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ロンギオスの炎-Ⅱ 中原燃ゆ  作者: たかさん
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第三章 それぞれの道(10)

×  ×  ×  ×


 「マーラン、そなたはどう考える。」

 「そろそろ気付かれたようですな。この月の谷の在処を・・・

 先日も私の部下が、ダルビドス山の中腹をうろつくバルバロッサを捕まえました。

 王よ、どうなさいますか。

 この谷の守りを固めるか。それとも・・・」

 「早いほうが良かろう。

 奴等に知れ渡る前に・・・」

 「それでは・・・」

 「そうだ・・・仕方のないことだ。」


 「中原はかなり揺れているらしいな。」

 「うん、ロンバルギアの戦いが飛び火した訳じゃあないだろうが、あちこちで戦いが起きているらしい。」

 「ダルタンがここを去ってから、情報源は王の持つレンジャーだけ、それも徐々に少なくなっていっているらしい。」

 「我々の耳に届く情報も日に日に細くなってゆく。

 どうするイシュー・・・」

 イシューの屋敷に集まる者の数も減り、今はサムソンとダイクそれに最近になってティアが加わった。

 それでも僅かに四人。その上集まらぬ情報に、いつもの夜の会は暗く沈んでいた。

 そこへイシューの従者がけたたましい音と共に飛び込んできた。

 「皆が集まっている時、ここに入ってきてはならぬと言っていただろが・・・」

 「申し訳ありません・・しかし、大触れでございます。

 王様よりのお達しであります。皆、城に集まるようにとの・・・」

 「城へ・・・」

 四人は取る物も取り敢えず城へと向かった。


 四人が城の大広間に付いた時にはそこは人でごった返していた。何事かと声高に喋る者。広間の隅でひそひそと持てる情報を交換しあう者。

 その中に、

 「王様のおなりです。」

 と、ヴィフィールの凛とした声が響き渡った。

 下の砦を護るヴィフィールまで、何事かと四人は囁きあった。

 ブリアント王が玉座に着く。

 「皆の者、この夜更けにご苦労である。

 今夜、貴公等に伝えなければならないことがある。」

 そこで一呼吸置き、ブリアントは一同を見廻した。

 「我等、ルミアスの民はこの月の谷を、棄てる。

 皆も薄々は知っていようが、今、中原は騒乱の中にある。また、バルバロッサの動きも知っておろう。

 我等は、この時代にあっても月の谷を守り抜く手だては持って居る。

 しかし、それはこの狭い月の谷を戦乱の中に巻き込むことになる。

 百数十年前、私はアリアスの戦いに参加した。そこで戦争に巻き込まれた住民の悲惨さを見てきた。

 この狭い谷であの様な戦いが起きたら・・結果は見ずとも明らかだ。

 私はあの様な惨劇の中にルミアスの民を巻き込むことを良しとしない。

 したがって、私はこの谷を棄てることを宣言する。期限は五日・・・五日を以てこの谷を出る。」

 その場が収拾もつかぬ程ざわめいた。しかし、この谷に住む者にとって王の言葉は絶対であった。大広間に集まった者達全てが、慌ただしく自宅へと引き取った。

 そんな中、イシューが唯独りその場に残った。

 「どうした、イシュー・・・」

 「父上、お話が・・・」

 「聞かずとも解って居るつもりだ。

 但し、お前は王の息子。つまり将来はルミアスの民を護らなければならない立場にある。そのことを肝に銘じ、目的を達成したあかつきには、必ずルミアスに帰ると約束してくれ・・・それさえ守れば私は何も言わん。

 同志は何人集まって居る。」

 「未だそれ程は・・・」

 「明日の朝、城より臣民に声を掛けるが良かろう。さすれば幾ばくかの数は増えよう。

 但しそれは王子としてではなく、時代を憂う一人の志士として声を掛けることだ。

 解ったな。」

 「はい・・・父上・・・」

 「もう、何も言うな・・・」


 昨夜の王の宣言が全ての民に行き渡り、城下が騒然としている中、イシューが城のバルコニーに立ち大声を張り上げた。バルコニー下にはイシューと志を同じくするもの約二百人。

 それに、まず子供達が気付いた。

 「ルミアスの者達よ聞いて欲しい。」

 子供が親の裾を引き、バルコニーを見上げる。それに続き、人々が一斉にイシューを見上げた。

 「王のご裁断が出た。

 遷都する。

 しかし、私はこの大陸に残り、この時代に乗り出し、今から起きるであろう戦乱を鎮めることに力を尽くそうと思う。

 百五十余年前、王はアリアスに力を貸し、邪教の軍団と戦った。

 しかし、力及ばず、オービタスを棄て、ここ月の谷へ我等の居を移した。

 そして今また・・・

 王の考えが間違っているとは思わない。

 王は皆を戦いの惨禍から守るため知恵を絞っている。

 しかし、人々を苦しめる邪神を討つ者も必要だ。

 サルミット山脈の北では既に戦いが始まり、その火は中原にも及ぼうとしている。

 邪神は人々の苦しみを喜び、益々肥え太ってゆく。

 立ち上がろうではないか。

 この大陸を救うために・・・

 ここに私と志を同じくする者が集まっている。

 民よ、戦士よ、貴方がたも・・私に・・いやこの世界に力を貸して欲しい。」


 女子供を先に、少しずつルミアスの民が月の谷を出て行き、残るは僅かな兵士のみ。

 下の砦の門前に集合する。

 その時ヴィフィールがブリアントに別れを告げた。

 「陛下、お別れでございます。」

 「お前は何処へ・・・」

 「何処へも行きません。

 私はこの砦を守ります。

 全ての者が退き払い、月の谷が空であることが解れば、バルバロッサは皆を追います。

 しかし、この砦を守る者がいれば、奴等は兵を裂くでしょう。つまり陛下を追う者が多少なりとも少なくなる・・・。

 私はここでお別れいたします。」

 ヴィフィールと共に砦に残る者約千人。それらを残し滝裏の杣道を抜けた。

 「陛下、私もここで・・・」

 「マーラン、お前までがなぜ・・・」

 「ヴィフィールは砦に残りました。

 が、これだけの人数が動けば、自ずと奴等に知れましょう。

 となれば、月の谷を襲う者より、それを追う者が多くなるのは必定。

 であれば、私がここに残り奴等を食い止める。その間に陛下は港町ルキアスを目指す。」

 「マーラン、お前はここで・・・」

 「ルミアスの民を守るためには、陛下とその軍は必要でございます。

 いざ・・・」


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