第一章 帝国の混迷
前作の続きです。
いよいよ戦いが始まるのか・・・
ロニアスを出た三人の動きはどうなるのか・・・
いよいよ、物語が動き出します。
ボスポラス山の中腹、奥の院。その扉の奥でユングがキュアに語りかける。
「巧く考えたものだな。」
「左様、見ての通り、我等の神が復活するにはまだ多くの血と、人々の絶望と恐怖を必要といたします。人の世の阿鼻叫喚がルグゼブ神の復活を早める・・・その為には・・・」
「戦乱が必要という訳か・・・
予想通り、あの二人は良くやってくれた。だがそれもそろそろ潮時かな。」
サミュエル皇帝の死を伏して三年。二年間のモアドス王国での留学を終え、ユングはポルペウスへと帰っていた。
ユングはモアドス王国で中原の動静を探り、ポルペウスに帰ってからは、カルドキア帝国に対する各地の不満を神官を使い煽り立てていた。
「そろそろ潮時かな。」
もう一度そう言い、山を下りる支度を始める。
その頃ログヌス城内では、サルニオスとフルオスが各地の不穏な動きに頭を抱え、策もなく、おたおたと只部下の報告だけを聞いていた。
間もなくサミュエルが死んで三年目が訪れる。その死を城下にふれた時の混乱が目に見える。それを収める皇帝にはどちらがなるのか。あの日以来姿の見えないユングは別とし、二人の間では綱引きが続いていた。
国政よりも権力の掌握に精力を使い、益々帝国は混迷の度合いを深めていっていた。
皇帝の喪を発する日、二人の前に銀のローブを身にまとい、邪神のメダルを首から下げたユングが現れた。
「兄者、この体たらくは如何にしたことかな。国は乱れ、民衆は騒いで居る。これを如何に抑えるおつもりか。」
三年前、城を出た時よりも威厳と凄味を増した物腰と眼とが二人を圧した。
「喪は私が発する・・それで宜しいかな。」 喪を発する。それが次の皇帝の証し。
権力を握るため、あれこれと画策してきた二人の願望は崩れ去る。しかし、ユングの眼には逆らえなかった。
城のバルコニーにユングが立ち、城下に喪を発する。
キュアがその頭に皇帝の冠を授ける。歓声と悲嘆の声が渦巻く中バルコニーから身を退き、皇帝の寝所へ向かう。
その扉を開けると、腐り果てたサミュエルの躰から腐臭が漂っていた。これを人目に晒しながらも隠し果せたキュアの力とは・・・
ユングの背中を寒気が走る。それを振り払うように後に続いた神官に声を掛けた。
「臭い・・焼け。」
「焼けとは・・・」
「解らぬか。部屋ごと焼け。」
命じ終え、大広間に集まった部下の前に身を現す。
「覚悟。」
その時、どちらかの兄の意を受けたと思われる刺客が一人、ユングに向け剣を振り上げた。その胸をユングが平手で軽く突く。すると、剣を振り上げた男は宙を飛び、広間の壁に激突し息絶えた。
ざわめきがしんと恐怖に静まり返る。
その中を玉座に座る。その横にはキュアが立った。
皇帝としての初めての声を発する。
「さて、まだ私に逆らおうという者は居るかな。」
広間には咳一つない。
「どちらかは知らぬが、兄者、恐れることはない。これ以降の忠誠を誓いさえすればよい。それは皆も同じ・・・」
ザッと広間に集まった者が皆立ち上がり、膝を折る。
「良かろう・・・それではこれからの策を授ける。」
「何もしないこと・・さすれば喪を発したことにより騒ぐ所は騒ぐ。
それを討つ。
初代と同じ、いやそれ以上の恐怖で帝国の統治を行う。」
「情報を集めよ。
武を練ることを怠るな。
戦はすぐにやってくる。その時に後れを取るな。」