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スポーツジムの危険地帯に潜む青年

 スポーツジムの更衣室は危険である。


 そこには運動前の人、運動後の人、お風呂上りの人、3種類の人種が混在しており、それこそがスポーツジムの更衣室が危険地帯となる確たる由縁である。


 お風呂上りの人からしてみれば、運動後の汗だくの人は危険極まりない。万が一すれ違った時に肌が触れ合ったりしたら……想像しただけで不快感を覚える。


 そしてあの床。運動後のお世辞にも綺麗とは言えない足の裏で歩いた床を、お風呂上りの綺麗になったばかりの足の裏で歩くのは抵抗がある。歩くたびに汚れていくような感覚を覚える。床にテープを貼り、運動前の人が歩くレーン、運動後の人が歩くレーン、お風呂上りの人が歩くレーン、と分けてほしいぐらいだ。


 そういえば、脱衣所でおじさんが、足の裏にティシュペーパーを貼り付けているのを見たことがあった。おじさんは両足にティシュペーパーを貼り終わると、「よし」と満足気にロッカーへと歩き出した。わたしは心の中で「おじさん気持ち分かる!」と叫んだ。


 確かにわたしは神経質で潔癖症で強迫性障害で不器用で生きづらいところがあるから、少々気にしすぎなのかもしれない。


 だけどみんなが使うスペースなのだから、使う人たちのチームワークが大事だと思う。


 チームメイトを思いやり、自分勝手な行動はせず、One for all, all for one1人はみんなのために、みんなは1人のために。そういった精神こそが、快適な更衣室を作るのではないだろうか。


 というわけで、わたしはいつものようにスポーツジムに出掛け、ランニングマシンで汗を流し、ロッカーでお風呂セットを取ってお風呂場へ向かった。


 ドア付きブースに入り、シャワーで汗を流す。すっきりしたところで湯船に浸かり、疲れを癒す。そのあと、ジェットバスでコリをほぐして、洗い場へと移動する。


 髪、顔、体、と上から順番に洗っていくのが拘り。掃除の基本と同じ考え方だ。先に体を洗って、そのあと髪の毛を洗ったら、髪の毛の汚れが、体に流れてきて、洗い立ての体を汚してしまうようで嫌だからだ。


 綺麗になると、脱衣所へ出て行く。最後に湯船に浸かってからあがるという人もいるが、わたしは間違いだと考えている。みんながみんな、湯船に入る前にシャワーで汗を洗い流しているとは言えず、湯船が綺麗だという保証はないからである。湯船に浸かった後に体を洗うのも、同じ理由である。


 さっぱりして気分よくロッカーに向かうと、目を疑うような光景がわたしを待ち受けていた。


 ロッカーの前に置かれた木製のベンチに、大学生ぐらいの爽やかな青年が座っていた。バスタオルを腰に巻いている事から、お風呂上りなのだろう。


 スマートフォンで誰かと話している。問題は、彼のシューズが、ベンチに、靴底を下に向けて置かれてあったのだ。


 ベンチに靴…!!しかも靴底を下に向けて。あり得ない。


 どういう神経なのだ。これは注意しようと、近づこうとした時、青年がベンチから立ち上がった。背が高く、180㎝はあるんじゃないかと思われる。しかも、細いのに筋肉質だった。一瞬、気圧されてしまうが、注意したい気持ちが勝る。


 しかし、声をかけようとした矢先、更なる衝撃に言葉を飲み込んだ。


 青年は借りている一番下のロッカーから、着替えを取り出すために、床に膝をつけたのだ。


 先程熱く語ったように、スポーツジムの床は、綺麗な足ばかりで歩いているわけじゃない。運動後の汗だくのとんでもない足の裏でも歩いている。中には、キツイ油足の方もいるだろう。足跡がついている事だってある。だから、足の裏にティシュペーパーを付けて歩くおじさんがいるのだ。


 そんな床に、お風呂上りの洗い立ての膝を。どうして、自分で自分を汚すような事が出来る。


 そうか、気にしないのか。気にしないタイプか。きっと彼は、この床に寝る事も、ゴロゴロ転がる事も出来るのだろう。


 こちらの困惑など知る由もない青年は、耳と肩で器用にスマートフォンを挟んで、ロッカーから取り出した着替えを持って立ち上がり、「着替えるから一旦切るね」とスマートフォンを操作して通話を終了させると、ベンチに近づいていく。


 呆気にとられながらも、わたしは青年を目で追っていると、青年は持っていたスマートフォンを、ベンチに置かれたシューズの中に入れた。


 えーーーーーーーーー‼


 マジか。わたしは思わず、じゅ、じゅ…充電器か、靴型充電器か、と心の中でツッコミを入れる。


 分かっているのだろうか。靴の中は、そこは、さっきまで汗ばんだ靴下がいたんだぞ。それだけじゃない。運動した靴の中は、汗、垢、温度、湿度で繁殖した雑菌まみれ。


 直ちにそのスマホ捨てろ。捨ててくれ。買い替えをお勧めします。


 着替えを終えた青年は、平然とシューズからスマートフォンを取り出すと、画面を操作して、耳に当てた。


 住む世界が違い過ぎる。なす術がないと思った。あんな奴に注意したところで、こっちの気持ちは何一つ伝わらない。分かってもらえる可能性は皆無。言うだけ損。


 今後、あんな奴と一緒に更衣室を使うのかと、頭がクラクラする思いだった。


 それから間もなくして、わたしはスポーツジムを退会した。


スポーツジムの危険地帯に潜む青年・おわり

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