運命の朝
「退け」
その一言で誰一人として動けなくなった。
「退けと言っている」
次の瞬間延びる腕の前で動けなくなった智也の頭が吹き飛ぶ
ドチャっと音を立てて骸が床に落ちる
一人が堪えきれなくなり叫び散らす。ただ声を出すことでこの恐怖から逃れようとするように
また一人狂ったようにわめき散らす
そうして皆一目散に入ってきた扉へと駆け出す。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「どけ!俺が先に!」
「D級は残って戦えよ!!!」
「うるせぇぇぇ!!!雑魚はここで死ねぇ!!」
その中には井上さんの姿も
「井上さん!行ってはダメです!ここから動いたら」
「ごめんなさい!!!でも私もう耐えられません!!!」
しかし
「貴様らは俺の飯だ。喚くな」
あまりに無慈悲に
扉へ駆け出した6人のハンターたちの胴を槍が貫く。口から計7本の腕が出ているその異形に誰一人として立ち向かうことはなく
「もっとだ、もっと魂を寄越せ!!」
この場に残ったのは俺だけ。動かなかったのではない、動けなかったのだ。下半身に力が入らなくなり膝から崩れ落ち膀胱に力が入らず放尿する。目の前の無慈悲にただただ「死」を感じた。
「お前で最後か」
8本目の腕が延び、俺に標準を合わせる。俺は軋む体を奮い立たせ最後の声を振り絞る。
「どうしてだ、どうしていきなりこんなことすんだよぉぉ!!!」
「俺がなにしたって言うんだ!!!」
「俺はここから、生きて生きてぇ…………………………………」
「絶対にいきてぇ……………………………」
俺の胴が串刺しになる。痛みは感じない、いや早すぎて嫌感じられなかったようだ。痛みが来る前に俺の心臓ごと左胸を抉りとった槍は床に突き刺さる。意識が遠退いていく
あぁ死ぬのか俺……………………………………………………
【心臓の停止を確認-----】
【暴食の神による創万鎖の破壊を確認-----】
【肉体の主導権が移りました-----】
【魔心の拍動を開始します-----】
「はぁ!!!!!!!!!」
ここはどこだ、病院?と言うかなぜ生きているんだ………………体は元通りになっている………巨槍で貫かれたはずの胴が何故か傷一つない状態のままだ。どうしてこんなことが………………
まさか今までのは幻か?悪い夢でもみていたのかもしれないいやそうとしか考えられないな。
時間は午前9時半を指して指していた。どうやら一晩中眠っていたようだ
ただ体の震えが止まらない。
いくらこれが幻であったとしても、あの時感じた恐怖は紛うことなき本物。あの時の周りの死の光景が頭にへばりついて離れない。肉体が言うことをきいてくれないみたいだ。
「っ!!め、目が覚めましたか!!!少々お待ちください!」
見回りに来た看護士と目が合い、まるで化け物でもみるかのように一目散に駆けていった。
と言うかなぜ俺は病院にいるんだ?あれが現実でないのならどこからが現実だったんだ?寝不足でぶっ倒れでもしたのか……………確かに最近はあまり寝れてなかったが…………
コンコン
「失礼します。病院長の下里と申します」
「私、ハンター統括支部より参りました。室伏と申します。こちらは部下の灰崎です。」
ドアがノックされたと思ったら、いきなりハンター統括支部の方々がなぜここに?あぁまさか俺、今日………いや昨日か、昨日の召集にいけなかったのか?行く途中でぶっ倒れたのか?
「早速で悪いのですが今回のダンジョンについてわかる範囲でいいので報告をよろしくお願いします。」
「え?あー、えっと……………僕実はダンジョンにいかなかったみたいで、行く途中でぶっ倒れてしまったか何かでダンジョンについてわかることはないんですよね。申し訳ないです。」
「は?…………えーと、いや、貴方は今回のダンジョンでの唯一の生存者でして…………………」
は?え?………………………ど、どういうことだ?まさかあれが現実だとでも言うのか……でもそしたらこの胸に空いたはずの大穴だって残っている………というか俺だって死んだはずなのに、何が起きてるんだ?
「俺以外全員死んだ?…………」
「はい」
「そんなはずっ!!………E級ハンターの井上真澄さんも………」
「彼女も死亡者リストに記載がありました」
「そう……ですか……」
………………………
「ハンター統括支部の方々、只今彼には記憶の解離状態が見受けられます。よほどのストレスを負っていたのでしょう。外傷は見られないので、心的治療がある程度進み記憶が戻り次第おこしください。」
「そうします、本日は失礼しました。お大事になさってください。ではまた後日」
バタンとドアが閉められた
「本日は目覚めたばかりでお疲れでしょう。ひとまずは回復に専念しましょう。」
「わかりました。ありがとうございます」
そうして俺は考えるのをやめた。
ひとまず寝よう、今は何も考えたくない。