第三章 それぞれの道(2)
今日も月の谷は何時も通りの朝を迎えた。
いつものように朝の教練を行い、夜の座学まで。昨日までと何も変わっていない。
その中でディアスだけが無口になり、教練にも座学にも気が乗っていないようだ。とカミュは思っていた。
「ディアス、どうしたんだい。」
「ああ・・・このままで良いのかと思ってな。
ここにいれば大陸の動乱からは離れ、平和に暮らしていける。
しかし・・果たしてそれで・・・」
「ディアスが言うことは解らないでもない。でも、今の僕たちに何が出来ると・・・」
「出来るかじゃなく、やるべき事があるような気がする。」
「どうする気だい。」
「ローコッドとも話したんだが、そろそろここを出ようかと思っている。
只、今まで世話になったこの国に後足で砂を掛けるようなことは出来ない。
ここ数日ローコッドがそのことについて王と話しをしている。今晩その答えが出る。」
その夜、ローコッドに宛われた家にディアスを筆頭にカミュ、サムソンそれにティルトとフェイが集まった。
「ローコッド、どうだった。」
ディアスが口を開いた。
「王のお許しが出た。」
「ここに来て四年、長かったのか短かったのか・・・しかし、ここで多くの事を学んだ。
俺は明日には旅立つ、サムソン、カミュ。お前達はどうする。」
ディアスの問いにカミュが応える。
「僕は残る。まだこの月の谷で知りたいことが残っている。」
「そう言うと思っていたよ。だからお前には声を掛けなかった。
ところでサムソンお前はどうするんだ。お前ならどの国へ行っても優秀な兵士として通用すると思うが・・・」
「俺か・・・俺は・・残る。月の谷の外に出ると戦が待っている。・・・闘い・・・そうなるとまた人を・・・」
「お前まだあのことを・・・
解った。それじゃあ旅立つのはローコッドと俺、それにここにいるティルトとフェイ。この四人だな。」
「ティルトとフェイも・・・」
「そう、その為にローコッドがブリアント王と長いこと交渉を重ねていた。
それが、やっと今日赦されたという訳だ。」
「そうだったのか・・・」
カミュが唸るように声を発した。
下の砦まで見送りに来たカミュとサムソンを残しディアス達は月の谷を旅立った。
目の前に拡がる草原。久々に見る広々とした光景だった。
「さて、何処に行く、ディアス。」
ローコッドが声を掛けた。
「まずは生きた情報が欲しい。」
「それでは、フィルリアから、ドロニスへ・・最初に狙われるとすれば・・まずドロニス。」
「ロニアスへは寄らないのか。」
と、ティルトの声。
「ああ、俺の故郷だがあの村は・・・」
「とにかくまずは南へ・・・バルバロッサと魔の棲む湖イズルは避けんとな。」