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Power of sunny

作者: 里なるみ
掲載日:2020/06/09

昨年は140㎝後半だった彼の身長も150㎝前半へと急激に伸びた。

中川壮馬君は気がつくと私を見ている。足から膝、膝から腰と観察するように見る。胸元までくるとさっと逸らし、首や肩になると再び熱視線を送る。

14歳。165㎝。中2にしては少し大きめな身長。高校生に混ざれば馴染むこの体も成長期真っ盛りの女子中学生の中に混ざれば、うまく溶け込むことができない。要するにコンプレックスなのだ。身長も嫌だが、他にも嫌なものがある。彼は私の顔もよく見るのだ。日差しでやられたこのボロボロになった顔を。観察するようなあの視線にただでさえ戸惑いを感じているのに顔まで眺められたら溜まった者ではない。我慢がならなくて、ちらりと見ると目があった。バツが悪そうな顔をして、小さくちぇっと呟いて去っていくのだ。身長を気にする彼にとってきっと私は敵なのだろう。見られる事は嫌だけれども、嫌われているのならば仕方がない。好きも嫌いも意識していれば、人は勝手に見てしまうものだから。そう思っていたら、三日後告白された。返事は保留にした。

両親が海外に行っている間海の家を経営するおじさんの家に居候している。海の家にはサーフボードが置いてある。だから早い時期からサーファーがきた。夏が来れば店も忙しくなった。おじさんには二十歳になる娘がいるが、家を継がずに上京してしまったから、機嫌が悪い。そしておじさんと私は互いにあまり好いていない。二つのことが重なり、学校外の時間は店が閉店するまで無理矢理手伝わされた。

 手伝うのは嫌だった。夏の砂浜は熱を吸収しやすい。上からの光と、体にまとわりつく熱気により毛穴は広がり、吹き出物ができ始めた。日焼け止めクリームや乳液剤などできることはしているが、この家の誰よりも光を浴びている私には気休めにしかならない。この街に来て初めてニキビができた。返事を保留にしておいて良かったとつくづく思った。

 中川壮馬君の家は居酒屋兼漬物屋をしている。お祖父さんの手伝いで始めたものの今では畑を分けてもらい自分専用の漬物を作るほどである。私の店でもビールのつまみとして人気の漬物だ。彼がよく届けてくれる。毎日漬物を食べている彼の顔は女子のように潤い、毛穴の広がりすらない。彼の顔を羨ましく思っていた。

告白の返事を聞かせてくれと言ってきた彼に、私じゃ壮馬君に釣り合わないよとだけ返せば、海の家まで押しかけてきた。身長ならこれから伸びるから関係ねえと大声で公然告白するので、人気のない場所に彼を連れていく。帰る気配がなく、渋々私と彼の肌を比べて劣等感を感じてしまうことを説明する。あっけらかんとした態度で漬物をやるから治ったら付き合おうと言われ、おじさんのことも話す。

 般若のような顔をして説得をしに行った彼を追いかけると、おじさんの背中にしがみついていた。大柄なおじさんは涼しい顔でいる。彼は両手を天高く挙げ、そしておじさんの顔めがけて振り下ろした。彼の手は漬物の触りすぎで、洗っても塩が落ちきらない。町では有名な話である。海の家のおじさんは日焼けのしすぎで皮が捲れ上がっている。これも有名な話である。焼けた肌に塩が直に触れ、ひりひりとした痛みがあるのだろう。心なしかおじさんの瞳が潤んでいる。おじさんは少しおとなしくなった。おじさんはあの公然告白を聞いていたから、また壮馬君に痛い目に会いたくないのだろう。

 この後、彼にお礼を言いつつ、告白の返事をした。壮馬君の漬物を食べて、ニキビを治したら付き合って欲しいと言ったらまさかの衝撃事実を聞いた。それは漬物を毎食かかさず食べるが、それ以外に2万もするイギリスの保湿クリームを使っていることが一番の要因らしい。漬物だけを食べていた頃は、時たま肌が荒れていたらしい。けれどクリームを使い始めた所肌荒れ一つしなくなったらしい。

 私にはイギリスのクリームを買うほどのお金はない。彼が持ってきてくれる漬物だけで治すしかない。彼と付き合えるのは当分先かもしれない。


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