雨上がりの匂いと着物の君
季節感が~。
でも書きたかったのズラ。
松本隆(作詞)さんは凄い・・・。
勿論TKさんも。
ふいに降りだした雨、弾まぬ会話に溜息ひとつ。
庭に咲いている紫陽花も濡れている。
時間だけが経つ。
気づけば雨もあがっていた。
少女は愛想笑いを浮かべて席を外した。
青い群青色の振袖を着た井村渚は料亭から出ると、とぼとぼと歩きだした。
水溜まりに映った自分の着物姿を見て思わず苦笑いをする。
(見合いなんて・・・)
小石を右足で蹴ろうとすると、思わず草履が脱げそうになり慌てて足を止めた。
「・・・・・・はあ」
思わず溜息をついた。
渚は高校三年生、両親の熱心な薦めもあり、仕方なく見合いをしている。
相手はよく知っている。
両親の親友の息子、渚もよくお兄ちゃんと懐いていた。
(・・・にしたって)
彼女は鬱蒼とした竹林に目をやる。
(自分の好きな人くらい自分で決められる・・・だって今いるもん)
渚は竹林の中へ身を隠し、現実逃避をしようとした。
「なにしてんの」
偶然通りかかった風に装った大地が声をかける。
加野大地は高校三年生、渚の幼なじみで付き合っている。
「あっ、大地くん」
今一番聞きたい声に彼女は安堵した。
(知っているくせに・・・)
そして、くすりと笑った。
「お見合いの途中」
「そっか」
出来るだけ大地は関心のないそぶりをした。
「親がどうしてもって・・・」
「聞いてる」
大地は渚の戸惑い気味の言葉に即答した。
「・・・うん」
渚は頷いた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
気まずい沈黙の時がしばし流れる。
ふいに渚が大地の正面に立った。
「ねっ、着物どう?」
両手を広げ振袖を見せる。
「どう・・・って」
大地は顔を赤らめ、そっぽを見る。
「あ、大地くん、私の彼氏でしょ。ほらっ、言う事あるでしょ」
彼女は微笑んでいる。
「・・・彼女だったら・・・見合いなんかするなよな」
ぼそっと大地が言った。
「・・・ごめんなさい」
「あああっ、こっちこそ、ごめん、そんなつもりじゃなくて・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
再び沈黙の時。
「あのさっ、それ綺麗だよ」
沈黙は破ったのは、今度は大地。
清水の舞台から飛び降りたぐらいの、気持ちで思いっきって言ってみた。
「へっ?」
不意を突かれ渚は素っ頓狂な声をあげる。
「着物・・・それから渚も」
「ほんとう?」
それまでのしゅんとしていた彼女の顔がぱっと華やぐ。
「もう一回、言って」
真っすぐに彼を見ておねだりする。
「言わないよ」
大地は恥ずかしくて視線をさらす。
「えへへ」
渚は照れ笑いを浮かべると、雨上がりの空に向かって両手を組んで大きく伸びをする。
「う~ん」
雨上がりの蒼天を見ていると気持ちが晴れ晴れとしてくる。
「良かった」
「何が?」
大地はにやりと笑い、意地悪く尋ねた。
「良かった~大地君にこの姿見てもらって、帯なんかぎゅっとしていて、キツいんだから」
渚は思ったよりも正直に答えた。
「そうなの」
「うん、そう」
「そっか・・・」
「大地くん」
渚が右手を差し伸べる。
大地はしっかりとその手を繋いだ。
どちらともなく走りだす。
細い路地を笑顔で駆け抜ける。
雨に濡れたアスファルトの匂い。
潮の匂いがする。
どんどん強くなってくる。
視界が開けるとそこは砂浜。
目の前には雨明けの海。
大地は息を吸い込む。
雨上がりの海の潮の匂いがした。
さざ波の音が聞える。
渚は波打ち際に近づく。
「おい、着物が・・・」
思わず彼は言った。
ふいに強い波が来て、渚の足元を襲う。
「きゃあ」
「言わんこっちゃない」
「あ~あ、大事な着物が」
渚が振り返って笑った。
大地はその顔にどきりとする。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あのさ」
「うん?」
「未来くらい自分で決めたいよね」
「うん」
「私は・・・大地君と」
「・・・俺も」
「嬉しい・・・」
渚の目には涙が溢れる。
「俺の方がもっと嬉しい」
大地は緩む涙腺を右手で擦った。
「ん」
大地は右手を広げ差し出す。
「うん」
渚は左手でその手を繋いだ。
穏やかな海を見つめる。
いつまでも。
波音が心地よい。
互いに伝わる心音。
いつまでも、いつまでも・・・。
後ろの松林の影にて。
渚の父と母が手をとりあって、その姿を見ている。
「いいなあ」
「青春ですわね」
「2人には刺激があった方が・・・な」
「もう、お父さんったら、策士なんだから」
「うふふ」
「ははは」
笑い声が響き合う。
その少し離れた曲がり角にて。
見合い相手の比気立蔵は眩しそうに2人を見た。
「ふっ、おじさん、おばさんも俺にこんな罪なことやらせるなんて・・・でもお兄ちゃんは実はその気がない訳じゃないんだぜ・・・フッ」
彼は自嘲気味に笑った。
それから~。
「ええの~若いって」
「じいさんや~ワシらの若い頃思いだしますなぁ」
渚の祖父、祖母が。
え~と。
「あいつも男になったな」
「ええ、流石、私達の息子」
「・・・どうだい。今日、俺の息子と・・・」
「馬鹿っ、なに言ってんのよ」
ええ顔をする大地父と、頬を染める母。
その~。
新聞部の耳年真人が。
「スクープ、スクープっ、噂のカップル婚前交渉かっ・・・と」
あの~。
2人の親友、間歩真知子と立地謙太は。
「良かったわ渚」
「ああ大地も」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「わたしたちも・・・」
「付き合っちゃう?」
う~。
観光協会会長、閑子一路は、
「よしっ!ここを恋人たちの聖地にしよう」
こうして2人を温かい目で見続ける行列が出来ていたのであった。
ちゃんちゃん
「Kimono beat」を聴いてみてください。
どう感じましたか?。
最後は笑いに・・・走った。