◆美術部って何をしているの?
部活動に参加する気もなく、結局帰宅部を選択した海には関係のない行事――部活動紹介が開催されることを、先日の侑希の言動で思い出した。主催は生徒会が担っているため、涼子に軽い気持ちで聞いた結果、こうして体育館に海もつれてこられたわけである。
ただし、生徒会の手伝いをするわけでも、美術部の助っ人をするわけでもないので、キャットウォークから眺めるだけだ。
――美術部終わったら帰ろう。
まだ制服を着慣れていない中学上がりの子供たちは、手元にある手作り感満載のパンフレットを見ながらおしゃべりをしているようだった。
開始時間を迎えると、一学年担当の大柄な男性教諭の怒鳴り声でステージに意識が集まる。涼子曰く、
「一時期は早く部活を始めたい運動部を優先していた時期もありますが、もちろんそんなことをすれば叩かれるご時世です。順番はあみだくじで決めますわ」
東高等学校では、運動部であれば男子バスケットボール部が人気らしい。こちらも涼子曰く辛口に「うちのサッカー部はチャラチャラした輩ばかりで、世間一般のイメージよりも人気はありません。正直運動部ならバスケ部というだけで、あまり女子がキャーキャー言うところはないかもしれません」
そんな話を聞かされた後、紹介の一番手はサッカー部だった。体操服ではないジャージ姿は、おそらく彼らのユニフォームだろう。
「あなたが見学すると言った時は驚きましたわ」
涼子の気配が現れたことは分かっていたので驚かなかった。キャットロードの柵に上半身を預けている海は、振り返ることもなく口を開く。
「仕事はどうした。これも生徒会主催でやってるんじゃないの」
「始まってしまえば会長とタイムキーパー以外、基本仕事はありませんわ。トラブルが起きない限りは」
生徒会長である小平藤一郎は、普段はバスケ部の方にかまけてあまり生徒会の仕事をしないと聞いていたが、こうして舞台の上に立ち、マイクを握り堂々と司会をこなしている姿は出来る男だった。
「ちなみにバスケ部が人気なのは、会長がいるからですわ」
「あんなん人気なの?」
「そんな言い方したら牧瀬先輩が可哀相でしょう」
「牧瀬って……あの文化祭実行委員の?」
「ほら、次美術部ですわ」
牧瀬と小平が一緒にいるところは何度も見たことがあるものの、二人の仲を海は知らない。涼子の言い方から察するに恋人同士なのかもしれない。
「私たち美術部は――」
部活代表として話しているのは、緑色の上履きからして三年生だろう。
「侑希ちゃんが持っている絵って、侑希ちゃんが描いたやつかな?」
「さぁ。普通は自分の作品を持つでしょうけど」
海も涼子も人間の視力という概念はなく、体育館の端から端くらいの距離であれば小さなキャンパスの絵も見えるが、人間はそうもいかない。そのため部員の絵は順次、スクリーンに映し出され、「水彩画が~」「油絵が~」と説明をしている。卓球部は先程漫才のようなことをやっていたが、美術部は終始真面目な紹介をしていた。
「顧問の先生は綺麗で優しい人ですだってよ。言わされたのかな」
「言わされたんじゃありません? もしくは持ち上げて顧問を部活に参加させようとしているのか……」
「あいつ何で本当先生なんかしてるんだよ」
「趣味に全力をかける方ですからね」
「巻き込まれた人間に同情する。……それじゃあ私は先に帰るわ」
「ここまで来たなら最後まで見てもいいんじゃありません?」
「部活に興味ないから」
侑希が出ているからわざわざ見る必要のないものに足を運んだのだ。彼女の出番が終われば、この場に残る必要はない。
「それにしても」
立ち去ろうとする海を、涼子の言葉が留める。
「上から見るとあの子はさらに目立ちますわね」
「ん……」
群衆に視線を向ける。
「あぁ、あのピンクね。普通にあそこにいるってことは問題ないんだろ」
「今のところは変なところは髪だけですわね」
「ならどうでもいい」
「どうでもいいと言っても、あなたとは関わることになると思いますけど?」
「何でよ。一年生なんか知らないよ」
「多分、あの少女も生徒会に入るみたいですし、なにより侑希の後輩ですから」
文化祭の時の不愛想な態度を思い出す。お互いに派手な見た目をしていて、お互いに人見知りであったため、思うところは同じだろうが、海には自覚がない。
「とにかく私は帰るから。なにかあるならよろしく」




