第五章 戦禍(6)
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タキオスの街はローヌ川を挟んで北と南に分かれている。北の街は農耕の街。一部を除き城壁も持たず、無防備な姿で存在している。
レジュアス王アーサーはストランドス侯国との無用の摩擦を嫌い、北の街は従来通り傭兵だけにその街の守りを任せていた。
その手薄さを突き、ストランドス侯国の王パリスはフィルリアの戦乱に乗じ一気にタキオスの北の市街の征圧にむけ動いた。
信念を持たぬ兵と統率された軍との戦いはあっと言う間に終わった。
戦闘は北と南の街を結ぶ三本の橋の攻防へと移っていた。
この日、朝早くから、タキオスの民が北の砦と呼ぶ橋向こうの城壁に対しストランドス軍の苛烈な攻撃が始まっていた。
その日の日暮れ近くにダルタンは自分の軍を引き連れ、南の街に到着した。
タキオスの街に入るダルタンの軍と入れ替わるように、傭兵の一部は既に退き足を見せ、ばらばらと街を逃げ出していった。
「この町の守将は・・ロンドはいるか。」
ダルタンの声にこの町に派遣されたレジュアス軍の兵卒が答える。
「北の砦に・・・」
「解った。
我が軍は運河を封鎖し陣を敷く。
そのように伝えてくれ。」
命を受けた兵卒は橋を渡り、北の砦へと駆けていった。
翌朝。
「何だあれは。」
北の砦の城壁を守る兵士の間から驚きの声が上がった。
北の砦が落ちないことに業を煮やしたストランドス軍は、首都から曳いてきた巨大な投石機、十機余りを城壁の前に並べた。
そこから打ち出される巨石は北の砦を越え、ローヌ川を越え、直接タキオスの南の市街の城壁を叩きだした。
城壁が崩れ、石の下敷きになる者、巨石の直撃を受ける者、街は恐慌に陥った。
今まで、傭兵だけに街を守らせ、自ら武器を取ろうとしなかったタキオスの民は泣き叫び、右往左往するだけで、兵の迅速な展開にも支障をきたすようになっていった。
その間隙を突き、ローヌ川の上流から流れに任せた速舟の一隊が、封鎖してある運河の閘門に爆薬と共に突っ込み巨大な音と共に閘門が破壊される。
タキオスの民はその音に肝を飛ばし暴徒と化し、ダルタン軍の陣備えを壊していく。
また、破壊された閘門へ幾多の速舟が押し寄せる。引き気味に構えたコロポックの一団が矢を放つ、それに怯むことなく自軍の屍を越えストランドス軍が押し寄せる。
戦斧が踊り、剣が舞う。
その中へ槍の穂先を揃えたオークの一団が殴り込む。
戦いは乱戦の様相を呈しだした。
そこへまた、爆発音が一つ。
他の閘門が破られた。
「兵を回せ。」
ダルタンの大声にドローアスが応える
「市民が邪魔で思うように動けぬ。」
「くそ・・・手が回らぬか。
まず市民を城外へ。
ロンドには北の砦を棄て、街の護りに就くように。
エフェソスへ使者を送り、援軍の要請。
すぐに動け。」
恐怖に顔を引きつらせ街の中を走り回る市民を南の門へと誘導する。しかし、己の財への執着と恐怖が市民の混乱に拍車をかける。
その背へ向けストラゴス軍の矢が放たれる。ばたばたと市民が倒れ、それがいっそう混乱に拍車をかけた。ほとんど暴徒と化した市民が南の門と言わず、東の門、西の門へと殺到する。踏み殺される者、圧死する者。街中は阿鼻叫喚の渦と化した。
やっとの思いで街を出た者達には、先に逃げ落ちた傭兵達が野党と化し襲いかかった。
難民は蹂躙され、それでもやっとエフェソスへたどり着いた時には、手を震わせ、ぽかんと口を開け痴呆のような姿に変わり果てていた。
ドローアスの兵は逃げ去った市民の跡を埋めるように新たに破られた閘門へと急ぎ、苦戦を強いられていたコロポックの一団に合流しどうにか閘門の線で敵を押し止めた。
そこへまた爆発音。三つめの閘門が破られた。
押し寄せる敵。しかしその上に北の砦を棄てたロンドの軍が襲いかかり、この閘門は守り通した。
しかし、乱戦を指揮するダルタンの耳に北の砦の門が破られる音が・・・
「コロポックを引き揚げさせ、橋を守る城壁に急がせろ。
ガルシア。我々は北の城門の護りに就くぞ。」
駆けだしたダルタンの後ろに、馬を棄てたガルシアの兵が続いた。
日が沈む。
この日はどうにかタキオスを守り抜いた。しかし明日は・・・




