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ロンギオスの炎-Ⅱ 中原燃ゆ  作者: たかさん
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第四章 蒼き炎の旗(2)

×  ×  ×  ×


 ドラゴとルシールを伴ったカミュは、バルバロッサの襲撃を伝えるため、バルモドス山からレジュアス王国の首都レグノスへ向かった。

 レグノスに入るとカミュは人々の生活の豊かさと町の平和に驚いた。

 (ここも平穏に慣れ、時の外か・・・)

 当初のカミュの印象はそう言うものだった。

 しかし、町行く人々に触れてみると、ロマーヌネグロン、ストラドス侯国への対抗のため、ホリン共和国へ兵を出し、情報収集と警備のため、王の軍は絶えず王国内を巡回していることが解った。

 その上に乗った王国の平和であり、生活の平穏であった。

 町中には多くの種族が集まり、ドラゴの姿を眼にしても、誰もが当たり前のことのように気にしなかった。

 カミュ達は行き交う人々の間を縫い、丘の上に見える王城を目指した。

 王城の門は全ての者に開かれ、カミュ達は苦もなく王城へ入り、来意を告げ、王または王の側近への目通りを願い出た。暫く待つと案内の衛兵が現れ、城内の一室に通された。

 そこには黒々とした顎髭の男が待っていた。

 「執政官を務めるハンコックと申す。

 お掛け下さい。」

 その男は、テーブルの椅子を三人に勧めた。

 「本日、アーサー王は領内の巡察に出ておられる。今夕にはお戻りになるかとは思われるが、火急の用とお聞きした。それで私では失礼に当たるが・・・

 して、ご用というのはバルバロッサのこととか・・・」

 カミュは、ロニアスの滅亡。そして、ロニアスを襲ったバルバロッサが西へ向け立ち去ったこと。その一団を追い越しこの城に至ったこと、ダルタンがその一団に向かったことなどをつぶさに語った。

 「解りました。情報を頂いたことに感謝いたします。」

 ハンコックは礼を告げ、その部屋を後にした。

 そして、その日の内に城から一人の将に率いられた五千程の兵が東へ向かった。

 カミュはそれを見届け、ディアスが居るであろうフィルリア王国の首都ファルスを目指した。


 カミュがファルスの町中に入った頃、二頭の馬が城へ駆け込んでいった。それは、ドロニスからの急使の馬だった。

 しかし、火急を告げる馬が駆け込んだにもかかわらず城内は静かなままだった。

 ファルスの城内では女王の謁見を求めるハーディと、それを赦さぬヒルタントの間で大声が飛び交っていた。

 「ヒルタント、貴公はこれほど言っても未だ解らぬか。」

 「解らぬのは貴公の方だハーディ。

 全ての献策は、私を通じ女王の耳に届いて居る。

 何かあるならここで申せ。

 それを私が女王に取り次ぎ、そのご判断を貴公に申し伝える。」

 「ええい忌々しい。

 それでは聞くが、先ほどの騎馬の者、あれはドロニスからの使者であったはず。

 それをどうした。ミランダ様の下へも取り次がず、別室に幽閉して居る。

 全てのことが貴様の口からミランダ様へ歪み伝えられて居る。

 宮中の奸佞が遂には・・・」

 猛り狂うハーディの口を手で押さえ、ギルサスが彼を部屋の外へ引きずり出した。

 「ギルサス様何を・・・」

 「今、お前にいなくなってもらっては困る。

 ただでさえヒルタントの専横が罷り通っている中、私独りではこの国を守りきれぬ。

 押さえるのだハーディ・・・

 そして、善後策を練るのだ。」

 しかし、ギルサスの危惧は翌日にはすぐに現実となった。

 ヒルタントの口を通した女王の命で、ハーディは僅か二百の兵と共に、滅びたロニアスへの無期限の視察に旅立たなければならなかった。

 

 ドロニス侯国は滅亡し、そこへ向かったディアス達の行方は知れず、カミュ達は失意の中、ホリン共和国を目指した。

 初めて見るホリン共和国の国境の町タキオス。ローヌ川の南岸に位置し、ロマーヌ王国開闢(かいびやく)の地。古からの繁栄を映し出すかのように石造りの巨大な家が建ち並び、ローヌ川と繋がる交易の為の運河が縦横に駆け巡る。それがこの国が持つ富の巨きさを物語っていた。

 その街中をガラの悪い傭兵達が闊歩し、レジュアスからの援兵達は忌々しげにそれを見ていた。

 狭い辻を曲がると、そこに皺だらけの老婆が、あたかもカミュ達を待ち構えていたかのように佇んでいた。

 「そこのお若い方。」

 老婆がカミュに声を掛けた。

 「何か・・・」

 カミュが振り向く。

 カミュの目を見た老婆の目が深い皺の中でカッと見開かれ、キラッと光った。

 「此方へおいでなされ。」

 カミュは誘われるままその老婆に近づいた。

 老婆の枯れ枝のような細い指がカミュの体をまさぐる。

 胸から左肩・・・そして右の肩口でその手が止まった。

 「やはり・・・・

 北を目指しなされ。

 サルミット山脈の北。

 そこにあなた様の求める答えがある。」

 それだけを告げると、老婆は影のように消え去った。

 「何だったんだ、あのばあさん。」

 首をひねるドラゴの横で、

 「でも、何だかの啓示だったのかも・・・

 カミュ、姉さん達の行方も解らないことだし、あのおばあさんの言う通り、北を目指してみたら。」

 と、ルシールが声を掛けた。

 「だけどこの戦乱の中、どうやって・・・」

 「川を上るさ。

 ローヌ川を遡れば、オービタス山地。そこには俺の故郷がある。そこを通れば、苦もなくサルミット山脈の北まで行き着くぜ。」

 カミュはドラゴの意見をいれローヌ川に乗り出した。


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