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トップ3に恥じない歯磨き

 小学5年生の時に、全校生徒を対象に歯の健康優良児のコンテストのようなものがあった。全国的に行われていたものなのか、わたしが通っていた小学校独自のコンテストなのかは定かではないが、まさかそのコンテストが、わたしの今後の人生に大きな影響を与える事になるとは思いもしなかった。


 そのコンテストは、歯医者さんに虫歯と歯並び等を見てもらい歯の健康優良児を選ぶというものだった。そしてわたしは、トップ3に選ばれた。全校生徒の中のトップ3だ。快挙である。別段優秀な生徒というわけではなかったので、選ばれた事が嬉しくてならなかった。その時、生まれて初めて表彰状なるものを手にした。


 だけどその歯のコンテストは、その年の一回きりで終わってしまい、連覇を誓っていたわたしは残念でならなかった。何故それ以降開催されなかったのかは分からないが、身体に優劣をつけるのが良くないと、教育委員会かPTAの偉い方々が考えたのかもしれない。


 とにかくその日以来、わたしはトップ3に恥じないよう、歯を綺麗に保ち続けてきている。とはいっても取り組む事といえば、歯磨きに尽きるのだが。


 わたしにとって歯磨きは毎回が真剣勝負。決して負けられない戦いがそこにはある。40歳を過ぎた今まで一度も虫歯になった事がないから、連戦連勝を更新し続けている。


 主戦場は洗面所。わたしは電動歯ブラシを手にして鏡の前に立つ。そして電動歯ブラシの毛先に歯磨き粉をたっぷりと乗せる。専門家の中には歯磨き粉の量は少しで良いとおっしゃる方もいるが、わたしの磨き方では少量では足りないのだ。専門家が何と言おうが、結果が出ているわけだから、わたしはたっぷりとつける。


 まず電源を入れてないOFFの状態の電動歯ブラシを口内に入れて、歯磨き粉を歯に満遍なくいきわたらせる。そしていよいよブラッシングを開始する。


 電動歯ブラシを力入れずに軽く持ち、下の歯の右端の奥歯の表側から1本ずつ順番にゆっくりと時間をかけて磨いていく。(※ちなみにわたしは左利きである。左利きの特性なのか、右手もそこそこ使えるので、歯の場所によっては右手に持ち替える事もある)


 下の歯の表側が終わると、そのまま上の歯の左端の奥歯に持っていき、表側を1本ずつ順番にゆっくりと時間をかけて磨く。歯の表側を全て磨き終わると、次は歯の噛み合わせ部分を磨く。電動歯ブラシを下の歯の右端の奥歯の噛み合わせ部分に持っていき、1本ずつ順番にゆっくりと時間をかけて磨いていき、下の歯が終わると、そのまま上の歯の左端の奥歯の噛み合わせ部分に移動させて1本ずつ順番に磨いていく。噛み合わせ部分が終わると、次は歯の裏側を磨く。同様の手順で、1本ずつ順番にゆっくりと時間をかけて磨く。歯の表側、噛み合わせ部分、裏側の順番に一通り磨けたら一周目が終わりだ。これを三周する。


 一周目のポイントは、歯に詰まった食べカスを取り除く事だ。歯に詰まった食べカスが取れたと思ったら、歯磨き粉ごとペッと口から吐き出す。取れたと思わなくても食べカスが取れている場合があるので、定期的に口から歯磨き粉を吐き出すようにしている。定期的に歯磨き粉を吐き出すので、歯磨き粉が大量にいるというわけだ。食べカスを取り除いた時点で口から吐き出さなければ、せっかく取り除いたはずの食べカスが、別の歯に付着してしまう恐れがある。食べカスのお引越しだ。だからこまめに吐き出すことが必要なのだ。


 一周目で食べカスを取り除いたら、次は本格的に磨く二周目に入る。掃除機で埃を吸い取ってから、拭き掃除するイメージである。二周目に入る前に歯磨き粉をかなり吐き出しているので、追い歯磨き粉(歯磨き粉の追加)をする。


 二周目も歯の表側、噛み合わせ部分、裏側と1本ずつ順番にゆっくりと時間をかけて磨いていく。食べカスを取り除いているので、磨き上げる事だけに集中して進めていく。


 二周目で本格的に磨き終えたら、仕上げの三周目に入る。一周目と二周目で磨き残しがあるかもしれないので、万全を期すための三周目である。


 三周目は、一周目二周目と少しだけ磨き方を変えている。スタート位置も逆で、下の歯の左端の奥歯の表側から1本ずつ順番にゆっくりと時間をかけて磨いていき、右端の奥歯まで来ると、そのまま上の歯の右端の奥歯に持っていき、表側を1本ずつ順番にゆっくりと時間をかけて磨く。そして左端の奥歯までくると、三周目の醍醐味である折り返しに入る。上の歯の左端の奥歯から、さっき磨いてきた歯を、進行方向を変えて再度1本ずつ順番にゆっくりと時間をかけて磨いていく。右端の奥歯までやってくると、今度は下の歯の右端の奥歯の表側に移動して、1本ずつ順番にゆっくりと時間をかけて磨いていき、左端の奥歯まで戻ってくると、表側が終了となる。このように三周目はより念入りに磨けるように、折り返しを加えて、表側、噛み合わせ部分、裏側と磨いていくのだ。


 仕上げの三周目が終了すると、仕上げの仕上げだ。本当の仕上げだ。言うならば、ロールプレイングゲームでボスを倒した後に出て来る隠しボスみたいなものだ。仕上げの仕上げは、何にもとらわれる事なく縦横無尽に磨く。これまで規則正しく磨いていたしがらみから解き放され「俺は自由だ」と言わんばかりに磨く。


 そうして歯磨きが終わると、次はデンタルフロスで歯と歯の間を綺麗にして、舌ブラシで舌を磨いて、終わりなのだが、神経質で潔癖症で強迫性障害で不器用なわたしには、もう一つやらなければならない重要な事がある。


 歯ブラシの確認だ。一般的には使い終わった歯ブラシは、さっと水洗いして歯ブラシスタンドにしまって終わりだろう。しかしさっと洗っただけでは、歯ブラシの毛先に絡みついた食べカスが取れていない場合がある。だからわたしは、歯ブラシの毛先を一束ずつ順番にじっくり見ていく。そして毛先に食べカスが付着していたら、爪楊枝を使い取り除くのだ。歯ブラシを爪楊枝するのは、わたしぐらいのものだろう。本当は歯ブラシ用歯ブラシが欲しいぐらいだが、そうなると、歯ブラシ用歯ブラシを磨く歯ブラシも欲しくなり、無限に増え続けてしまうから、結局は爪楊枝が一番だろう。


 多くの人は歯ブラシの毛先などじっくり見ていないと思う。見ていたとしてもサラッと視線を走らせる程度だろう。歯磨きの度に歯ブラシを確認しているわたしの感覚から言えば、月に3度ぐらいは歯ブラシの毛先に食べカスは絡みついている。もしそれを取らずに置いていたら、食べカスのついた歯ブラシで歯を磨く事になる。


 食べカスの絡みついた歯ブラシで磨いたら、食べカスが「ただいま!」と歯に帰ってくるかもしれない。どんな寛大な人間でも「おかえり!」と受け入れられないだろう。せっかく追い出した食べカスが帰ってきて良い事なんて何もない。そりゃその食べカスもまた取り除けば問題ないのかもしれないが、それがまた歯ブラシに絡みつくかもしれないし、そしてまた歯に戻ってくるかもしれない。それでは本当に何をしているか分からない。だからわたしは、必ず歯ブラシを確認するのだ。


 確認が済むと、歯ブラシを歯ブラシスタンドにしまって終わりだ。1度の歯磨きに要する時間は、確認を含めると約30分となる。これを朝と晩の2回するから、歯磨きに1時間使っている事になる。昼はちゃっちゃと液体歯磨きで済ませている。歯磨きに1時間半は使えない。短めの映画じゃあるまいし。それでも歯磨きに1時間だ。やはりわたしは時間の使い方を間違っているのだろうか。


 こうしてわたしは、トップ3に恥じないよう歯を綺麗に保ち続けてきているというわけだ。


トップ3に恥じない歯磨き・おわり

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