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魔女の暇つぶし  作者: 汐 ユウ
1年生編4月
3/53

◆帰宅部も立派な部活動です

 入学前にしっかりと学校のことについて調べていた侑希によると、東高は文武両道を掲げており、部活動への加入率が高い。


 部も新入生を確保するために躍起となり、入学式以降毎朝ビラが配られている。そして本日は、体育館に一年生が集められ、一つ一つ部活動の紹介が行われる。


「運動部って元気だね」


 男女分けた出席番号順では、侑希の次に海がくる。体育館でも隣同士だ。


「わたしは運動音痴だから、あんなに動けるの羨ましいな。うみちゃんは部活決めた?」


「ううん。あまり入りたいところなくって」


「そうなの? 中学は何部入ってたの?」


 その答えは用意していなかった。海の背中に冷や汗が垂れてくる。


「中学も……なにも」


「帰宅部なんだ」


「そう、帰宅部」


――帰宅部ってのがあるなら、それでいいな。帰るだけだし。


「うみちゃん、部活やらないならわたしと一緒に委員会やろうよ」


「委員会? 部活動みたいなもの?」


「近いかな。時期にはよるけど、運動部よりは忙しくないよ。一人だとちょっと不安だったから、うみちゃんが一緒だと嬉しいな」


「侑希ちゃんでも不安になるの?」


「そりゃなるよ。同じ中学の子、クラスにいないし」


 すでにクラス内では付き合いができかかっていて、ここで侑希との関係をないがしろにするのはよくない。暇つぶしと言えども、せっかくなら学校生活を経験するべきだ。


「侑希ちゃんは部活どうするの?」


「わたしは美術部にしようかなって思っているよ」


「中学生の時も美術部だったの?」


「ううん、吹部だよ」


 海はひたすら「すいぶ」という言葉を反芻する。


――「すい」から始まるものと言ったら……。


 吹奏楽部と水泳部に覚えがある。侑希が運動は苦手と言っていたことを考えると、答えは前者だろうと推測する。


「吹奏楽って言っても呼び名だけで、実質ただの音楽部だけどね」


「楽器やってたの?」


「うん。バイオリンを三年間だけ」


「続けないの?」


「この学校の吹部ってすごくレベル高いから。それに絵描くことも好きなの。顧問の先生も優しそうだからちょうどいいかなって」


 顧問は担任の瀬川藍子だ。


「なーに、美術部入部希望なのかしら?」


 突然左側の何もない空間から声が降ってきた。

 茶色い柔らかい髪が海の頬を触る。入学式の時はしっかりスーツを身に着けていた女性は、翌日以降はジャージにエプロンという機能性を重視した恰好になっていた。


「わたし美術部志望です」


「えっと、あなたは宮本さんね。ぜひ待っているわ。若宮さんは?」


「私は部活はいいかな」


――近い。


「そう。残念。あとあなたたち、おしゃべりはいいけどもう少し先輩たちを見てあげなさいね」


 どうやらお叱りだったようだ。侑希が形だけ「気をつけます~」と返す。


「若宮さん」


「私?」


 何か目をつけられるようなことをしただろうか。海なりに侑希や周りを見て、行動を合わせているつもりだ。


「そう、お人形さんみたいなあなた。確か帰国子女だったのよね」


 確かそんな設定だったような気がしなくもない。帰国子女でハーフ、日本の文化に疎いという設定にすると先月言われた。


「随分と文化が違うでしょ? 私のことも頼ってね。藍ちゃん先生って呼んでちょうだい」


「ありがとうございます。瀬川先生」


「警戒心の強い子ね」


 藍子はエプロンの縁を軽く叩いてから立ち上がり、体育館の壁まで戻って行った。


「藍ちゃん先生って呼ばれてたのかな? 綺麗な先生だよね」


「うん。男子生徒に人気出そう」


「うみちゃん、あまりそうゆうこと言うとセクハラって言われるよ」


「厳しい世の中だなぁ」


「……それにしても、瀬川藍子って名前すごく聞き覚えあるんだよね」


 ひたすら寸劇をしている卓球部の先輩を無視して、侑希は髪を指先でいじりながら考え始める。海のデータベースには、同姓同名の人間はいない。


「思い出せない……」


「縁があるならどこかで思い出せるんじゃない? あのさ、今さらなんだけど委員会ってどこに入るつもりなの?」


「言ってなかったっけ? 文化祭実行委員会だよー」

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