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魔女の暇つぶし  作者: 汐 ユウ
1年生編5月
7/53

◆生徒会書記に立候補致します!

「わざわざ放課後に呼び出して何? 話があるなら家に帰ってからでよくない?」


「いえ、それでは侑希がいないでしょう?」


 涼子に呼び出され、放課後の印刷室に来た。侑希が一緒にいるのは、いつものことであるから違和感をおぼえていなかったがなぜかいる。


「侑希ちゃんも呼び出されちゃったの?」


「うん」


「そんなに身構えなくてもいいですわ。取って食おうとかではありません」


「涼子ならやりかねない」


 海は侑希を隠すように前に出るが、残念ながら侑希の方が背が高い。


「私を何だと思っているんです。あなたよりは穏やかな性格をしてますわよ」


 わざとらしくため息をついてから、「さて」と前置きをし、涼子は後ろから箱のようなものを取り出した。よく見ると箱ではなく、A4用紙の束だ。


「何これ」


「あなたは日本語読めないんですの? 国語の勉強しておかないと中間テストで痛い目にあいますわよ」


「涼子ちゃん、生徒会に立候補するの!?」


 いつの間にか前衛に出てきた侑希が、プリントの一枚を手に取る。


「さすが侑希は話が早いですわ」


「うるせぇ! んで、生徒会って何するとこなわけ?」


「外国に生徒会ってないの?」


「カイが世間知らずなお嬢様なだけです。生徒会とは、生徒の会と読んだまま生徒によって構成される学校の運営委員会みたいなものですわ」


「つまり文化祭実行委員会の学校全体版?」


「そんなところですわ」


「委員会はクラス内で好きな方法で決めていいけど、生徒会は生徒の代表となる人たちだから選挙で決めるんだよ」


「選挙……あの多数決制度ね。それに出るから票をせがむポスターってことか」


「言い方をもう少し考えてくださる? きちんと公約を掲げて理解をもらった上で投票をしてもらうんですすのよ」


「そっか。頑張れ」


「本当に鈍いですわね、あなた」


「は?」


「涼子ちゃんはわたしたちに選挙活動を手伝ってほしいんじゃないかな」


「え、なんで?」


「お二人は帰宅部と美術部でしょう。加えて文化祭実行委員会が本格的に活動を始めるのは生徒会選挙の後」


「暇なやつなら他にもいるだろ」


「頼りになるお友達にお願いしたいんですわ」


「わたしはいいよ。具体的に何をすればいいのかは分かってないけど……」


「ありがとうございますわ、侑希!」


 友達関係なく彼女なら笑顔で了承するのだろうが面白くない。


「まぁ侑希が手伝ってくれるなら、世間知らずなお嬢様はいなくてもかまいませんが」


「やらないなんて言ってないだろ!」


「単純ですわね。言質いただきましたわ」


「うみちゃん、また一緒だね」


 涼子の勝ち誇った顔も、純粋な笑顔を見れば霞んで見える。


「よかったですわ。大事なのは認知ですから、見た目が派手なカイと可愛らしい侑希がいれば当選間違いなしですわね」


「おま、友達云々とか言って見た目じゃん!」


「では、手分けしてポスターを校内に貼りに行きましょう。……場所は侑希に伝えますから、カイは荷物持ちでもしていてちょうだい」


「ほんとに私の見た目しか必要ないんだな」


  ◆  ◆  ◆


「なんかごめんね」


 階段の踊り場の壁に設けられたポスター設置スペースに軽々と腕を伸ばす少女に、海が代理で謝る。


「なんで謝るの? あとこれ傾いてない?」


「涼子の面倒に巻き込んじゃったから。うーん、もう少し右が下……そのくらい」


「それならうみちゃんだってとんだ巻き込まれ事故でしょう? わたしは気にしてないから大丈夫だよ。むしろ生徒会に関わるなんて考えてなかったから嬉しいよ。次行こ」


 日本人の平均身長に足りなければ、ポスター一つ貼るのにも椅子を持ち運ばなければならない。お互い百六十を超える身長には感謝したい。


「涼子ちゃんって手際いいよね。全部貼り出しの許可ももらってるみたいだし、ポスターもクオリティ高くて」


 それはもちろん前回もこの学校で三年間生徒をやっているから。


――もしかして髪色変えたのもこれか。


 涼子のことだから、おそらく早い段階からポスター含め準備をしていたに違いない。今回の学校生活、彼女の主軸は生徒会活動なのだろう。


 人間が基本的に一度しか体験できないことを何度も納得いくまでできる魔女をうらやましいと思うか、それともそこまでしないと退屈がしのげない魔女を哀れと思うか。

 でも人間には人間の楽しみ方があるのだからこそ、侑希は何事も率先してやろうとするのかもしれない。


「侑希ってこんな雑用ばかりでも辛くないの?」


「辛くないよ。友達が頑張るために頑張るのは面白いかな」


「優しいね」


「うみちゃんはそればかりだね。別にわたしが特別優しいわけじゃないよ」


「えー、優しいよ」


「涼子ちゃんだってうみちゃんのこと支えてくれてるでしょ? うみちゃんだって、わたしが委員会誘ったら快く引き受けてくれたし、みんな優しいと思うな」


 不純な動機とは言えなかった。

 また、海と涼子はあくまでも協力関係なだけであり、魔女が人間に優しく接しているのは学校という人間のテリトリー内にいたいからである。侑希の言う人の優しさは違う次元の話だ。


「……私は侑希ちゃんに、楽しく三年を過ごしてもらえればいいな」


「あはは。なにそれ。うみちゃんも一緒に楽しく過ごそうよ」


――楽しいよ。全然乗り気じゃなかった人間界での生活。楽しいよ。


  ◆  ◆  ◆


 貼り紙とその他書類関係の雑用でもさせられるのかと軽く思っていた海だが、海の外見を存分に活用させられる仕事があった。

 毎朝登校時間のビラ配りだ。涼子は他にクラスメートを引き連れて演説を行うようで、そちらはそちらで十分インパクトがある。涼子自身も髪染めをしたって目立つ美人だ。


「よろしくお願いします〜」


 朝早い侑希の笑顔はいつもより曇り気が多い。


「わたし低血圧だから朝は苦手なんだ……」


「それなら本当に無理しなきゃいいのに」


「代わりにうみちゃんが笑顔で頑張って〜」


 空いている右手で強めに海の左頬を引っ張り上げる。


「いだだだ!」


 力加減のできてなさに、思わず無理矢理ひんやりした手を引き離した。


「笑顔どころじゃないわ!」


「あはは、ごめんごめん」


 しかし、チラシを配るために笑顔など難しい。それに女子生徒は喜んで受け取りに来てくれるが、男子生徒からの距離は遠い。


「うちの男の子たちは大人しいのよね」


「うわ、びっくりした」


 突然現れたのは、生徒よりも出勤の遅い瀬川藍子教諭。出勤時からジャージ姿らしい。絵の具のついたエプロンはしていない。


「うちのクラスからは立候補者いなかったけど、吉川さんの手伝いなの」


 まだ少し眠たそうな侑希から、チラシをもらい目を通す。


「生徒会って面白いのかしらね?」


 海と藍子の視線が絡まる。


「そんなこと私に聞かれても困ります」


「そうね。じゃ、ホームルームに遅刻しないよう頑張ってちょうだい」


 藍子が担任になってから一ヶ月。あまり教師としての熱意がないのか、生徒の自主性を信じているのかは分からないが、あまり藍子との接点がない。ホームルームも最低限の連絡事項だけで、侑希によれば部活もあまり顔を出さないらしい。週一回の活動で来なければいつ来るのだろうか。


「カイ、侑希、どのくらい捌けました?」


「わたしはこのくらい」


「こんなもんかな」


 海自身分かっていたことだが、素性の分からない見た目外国人より同郷の日本人の方が近づきやすいらしい。


「明日もよろしくお願いしますね」


「えぇ、これ選挙まで毎日やんの?」


 侑希なんて早起きのせいでまだふらふらしている。


「選挙までではなく、テスト週間に入るまでとテストが空けてからの期間ですわね。開けてからすぐ生徒会選挙ですけれど」


「テスト期間って何するの」


「テストのために勉強に集中的に励む期間で、部活動も基本的に休止となるんですの。東高では、中間テストも期末テストも四日間で更に手前一週間は活動休止期間ですわ」


「毎日授業聞いて、ちゃんと振り返りをすればそんなに期間いらなくない?」


「あなたみたいのをガリ勉と言うのですわ。まぁ、カイも委員会が忙しくれば周りの気持ちも分かるでしょう。……そろそろホームルーム始まりますから戻りましょう」


 五分前の予鈴が鳴る。


「侑希ちゃん、いい加減しっかりして。早く行くよ」


 海から手を引いたのは、今日が初めてのことかもしれない。

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