その6:スコットランドに向かう列車
「その通りだよ。確かに、ここから見えるものは、すべて繋がっている」
一昨年の夏、スコットランドに向かう列車の中でのへンリーとの会話が想い出される。
「……と言うよりも、事も、物も、互いに影響を及ばし合うことで、それぞれがそれぞれに関係を持つことで、みんな姿を現すんだ」
そうか、あの薄い紫は、あの時、私が飲んでいたワインと同じ色なのだ。
「それは、君の、そのサマーセーターみたいなものだ」
そう。あの時、あの人は一滴も飲んではいなかった。
「そのセーターの一本の糸は、それ自体では、どこにも存在していない」
だから、あの時の彼の話も、きっと本当のことを話していたのだろう。
「しているわよ?」
そう言ってセーターの裾を広げながら、私は彼をからかった。
「確かに。さらに微小な糸や、糸を構成する物たちの関係性の中で、その糸は姿を現している」
それは糸が存在することと、どう違うの?
「それと同じように。その糸が、また別の糸や、別の糸を構成する物たちと互いに作用し合う中で、サマーセーターと云う場所を創り出している」
別の糸があるから、この糸があるってこと?
「そして、これは、空間にも……もっと言うと、実は時間にも、同じことが言える」
別の空間や時間があるから、今のこの空間や時間もある???
「そう。最小の空間・時間はあるが、空間・時間の最小単位はない。それは、それぞれの空間が、互いに影響を及ぼし合うことで形作られて、それぞれに立ち上がってくる」
ここまで話すとヘンリーは、食べ残してあったパイの最後の一欠けらを――私に断りもせず――一気に平らげた。
エジンバラに住む私の両親に会うことが相当のストレスであったことは認めるけれど、その後のアレもあまりにも唐突だった。だって、普通は、パイを口いっぱいに詰め込んだままやることじゃないもの。
そう。彼は、不意に片膝を突くと、それから私の手を取って、「エディス・エイミー・ストーン」と言ってくれた。
そうして、確かに世界は、ヘンリーの言い分どおり、関係性の中にあるのかも知れない。だって、相手の名前を呼んだだけで成功するプロポーズだってあるんですもの。