月夜に見た夢は、理想そのものでした
初めての投稿です。
誤字脱字がないように気をつけてますが、もしありましたら、申し訳ありません。
創作意欲が昂ぶって、勢いでかきあげたので、展開に無理が多少あると思います。
小心者なので、コメントはお控えいただけると幸いです。
こんな拙い文章ですが、楽しんで見てもらえると嬉しいです。
よろしくお願いします。
《起》
今日は私の誕生日なのに、3年付き合った彼氏から振られた。
理由は、私に飽きたから。
なんじゃそりゃ。
繁忙期が来てしまって、なかなか会えなかったのは認めるよ。
でも、誕生日くらい休めるように仕事を調整してたし、会えない分、一日に一回は連絡を取るようにしてた。お互いに仕事があるから、しょうがないじゃん。彼の誕生日だって、ちゃんとプレゼント用意して、食事も朝から準備して、彼の好きな料理を机にいっぱい用意して、あんたも喜んでたでしょ。次の私の誕生日には期待して待っててねって笑ってくれたじゃない。
なんだよ。職場に可愛い後輩ができたからって、捨てるなよ。
はぁ。ツイてない。
悲しくて、行きつけのバーでマスターに愚痴った。
マスターが私の好きな「Fly Me To The Moon」を作ってくれたので、思う存分堪能してやった。
そのまま気分良く、外をフラフラ歩いて、家の近くの公園にたどり着いた。大きくもない、目立った遊具もない公園だけど、ブランコに乗りたくなった。夜の公園って、昼の公園とは違って、何か不気味な雰囲気があるから好きじゃないけど、今日は立ち寄ってしまった。
住宅街にぽつんとある公園で、見通しが良いので、まぁ良いか。
ガチャン
ギーコ、ギーコ
今日は満月だ。良い月夜ですね。
今までは相槌を返してくれる人がいたのにね。
今の私は一人ですよ。
あぁぁぁ。
もっと素敵な彼氏を見つけて、見返してやる。
いつもよりちょっぴり大きくて、輝く月を見れば、信心深い私ではないけど、願いが叶うように自棄糞気味に願掛けしてみた。
《承》
トントン、トン
カチャッ、ボッ
朝、目が覚めると、良い匂いがする。
お母さん、私の朝ごはん作ってくれたのかな。
昨日は散々だったし、今日は土曜日だし、遊びまくるかな。
誰か友達に連絡してお茶とか、観たかった映画も上映中だから観に行くのも良いかも。折角、誕生日に備えて休みを空けたんだから、目一杯楽しんでやる。
悲しんでる場合じゃない。
コンコンッ
あれ、お母さんってノックしてくれたっけ。
え、誰ですか?
なんで、笑顔で挨拶してるの?
ご飯できたよって、知らないんだけど、あなたのこと。
ん?
旦那?
旦那って、私は未婚でしょ?
笑って、寝ぼけてるのって聞かないでよ。
いやいや、何いってんの、この人。
あっ。でもお腹空いてきた。
朝ごはんできてるの?食べていいの?
ご飯食べてようかな。
知らないリビングなのに、どこに何があるのかわかってる自分がいる。
リビングのテレビの横には結婚式の写真がある。
そういえば、結婚してたっけ。
そんな気もするような。
誕生日だからデートに行くって言ってる。
結婚したのに、デートとかあるの?
映画には、ポップコーンがないと嫌な私を知ってる。
本屋で欲しかった専門書を選ぶのに時間がかかっても、怒られない。
歩きながら、少し目に留まったクレープをわざわざ確認して買ってくれる。
夕食は何を食べたいのか、聞いてくれる。
私がきちんと言葉にするまで、ちゃんと待っててくれる。
夢みたいな、憧れのデートが繰り広げられる。
昨日のやさぐれた私は、気づけばいなくなっていた。
幸せな誕生日の終わりには、溢れんばかりの彼からの愛情を注いだ言葉の数々。
言葉の一つ一つに、どれだけ私を愛しているのかが分かるほどの情熱を乗せて囁く。
「君と出会えて良かった。」
「来年も、その後もずっと、隣で君の誕生日を祝い続けさせてね。」
夢のような日々が過ぎる。
忙しい職場は何も変わらない。
旦那と呼ばれる彼以外の友人関係も記憶も何も変わらない。
彼のことだけが記憶にない。
でも、言われると思い出す。そんな事もあったと。
あの日、公園のブランコで願掛けした私は誰なんだろう。
夢なら覚めてほしくない。
今が幸せであるほど、あの時が怖くなる。
もう、あんな私に戻りたくない。
手放せない。
月が見せる夢は、なんて甘美なんだろうか。
《転》
目が覚めた。
私がいる。
あの日、泣いていた私だ。
こっちに近づいている。何か喋っている。
来るな。
私はこっちに居たい。
戻りたくない。
もう一度目が覚めた。
今度はベッドの上だった。
隣には、彼がいる。
まだ朝日は差していない。まだ夜明け前。
あの満月の日から2週間が経った。
夢の終わりが近づいているのかもしれない。
そんなもの、認められない。
私は、この生活が欲しい。
誰にも譲れない。
例え「私」が他に居るのだとしても、それは譲れない。
だって、この生活を味わってしまえば、前の私には戻れない。
「私」が今どうしているのか、わからない。
もしかしたら、あの日の私と入れ替わっているのかもしれない。
私がここに居るのだから、代わりに私になっていてもおかしくない。
こんな非現実的なことが起こるなんて、思いもしなかった。
ずるい。
ずるい、ずるい、ずるい。
私も欲しい。
私に、この人生を寄越せ。
あぁ、こんな私を知りたくなかった。
どうしてくれるんだ。
こんな欲深い私を知りたくなかった。
周りの要望を叶え続けて、自分のことを後回しにしていた私。
いつの間にか、自分を見失ってしまった、私。
「私」は彼のおかげで自分を見つけていた。
素直に、自分が求めている事を表すことできる。
とても気持ちが良い。
そのおかげで、私はこの人生を手放せなくなってしまった。
欲しいと思ってしまった。
どうしたら良いんだ。
あの恐ろしい満月が来る。
《結》
最後の夜。
彼が元気のない私に話しかける。
後ろから抱きしめながら、耳に心地よい声で私に聞いてくる。
「何をそんなに不安に思っているの?」
彼の声を聞くと、心に正直になりたくなってしまう。
いつでも、私を受け止めてくれる彼に、全てを預けてしまいたい。
そんな気持ちにさせてくれる。
ポツリ、ポツリと話す私の話を最後まで聞いてくれる彼。
支離滅裂な話を最後まで、聞いてくれる。
私の汚い欲望もすべて詳らかに話してしまう。
この人生を捨てられない。
もう、あの頃の私に戻りたくない。
このまま、あなたと一緒に居たい。
彼は黙ったまま。
言わなければ良かった。
どうしよう。
彼に呆れられてしまった。
時間を巻き戻したい。
「まず、俺が君を愛しているのは、絶対に変わらない。」
「「私」じゃないと君は言うけど、「私」は君がここに居る事を知っていたよ。」
彼は、少しずつ話し始める。
「私」は以前から、こんな日が来るかもしれないと話していたと。
もう一人の私を夢で見るのだと。
夢の私は、もう一つの「私」の人生だ。
「私」が歩んでいたかもしれない私。
いつか、私が今の「私」の人生を体験するような日が来れば、きっともう戻りたくないって思うだろうね。
だって、「私」もそう思うから。
しょうがないよね。
「私」と変わらないはずの私は、最後の日までとことん悩み続けるよ。
どうしたら良いのかって。
でも、答えは出なくて、貴方に心配をかけるのよ。
笑いながら「私」は話していたそうだ。
どんな感性で生きてるんだろう、この「私」は。
そんな「私」を思い出して、笑う彼の顔は、私に見せた笑顔より、もっと柔らかった。
愛しくて、しょうがないという顔だ。
初めて、彼が私を「私」ではないと認識していたことを知った。
そんな顔を私に向けたことは一度もなかった。
思い返せば、私を見る彼の顔は、親のような暖かい眼差しだった。
優しく見守ってくれていたのだ。
「君は昔の「私」にそっくりだ。」
「まだ、素直になれなかった頃の「私」そのものだった。」
「だから、「私」と同じように、君のしたいを聞き出していたよ。」
「君は、「私」と違うというけど、君と「私」は同じだよ。」
「ただ、君のほうが少し素直じゃないだけ。」
初めてだった。
不思議な気分だった。
だって、「私」と全く違うと思っていたのに、同じだった。
ちょっぴり、私より彼のおかげで素直になれていただけだった。
あぁ、帰ろうかな。
さっきまであんなに執着していた気持ちが、今は思い出せない。
この場所は、「私」の選んだ結果の人生だ。
私の選んだ人生には、まだ「彼」がいない。
探しに行かなければ。
きっと、私を待っていてくれるはずだから。
私は「彼」を探して、「彼」と幸せを紡ぎたい。
「私」が幸せを受け入れているのなら、私の幸せだってどこかに必ずあるはずなのだから。
「君が頑張れるように、今日はずっと抱きしめたまま眠ろうか。」
「大丈夫。君は「私」と同じだから、きっと見つけられるよ。」
あぁ。ごめんなさい。
こんな夢みたいな時間を過ごさせてくれて、ありがとう。
きっと目が覚めれば、私の明日が始まる。
この夢のおかげで、以前より素直な私になって、貴方を見つけられる。
「おやすみなさい、また明日」
夢を見た。
「私」が彼におはようを言っている。
彼は愛おしそうにおはようを返す。
彼に向かって、「私」は誇らしげに話しをしている。
「夢の私は、いい子だったでしょ?」
二人笑い合う姿に、いつもの毎日がまた始まる。
長いようで、短かった夢。
パチン。
満月のようなシャボン玉の、夢の弾けた音が聞こえる。
最後まで、ありがとうございました。
読んで下さった皆様に、それぞれの幸せが訪れますように。