その18:オックスフォード駅
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――パッパラ、パッパラ。
――パッパラ、パッパラ。
――パッパラ、パッパラ。
――パッパラ、パッパラ。――
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オックスフォード駅の構内はいつもの倍は混んでいて、未だ夢見心地の彼女の横を六人姉妹とその母親が騒がしく通り過ぎて行った。
改札の向こう側ではヘンリーの双子の叔母が彼女を見付け、「こちらにおいで」と、手を振ってくれている。
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「あなたにも電話があって?」
と、叔母の一人・メレディスが訊いた。
「誰からですか?」
と、二人の叔母を見比べながらエディスが逆に質問した。《――こちらがメレディスよね?》「誰って、ヘンリーからよ――」
そう、もう一人の叔母が答えた。《――と云うことは、こちらがユニスよね?》
「でも、あの人、今、空の上ですよ――」
そう言いながらエディスは、鞄の奥に入れっぱなしにしておいた携帯電話を取り出してみた。が、やはり、どこからもメールも着信も届いてはいない。《――しかし、叔母さんは二人だったかしら?》
「変な話よね。私のほうにも来ていないし、メレディスにだけ。――」
と、ユニスが言うと、
「まさか、飛行機でなにかあったのかも――」
と、メレディスが続けた。
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その時、突如、駅の構内に、一羽のツバメが飛び込んできて、エディスの左手側をすり抜けていくと、大きく円を描き、また来た方角へと戻って行った。
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「大丈夫ですよ――」
と、ツバメの行き先を確かめるまでもなくエディスは言った。
「あの人なら、必ず、無事に戻って来ますから――」
「確かに、」と、叔母の一人《――多分、こっちがメレディス》は笑って言った。
「そうあなたが想ってくれるのが、一番の方法だわ――」
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――パッパラ、パッパラ。
――パッパラ、パッパラ。
――パッパラ、パッパラ。
――パッパラ、パッパラ。――
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遠くで、六人姉妹が歌っていた。
その歌に合わせるように《――多分、とてもリズミカルに》メレディスが駐車場の方へと歩き出した。
そうして二人――エディスとユニスは、いつも二人がしているようなおしゃべりをしながら、バス停の方へと向かって行った。
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――パッパラ、パッパラ。
――パッパラ、パッパラ。
――パッパラ、パッパラ。
――パッパラ、パッパラ。――
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駐車場の方から、七人姉妹の歌が聞こえて来た。
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