻みの試し切りにしていた。
バリバリと家々を焼く炎の音を、町を出た者達の悲鳴が引き裂く。
死を乞う。
しかし、足先から、指先から僅かずつ切り刻まれ安息の死は簡単には訪れない。
苦痛の呻きと悲鳴が交錯する。
地獄の責め苦を受ける者を助けようと、若者が武器を手にカルドキア兵の中へ駆け入る。それもまた、血に飢えた兵士達の餌食となる。
幼子の手を引いた若い女が、ニクルスを焼く炎の中に駆け込む。
太陽が東の空を朱に染める頃、ニクルスは人も町も灰と化した。