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オックスフォードへ  作者: 樫山泰士
13/21

その13:月がもっと近かった昔

「僕の中では、同じ話をしているつもりだったんだ」

 と、公園で買ったアイスクリーム――多分、ブルーベリー味だったと思う――を私に渡しながらヘンリーが弁解を始める。

「お父さんも、お母さんも、『人は皆んな、互いに影響し合っている』ってことを話してくれたんだと思っていたんだ」

 両親との会食の翌日、近くの公園まで散歩に行ったときのこと――だっただろうか?

 それとも、ロンドンに戻って来てからのことだったろうか?――遠くの方にロンドン・アイが見えていたような気もする。

「月がもっと近かった昔は――」と、ヘンリーは言う。短く刈った銀髪に太陽の光が当たっている。「一日の長さはもっと短かったし、一月の長さも短かった」

 まるで、それを自分で見て来たかのように彼は言う。「一年は365日じゃなかったし、遠い将来、一日と一月の長さは一緒になるかも知れない――」素直に、正直に、でも時々、私の考えていることの少し斜め上か下に行ってしまう。

 そんな彼が、とても愛しく想える。

「でも、結局は」と、私は返す。「『卵が先か?ニワトリが先か?』みたいな話なんでしょう?」困った時の彼の顔もカワイクて、私は、ついついイジワルを言いたくなってしまう。

「来るときに、列車の中で話したことと同じだよ――」と、ヘンリー。そんな私のイジワルが分かっているのか分かっていないのか、彼はいつでも。真摯に、真剣に、答えてみようと試みてくれる。

「事も、物も、互いに影響を及ばし合うことで、それぞれがそれぞれに関係を持つことで、みんな姿を現すんだ」そう話す彼の瞳は青くて、とてもキレイだ。

「それは、事や物だけじゃなく、空間そのもの、時間そのものも同じで、すべては独りでは存在すら出来ないんだ」

 彼の言葉は時々まったく分からなくなるけれど、本当のことを言っているかどうかだけは分かる――ような気がする。でも、だからと言って私には、それが本当に何を意味しているかまではどうしても分からない。だから、ついつい、イジワルみたいなことを言ってしまう。

「でも、結局、それって――」

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